虐待について

どんなことが虐待にあたるのかを、公的な資料の言葉で調べられるようにしました。思いついた言い方のまま入れてください。

すべての項目(488件)

心理的虐待利用者が欲しがっている物を引き合いに出して、言うことを聞かせるのは虐待ですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の類型の一つとして「交換条件の提示」を挙げています。本人が当然享受してよいもの(外出・買い物など)を引き合いに出して行動をコントロールすることが、これに当たります。この枠は令和6年7月の改訂で新たに立てられたもので、グレーゾーンではなく類型表に載っている虐待そのものです。愛知県の研修資料でも同じ文言が心理的虐待の具体例として示されています。

「これができたら外出させてあげる」「買いたいならこれをしてからにしなさい」などの交換条件を提示する。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待「言うことを聞かないと好きなものが買えなくなりますよ」と言うのは、注意の範囲ではありませんか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の第一類型を「威嚇的な発言、態度」とし、その具体例として「給料もらえないですよ」「好きなもの買えなくなりますよ」を挙げ、「などと威圧的な態度を取る」と結んでいます。本人が当然受け取れるはずのお金や買い物を引き合いに出して従わせる型です。注意や指導という名目でも、虐待性は失われません。

「給料もらえないですよ」「好きなもの買えなくなりますよ」などと威圧的な態度を取る。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待「そんなことをするならここにいられなくなるよ」と言ってしまいました。虐待になりますか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の具体例として「ここ(施設等)にいられなくなるよ」「追い出す」を挙げ、「などと言い脅す」と分類しています。住む場所を失わせる可能性を示して従わせる言い方は、脅迫にあたります。高齢者向けのマニュアルにも「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」が同じ類型で載っています。

「ここ(施設等)にいられなくなるよ」「追い出す」などと言い脅す。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待冗談のつもりで「バカ」と言ってしまうことがあります。これも虐待ですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の類型「侮辱的な発言、態度」の具体例として、日常的にからかったり侮蔑的なことを言う行為を挙げ、「バカ」「あほ」「死ね」を明記しています。冗談や親しみのつもりであっても、資料はその意図を要件にしていません。同じ類型には、排泄の失敗や食べこぼしを嘲笑する行為も並んでいます。

日常的にからかったり、「バカ」「あほ」「死ね」など侮蔑的なことを言う。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待排泄の介助中に「臭い」と言ってしまいました。虐待にあたりますか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「② 侮辱的な発言、態度」の具体例として、排泄介助の際に「臭い」「汚い」などと言うことを挙げています。高齢者向けのマニュアルにも同じ趣旨の記載があります。介助の場面は本人が最も無防備な場面であり、そこで発せられる言葉は尊厳に直接届きます。

排泄介助の際、「臭い」「汚い」などと言う。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待成人の利用者を子ども扱いした呼び方をするのは、親しみの表現では駄目ですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「② 侮辱的な発言、態度」の具体例として「子ども扱いするような呼称で呼ぶ。」を明記しています。高齢者向けのマニュアルにも同文があります。平成30年6月版の手引きでは「成人の障害者を子ども扱いする等自尊心を傷つける。」と、理由まで書かれていました。親しみの意図があっても、呼ばれる側の自尊心を基準に判断されます。

子ども扱いするような呼称で呼ぶ。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待利用者をあだ名や呼び捨てで呼んでいます。本人が嫌がっていなければ問題ないですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「② 侮辱的な発言、態度」の最後に「本人の意思に反して呼び捨て、あだ名などで呼ぶ。」を置いています。「本人の意思に反して」という限定が付いている点が重要で、呼称を決める前に本人の意思を確かめたかが問われます。東京都福祉保健財団のチェックリストも、アセスメントや計画に基づかない呼称を点検項目にしています。

本人の意思に反して呼び捨て、あだ名などで呼ぶ。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待何度も呼ばれて忙しいときに「意味もなく呼ばないで」と言ってしまいました。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の第三類型を「障害者や家族の存在や行為、尊厳を否定、無視するような発言、態度」とし、その具体例に「無視する。」「意味もなく呼ばないで」「どうしてこんなことができないの」を挙げています。高齢者向けのマニュアルにも「意味もなくコールを押さないで」「なんでこんなことができないの」が同じ類型で載っています。呼ばれる回数の多さは、言い方を変えてよい理由にはなりません。

無視する。「意味もなく呼ばないで」「どうしてこんなことができないの」などと言う。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待他の利用者の前で、ある利用者やその家族の悪口を言うのは虐待ですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「③ 障害者や家族の存在や行為、尊厳を否定、無視するような発言、態度」の具体例として、他の利用者に障害者や家族の悪口等を言いふらす行為を挙げています。職場での虐待を扱う手引きにも「他の社員に個人情報を言いふらす。」が同じ類型で載っています。本人のいない場での会話であっても、尊厳を否定する言動として扱われます。

他の利用者に障害者や家族の悪口等を言いふらす。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待トイレに行けるのに、人手が足りない時間帯だけおむつを使ってもいいですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の第四類型を「障害者の意欲や自立心を低下させる行為」とし、トイレを使用できるのに職員の都合を優先して本人の意思や状態を無視しておむつを使うことを具体例に挙げています。「職員の都合を優先し」という動機が要件に書き込まれている点が特徴です。高齢者向けのマニュアルにも同旨の記載があります。

トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待食事に時間がかかるので、こちらで全部介助したり、食べやすいように混ぜたりしています。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「④ 障害者の意欲や自立心を低下させる行為」の具体例として、自分で食事ができるのに全介助をすること、職員が提供しやすいように食事を混ぜること、自分で服薬できるのに食事に薬を混ぜて提供することを挙げています。時間短縮や提供のしやすさという職員側の都合が動機になっている点が共通しています。

自分で食事ができるのに全介助をする、職員が提供しやすいように食事を混ぜる。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待利用者から「家族に伝えてほしい」と言われましたが、伝えていません。問題になりますか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待の第六類型を「心理的に障害者を不当に孤立させる行為」とし、その具体例の筆頭に、本人の家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えないことを置いています。同じ類型には、住所録を取り上げて外部との連絡を遮断すること、面会者が訪れても本人の意思や状態を無視して面会させないことも並びます。高齢者向けのマニュアルにも同文があります。

本人の家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待対応が難しい利用者を外して、他の利用者だけで行事の相談をしました。これは虐待ですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「⑥ 心理的に障害者を不当に孤立させる行為」の具体例として、その利用者以外の利用者だけを集めて物事を決めたり行事を行ったりすることを挙げています。職場での虐待を扱う手引きにも、本人の意思を無視して社内の懇親会や行事等に参加させないことが同じ類型で載っています。集団から外すこと自体が虐待の類型に含まれます。

その利用者以外の利用者だけを集めて物事を決める、行事を行う。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待人員の都合で異性の職員が入浴や排泄の介助に入ることがあります。問題ですか。

厚生労働省の手引きは、心理的虐待「⑦ その他著しい心理的外傷を与える言動」の具体例として、本人の意思に反した異性介助を繰り返すこと、浴室脱衣所で異性の利用者を一緒に着替えさせることを挙げています。愛知県の研修資料も同じ文言を心理的虐待の例に載せ、本人の意思に反する異性介助がなされないよう、サービス管理責任者等が本人の意向を把握し、意向を踏まえた提供体制の確保に努めるべき旨が指定基準の解釈通知に明記されたと説明しています。

本人の意思に反した異性介助を繰り返す。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待しつけや指導のつもりでした。それでも虐待になりますか。

厚生労働省の手引き(平成30年6月版)は、虐待の例示一覧の締めくくりに「しつけや指導と称して行われる上記の行為も虐待です。」と明記しています。同じ欄には「職員のやるべき仕事を指導の一環として行わせる。」も挙げられています。しつけ・指導・療育という名目は、行為の虐待性を打ち消しません。長野県も、しつけ・指導・療育の名の下に不適切な行為が続けられている事案があると注意を促しています。

しつけや指導と称して行われる上記の行為も虐待です。
心理的虐待「そんなことをすると外出させない」と言うのは、約束事の確認ではないのですか。

厚生労働省の手引き(平成30年6月版)は、心理的虐待の一覧に「そんなことすると外出させない」を挙げ、「等言葉による脅迫。」と分類しています。この一覧の冒頭には、しつけや指導と称して行われる行為も虐待である旨が付記されています。外出は本人が当然享受してよいものであり、それを取り上げると告げる言い方は脅迫として扱われます。

そんなことすると外出させない

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待「何度言ったらわかるの」とつい言ってしまいます。虐待でしょうか。

厚生労働省の手引き(平成30年6月版)は、心理的虐待の一覧に「何度言ったらわかるの」を挙げ、「等心を傷つけることを繰り返す。」と説明しています。繰り返しであることが要件として書かれている点が特徴です。千葉市が事業者向けに出した注意喚起でも、「何回言ったら、わかるの!」などと言うことが心理的虐待の具体例として列挙されています。

何度言ったらわかるの

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待職場で障害のある社員に「これができたら辞めなくてもいい」と言うのは問題ですか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、使用者(雇い主)による障害者虐待の類型表にも「⑤ 交換条件の提示」の枠を置き、「これができたら辞めなくてもいい」「辞めたくないならこれをしなさい」を具体例として挙げています。雇用の継続という、本人にとって失えないものを引き合いに出す型です。施設の場面と同じ構造が、職場でも虐待類型として整理されています。

「これができたら辞めなくてもいい」「辞めたくないならこれをしなさい」

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第3号

心理的虐待仕事のできない社員に「できないなら辞めろ」と言うのは、指導ですか虐待ですか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、使用者による障害者虐待の心理的虐待「① 威嚇的な発言、態度」の具体例として「できないなら辞めろ」「辞めてもらうことになる」「退職届持ってこい」を挙げ、「などと言い脅す」と結んでいます。雇用を失わせると告げる言い方が、脅す行為として類型化されています。

「できないなら辞めろ」「辞めてもらうことになる」「退職届持ってこい」

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第3号

心理的虐待職場で「使えない」「給料泥棒」と言われています。これは虐待として扱われますか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、使用者による障害者虐待の心理的虐待「② 侮辱的な発言、態度」の具体例として「使えない」「クズ」「無能」「給料泥棒」「何をやらせてもダメ」「じゃま」「頭おかしい」「お前は嫌われている」を列挙しています。同じ類型には「障害者だからって甘えるな」「支援者がいないと何もできないのか」も挙げられています。使用者による虐待は、市町村・都道府県への通報のほか、都道府県労働局が認定を行います。

「使えない」「クズ」「無能」「給料泥棒」「何をやらせてもダメ」「じゃま」「頭おかしい」「お前は嫌われている」

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第3号

心理的虐待体調が悪くて休んだら「ずる休みするな」と言われました。虐待にあたりますか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、使用者による障害者虐待の心理的虐待の具体例として、体調が悪く休んだことに対し「ずる休みするな」などと言うことを挙げています。同じ類型には、容姿を侮辱する発言として「ブス」も挙げられています。体調不良による欠勤を責める言葉が、虐待の類型表に明示されています。

体調が悪く休んだことに対し「ずる休みするな」などと言う。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第3号

心理的虐待「どうせできないだろう」と考えて仕事を任せないのは、配慮ではないのですか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、使用者による障害者虐待の心理的虐待「④ 障害者の意欲や自立心を低下させる行為」の具体例として、どうせできないと決めつけて仕事を与えないことを挙げています。同じ類型には、本人が仕事を要求しているのに「いそがしい」と言って取り合わないこと、本来の仕事ではないお茶くみや草むしり等の過小な仕事ばかり与えることも並んでいます。決めつけそのものが虐待類型に名指しされています。

どうせできないと決めつけて仕事を与えない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第3号

心理的虐待本人の同意なく、職場の同僚に障害の内容を伝えてもいいですか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、使用者による障害者虐待の心理的虐待「③ 存在や行為、尊厳を否定、無視するような発言、態度」の具体例として、本人の意思に反して障害の内容を他の社員に伝えることを挙げています。同じ類型に「他の社員に個人情報を言いふらす。」も並びます。障害名や病名を本人の同意なく共有することが、虐待の類型として整理されています。

本人の意思に反して障害の内容を他の社員に伝える。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第3号

心理的虐待家庭で、台所や洗濯機を使わせないようにしています。これは虐待ですか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、養護者による障害者虐待の心理的虐待の具体例として、台所や洗濯機を使わせないなど生活に必要な道具の使用を制限すること、家族や親族、友人等との団らんから排除することを挙げています。同じ欄には、排泄交換や片づけをしやすいという目的で本人の尊厳を無視してトイレに行けるのにおむつをあてたり食事の全介助をすることも並んでいます。

台所や洗濯機を使わせないなど、生活に必要な道具の使用を制限する。家族や親族、友人等との団らんから排除する。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第6項第3号

心理的虐待高齢の利用者に「ここにいられなくしてやる」と言うのは虐待ですか。

厚生労働省老健局のマニュアルは、養介護施設従事者等による高齢者虐待の心理的虐待「① 威嚇的な発言、態度」の具体例として「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」を挙げています。同じ類型の筆頭には「怒鳴る、罵る。」が置かれています。障害者向けの手引きと同じ構造で整理されています。

「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」
心理的虐待排泄の失敗や食べこぼしのことを、人前で話してしまいました。

厚生労働省老健局のマニュアルは、養護者による高齢者虐待の心理的虐待の具体例として、老化現象やそれに伴う言動などを嘲笑したり、それを人前で話すなどにより高齢者に恥をかかせること(排泄の失敗、食べこぼしなど)を挙げています。人前で話すこと自体が問題として明示されている点が重要です。同じ欄には「侮蔑を込めて、子どものように扱う。」も並んでいます。

老化現象やそれに伴う言動などを嘲笑したり、それを人前で話すなどにより、高齢者に恥をかかせる(排泄の失敗、食べこぼしなど)。
心理的虐待保育や教育の場で、大声で叱ることが続いています。虐待と言われますか。

こども家庭庁と文部科学省のガイドラインは、保育所等の職員によるこどもへの心理的虐待の具体例として「ことばや態度による脅かし、脅迫を行うなど」「感情のままに、大声で指示したり、叱責したりする など」を挙げています。同ガイドラインは、日々の行為の延長に虐待があると解するべきであると述べ、1つ1つが虐待に当たらなくても繰り返しによって虐待になり得ると説明しています。

感情のままに、大声で指示したり、叱責したりする など
心理的虐待冗談で「生まれてこなければよかった」と言ってしまいました。どれくらい重いことですか。

厚生労働省の検討会がまとめた資料は、「冗談のつもりで、お前なんか生まれてこなければよかったなど、子どもの存在を否定するようなことを言った」例を挙げ、子どもの心を傷つける行為です、と断じています。同資料は、子どもをけなしたり、辱めたり、笑いものにするような言動は子どもの権利を侵害するとし、怒鳴りつけたり心を傷つける暴言等も健やかな成長・発達に悪影響を与える可能性があるとしています。冗談という前置きは免罪符になりません。

お前なんか生まれてこなければよかった
心理的虐待やる気を出させるために、きょうだいと比べて発破をかけました。問題ですか。

厚生労働省の検討会がまとめた資料は、「やる気を出させるという口実で、きょうだいを引き合いにしてけなした」例を挙げ、子どもの心を傷つける行為です、と断じています。動機がやる気を出させることであっても、けなす・辱める・笑いものにする言動は権利侵害だという整理です。障害者福祉の現場でも、他の利用者と比べて発奮させようとする言い方は同じ構造を持ちます。

やる気を出させるという口実で、きょうだいを引き合いにしてけなした
心理的虐待利用者の話し方や歩き方を真似して笑うのは、場を和ませるためでも駄目ですか。

厚生労働省の精神障害者虐待事実確認チェックシートは、心理的虐待の各虐待事項の例示として、障害に伴う言葉遣いや歩き方を興味本位で真似し、行為・行動を嘲笑されることを挙げています。このシートは、行政が立入検査で事実確認を行う際に用いるものです。厚木市のネットワーク会議が作った自己チェックリストにも、利用者の言葉や歩き方等の真似をしたことがあるか、という項目があります。

障害に伴う言葉遣いや歩き方を興味本位で真似し、行為・行動を嘲笑される
心理的虐待職員が無視や拒絶的な態度をとっているのを見ました。行政はどこを見ますか。

厚生労働省の精神障害者虐待事実確認チェックシートは、心理的虐待の例示の筆頭に、業務従事者の暴言や拒絶的な態度、意図的な無視をされる等、人格をおとしめるような扱いを受けていることを掲げています。同じ欄には、無視、暴言、乱暴な扱い、締め出し、懲罰的な扱いを受けていること、呼び捨てやあだ名、子どものような呼称で呼ばれることも並んでいます。行政が事実確認で確かめる項目そのものです。

業務従事者の暴言や拒絶的な態度、意図的な無視をされる等、人格をおとしめるような扱いを受けている
心理的虐待利用者に友達感覚で接しています。距離が近いほうが良い支援ではないですか。

東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」は、入所施設版・通所サービス版・訪問サービス版のいずれも第1項目に、利用者に友達感覚で接したり子供扱いしたりしていないかを置いています。第2項目は、アセスメントや計画に基づかずにあだ名や呼び方をしていないかです。計画に位置づけずに始まった距離の詰め方が、虐待の芽として点検対象になっています。

利用者に友達感覚で接したり、子供扱いしたりしていませんか?
心理的虐待つい命令口調で「ダメ!」と言ってしまいます。これは点検の対象になりますか。

東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」第3項目は、利用者に対して威圧的な態度、命令口調(「○○して」「ダメ!」など)で接していないかを問うています。3つの版すべてに共通する項目です。全国社会福祉協議会の職員セルフチェックリストにも、説明はわかり易い言葉で丁寧に行い、威圧的な態度、命令口調にならないようにしているか、という項目があります。

利用者に対して、威圧的な態度、命令口調(「○○して」「ダメ!」など)で接していませんか?
心理的虐待急いでいるとき、声をかけずに介助を始めてしまいます。問題になりますか。

東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」第4項目は、利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触ったりしていないかを問うています。声をかけないこと自体がチェック項目になっている点が重要です。神奈川県が本人・家族から集めた声にも、声掛けなしにベッドから車椅子に移乗させられたことを虐待だと感じた、という記述があります。

利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触ったりしていませんか?
心理的虐待職員同士で利用者の話をすることがあります。どこまでが許されますか。

東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」第5項目は、利用者のプライバシーに配慮せず、職員同士で話題にしたり個人情報を取り扱ったりしていないかを問うています。第11項目には、利用者や家族の言動をあざ笑ったり悪口を言ったりしていないか、第12項目には、排泄について大声で話すなどプライバシーへの配慮に欠けたケアをしていないかが置かれています。話す場所と内容の両方が点検されます。

利用者のプライバシーに配慮せず、職員同士で話題にしたり個人情報を取り扱ったりしていませんか?
心理的虐待トイレに行きたいと訴える方に「さっきも行ったでしょ」と言ってしまいました。

日本介護福祉士会が行った実態調査の報告には、職員の自由記述として「スピーチロック トイレに行きたい利用者にさっきも行ったでしょ!」という記述が載っています。分類の見出しは「言葉による身体的あるいは精神的な行動抑制」です。同じ分類には「不適切に「待って」と言う。」「説明ないちょっと待ってね」「「ちょっとお待ちください」の乱用。」も並びます。行きたいという訴えを回数で退ける言い方が、行動抑制として整理されています。

スピーチロック トイレに行きたい利用者にさっきも行ったでしょ!
心理的虐待危ないので「そっちに行かないで」と止めるのは、安全のためだから問題ないですよね。

日本介護福祉士会の実態調査の報告には、職員の自由記述として「また、そっちに行く、危ないでしょ」という声かけが挙げられ、記述者自身が行動を静止するときの声かけだと説明を付しています。分類は「声かけ、言葉遣いや態度(威圧的・暴力的、尊厳を損ねるような言動等)」です。安全のためという目的があっても、言い方によっては行動抑制として点検の対象になります。

また、そっちに行く、危ないでしょ
心理的虐待「帰りたい」と言う方に、施設にいるように説得しています。これは不適切ですか。

日本介護福祉士会の実態調査の報告には、職員の自由記述として「帰りたいという方を施設に居るように言う」が挙げられ、「声かけ、言葉遣いや態度」の分類に置かれています。住む場所についての本人の訴えを言葉で抑える型です。住まいの選択は本人の意思決定の中核にあたるため、説得の前に意思をどう受け止めたかが問われます。

帰りたいという方を施設に居るように言う
心理的虐待本人の前で、排泄のことを他の職員に伝えてしまいました。

日本介護福祉士会の実態調査の報告には、職員の自由記述として、利用者の排泄のことについて本人の前で周りの職員にも聞こえるような声で話していることがある、という記述が載っています。本人の目の前で、という条件が明記されている点が特徴です。同じ調査には、排泄ケア時や更衣時のプライバシーの配慮が欠けていた、という記述も並んでいます。

利用者様の排泄の事について、ご本人の前で周りの職員へも聞こえる様な声で話している事が有る。
心理的虐待同じ話を何度も繰り返す方に、つい反応しなくなってしまいます。

日本介護福祉士会の実態調査の報告には、職員の自由記述として「何度も同じことを繰り返す利用者を無視する」が挙げられています。同じ調査には、状況的に傾聴できる場面でも訴えに耳を傾けない(聞こえないふりをする)という記述、業務量が過大なため利用者の声を無視した事例も載っています。繰り返しの多さは、応じない理由としては扱われていません。

何度も同じことを繰り返す利用者を無視する
心理的虐待帰省や外出を事業所の判断で制限することはできますか。

厚木市高齢者・障害者虐待防止ネットワーク会議の自己チェックリストは、「利用者への強要制限」の区分に、自由な帰省、面会、外出を一方的に制限したことがあるか、日用品等の購入を制限したことがあるか、という項目を置いています。一方的に、という言葉が使われている点が重要で、本人の意思や計画上の根拠がないまま事業所側の都合で決めることが点検対象になっています。

自由な帰省、面会、外出を一方的に制限したことがある。
心理的虐待特定の利用者にだけ、つい素っ気ない態度をとってしまいます。

全国社会福祉協議会の職員セルフチェックリストは、ある特定の利用者に対して、ぞんざいな態度・受答えをしてしまうことがあるか、という項目を置いています。同じリストには、利用者の人格を尊重し接し方や呼称に配慮しているか、利用者の意見や訴えに対し無視や否定的な態度をとらないようにしているか、といった項目も並びます。特定の相手にだけ態度が変わることが、点検の対象として名指しされています。

ある特定の利用者に対して、ぞんざいな態度・受答えをしてしまうことがある。
心理的虐待「○○さん臭いよ」と大きな声で言ってしまいました。実際に虐待と認定された例はありますか。

東京都福祉保健財団の研修資料は、高齢者施設で実際に起きた心理的虐待の事案例として「○○さん臭いよ」と大声で発言したケースを掲げています。同じ欄には、名前の呼び捨て、乱暴な声がけ、きつい口調で食事介助、利用者の訴えの否定、「いい加減にしろ」と高圧的に発言、頻回なナースコールを叱責、といった事案も並んでいます。資料は、厚生労働省の調査研究事業報告書から実際の虐待事案例を抜粋したものと明記しています。

「○○さん臭いよ」と大声で発言
心理的虐待「いい加減にしろ」と強い口調で言ってしまいました。認定された例はありますか。

東京都福祉保健財団の研修資料は、実際に起きた心理的虐待の事案例として「いい加減にしろ」と高圧的に発言したケース、頻回なナースコールを叱責したケースを掲げています。児童分野の手引きでも「いい加減にして!」が感情を爆発させた怒声として不適切なかかわりに分類されています。強い口調そのものが、事案として記録され得ます。

「いい加減にしろ」と高圧的に発言
心理的虐待子どもに「言うことを聞かないと外出なし」と言うのは、ルールの確認ではないのですか。

児童養護施設等の手引きは、「不適切なかかわり」の区分の「必要以上の行動制限」の例として「○○だと外出なし!」を挙げています。同じ手引きは、不適切なかかわりは被措置児童等虐待に陥る危険をはらむとし、虐待は「このくらいなら」といった権利侵害の小さな出来事からエスカレートしやすいと説明しています。外出を取り上げると告げる型は、障害者虐待の類型表では交換条件の提示にあたります。

○○だと外出なし!
心理的虐待他の利用者と比べて注意することがあります。周りへの影響もありますか。

児童養護施設等の手引きは、厚生労働省の実施状況から抜粋した実際の心理的虐待の事案として、職員が児童に対し他の児童と比較したり、当該児童が傷つく言動を行い、他の児童もその状況を見て恐怖心を抱いた例を掲げています。保育のガイドラインも、他のこどもとは著しく差別的な扱いをすることを心理的虐待の具体例に挙げています。比較して叱ることは、本人だけでなく場全体に影響します。

職員が、児童に対し他の児童と比較したり、当該児童が傷つく言動を行った。他の児童もその状況を見て恐怖心を抱いた。
心理的虐待みんなの前で利用者を注意するのは、よくあることではないですか。

愛知県の研修資料は、無意識の思い込みから生じる「ちょっと気になる対応」の例として、他の利用者さんがいる前で利用者さんを注意することを挙げ、その背後にある思い込みを「利用者さんをみんなの前で、すぐに注意していいと思ってしまう」と説明しています。同資料は、訴えに対して故意に無視する、利用者の言動をからかう、指示・命令口調で話す、不安になるような言葉を掛ける、個人より集団生活を優先する、本人の意思を無視して勝手に決めてしまう、といった対応も気になる対応として列挙しています。

③ 他の利用者さんがいる前で、利用者さんを注意する ←利用者さんをみんなの前で、すぐに注意していいと思ってしまう
心理的虐待「○○しないと××できません」という言い方は、支援の説明ではありませんか。

愛知県の従業者向け研修資料は、心理的虐待の類型を列挙するなかで「⑤交換条件の提示」として「○○しないと××できません」という言い方を挙げています。あわせて「なんでこんなこともできないの」「親のしつけが悪い」を存在や尊厳を否定する発言の例として、トイレに行けるのにオムツを使用する等の過剰な介助を意欲や自立心を低下させる行為の例として示しています。交換条件型の最も簡潔な定式が、県の資料に明示されています。

⑤交換条件の提示 「○○しないと××できません」

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第3号

心理的虐待心理的虐待は、どんな経緯で発覚することが多いのですか。

愛知県が県内事案の特徴として整理した資料は、心理的虐待について、長時間かけて虐待者の言動がエスカレートし、新人職員が不適切と感じて管理者に相談するも曖昧な対応のため、退職して匿名での通報に至る、という発覚の経緯を記述しています。事業所像として、職員の言動に疑問を感じた職員がいても、管理者等であっても当該職員に注意・指導ができない状態が挙げられています。具体的な行為には、暴言、名前の呼び捨て、命令口調、目の前で物を投げる、不安を煽る発言が並びます。

長時間かけて、虐待者の言動がエスカレート。新人職員が不適切と感じて、管理者に相談するも曖昧な対応のため、退職して匿名での通報に至る。
心理的虐待長年の関係があるので、多少きつい冗談も許されるのではないですか。

栃木県の事例集には、就労継続支援B型で管理者が作業に失敗した利用者に「バカ」と発言し、生活支援員がハリセンで頭を叩いた事例が載っています。加害者は長年の関係性の中で親しみを持って行ったこと、コミュニケーションの一つであること、この程度で虐待とは大袈裟であることを主張し、被害者本人も昔からのことで気にしていないと述べていましたが、本人の自覚を問わず虐待と認定され、臨時指導監査が行われました。

長年の関係性の中で親しみを持って
心理的虐待療育のためであれば、体に道具を使って感覚に慣れさせてもいいですか。

栃木県の事例集には、放課後等デイサービスで保育士ほか職員3名が、発達障害のある小学校低学年の児童4名に対し、感覚過敏の矯正と称して体に粘着テープを二重に巻いた事例が載っています。「くさい」などの暴言もありました。行為を疑問視する職員はいたものの、勤務年数の短い者が意見を言いにくい職場環境で言えず、通報の約半年前に法人本部へ意見が寄せられていたのに何ら対応されていませんでした。心理的虐待と認定され、改善勧告が行われました。

感覚過敏の矯正と称して体に粘着テープを二重に巻いた
心理的虐待利用者が悔しがる姿を見て笑ってしまいました。コミュニケーションのつもりでした。

札幌市の集団指導資料には、施設入所支援の支援員が利用者の課題を奪って逃げ、本人が追いかけたが追い付けず悔しがっている姿を見て笑っていた事例が載っています。支援員はコミュニケーションの一環と主張しましたが、市は利用者に嫌がらせをして反応をおもしろがっていると判断し、本人の尊厳を著しく傷つける侮辱行為として心理的虐待と認定しました。通報者は施設管理者でした。

利用者に嫌がらせをして反応をおもしろがっている
心理的虐待親しみを込めた「ちゃん付け」でも虐待になるのですか。

川崎市の集団指導資料には、利用者の希望や必要性を考慮せず一方的に利用者をちゃん付け・君付け・呼び捨てで呼んだ事例が、心理的虐待として掲載されています。市の解説は、子ども扱いするような呼称、立場の違いを強調するような呼称と考えられ、本人が許容している又は必要性がある場合等を除き心理的虐待にあたる、職員自身に虐待の意図はなくむしろ親しみを持っていたとしても当該行為が虐待になり得る、としています。事前に確認・検討した場合は議事録やケアプランに記録を残すよう求めています。

職員自身に虐待の意図はなく、むしろ利用者に親しみを持っていたとしても、当該行為が虐待になり得る
心理的虐待本人が嫌がっていないように見えたので、その場では注意しませんでした。

川崎市の集団指導資料には、職員が認知症のある利用者の頭部に500mlのペットボトルを乗せて談笑し、それを目撃した別の職員も、利用者に嫌がっている素振りが見られなかったこともあり注意せず一緒になって笑っていた事例が載っています。市の解説は、虐待の意図がなくとも高齢者の尊厳を傷つけたり軽んじる行為は心理的虐待に該当する、としています。同じ資料にはボールペンのノック部分を額に押し当てた例、丸めた紙を投げた例も並んでいます。

虐待の意図がなくとも、高齢者の尊厳を傷つけたり、軽んじる行為は心理的虐待に該当
心理的虐待自治体は、心理的虐待についてどんな注意喚起を出していますか。

千葉市が事業者向けに出した通知は、冒頭に、市への通報や届出状況から最近、心理的虐待と思われるような案件が増えています、と明記しています。具体例として、「バカ」「あほ」などと怒鳴る、「使えない、役立たず、親の顔が見たい、生きている価値がない」など悪口をいう、いつも命令口調で話す、「何回言ったら、わかるの!」などと言う、「そんなことしたら、外出させない」などと言う、仲間外れにする、いつもわざと無視する、子ども扱いや物扱い、言動をおもしろおかしく真似する、不当な差別的言動をする、を列挙し、言葉は人を傷つける武器になります、と結んでいます。

言葉は人を傷つける武器になります
心理的虐待無視や暴言は、行政の評価では軽いほうに入るのですか。

大阪府の市町村職員向けマニュアルの巻末にあるリスクアセスメントシートは、虐待該当行為を重度・中度・軽度に分けて具体列挙しています。軽度には、一定期間、無視・暴言・乱暴な扱い・締め出し・懲罰的な取扱いを受けていることが挙げられています。中度には、常時ではないが向精神薬を過剰に服用させる、部屋に閉じ込める、つなぎ服を着せるなど3要件の判断や必要な手続きがない身体拘束、外出・通信が著しく制限されること、他の利用者から受ける暴力・暴言等を含む虐待を放置することが並びます。

一定期間、無視・暴言・乱暴な扱い・締め出し・懲罰的な取扱いを受けている
心理的虐待薬を最初からご飯に混ぜて出しています。飲みやすくするためですが。

神奈川県の施設職員向けの手引きは、本人・家族へのアンケートで集めた「身体的虐待と感じられた行為」を加工せず列挙しており、その中に、最初から粉薬をご飯に混ぜてしまうこと、大きなスプーンで口一杯に入れるためむせること、声掛けなしにベッドから車椅子に移乗させたことなどが並んでいます。厚生労働省の手引きも、自分で服薬ができるのに食事に薬を混ぜて提供することを心理的虐待の例に挙げています。和歌山県の集団指導資料も、説明と同意のない薬をご飯に混ぜての服薬支援を不適切なケアの例としています。

最初から粉薬をご飯に混ぜてしまう
心理的虐待反応を見たくてやってしまった行為も、虐待になりますか。

江戸川区の資料には、施設の介護職員が「やめてよ」と声をあげて拒否を訴えている利用者に対して、車椅子を大きく揺する危険行為を繰り返し行い、心理的虐待と認定された事例が載っています。当該職員は、反応を見たかった、コミュニケーションをとっているつもりだったと述べており、虐待に該当するとの認識がありませんでした。区はこれを、高齢者虐待に関する正しい知識や意識がないために起こってしまった事例と整理しています。

反応を見たかった。コミュニケーションをとっているつもりだった
心理的虐待同僚から暴言を受けているのを見た場合、職場の虐待として通報できますか。

厚生労働省が公表した令和6年度の使用者による障害者虐待の事例には、知的障害のある方が特定の同僚職員から暴言を浴びせられていた事案について、同僚からの通報を端緒に事業主へ防止措置を指導した例が心理的虐待として載っています。また、同僚の粗暴な言動を理由にカバー業務を断ったところ使用者から「我慢してくれ」と言われた事案が、放置等による虐待として扱われています。

同僚の粗暴な言動を理由にカバー業務を断ったところ使用者から「我慢してくれ」と言われた

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項

心理的虐待家族から「本人に伝えてほしい」と頼まれた話を、忙しくて伝えませんでした。

厚生労働省の手引き 表-1 の心理的虐待⑥「心理的に障害者を不当に孤立させる行為」には、本人・家族から伝えてほしいと言われた訴えを理由なく無視して伝えないこと、面会に来た人を本人の意思を無視して会わせないことが挙げられています。「取り上げる」「遮断する」と並んで「伝えない」が置かれている点が重要です。忘れていたことが繰り返されれば、外部との連絡遮断と同じ効果を生むという評価です。外部との接触を細らせる行為は、それ自体が重い非難の対象になります。

心理的虐待自分でできることまで介助してしまうのは、親切なのでは。

厚生労働省の手引き 表-1 の心理的虐待④「障害者の意欲や自立心を低下させる行為」には、トイレを使えるのにおむつを使う、自分で食事ができるのに全介助する、自分で服薬できるのに食事に薬を混ぜる、職員が提供しやすいように食事を混ぜる、といった例が挙げられています。判定の軸は、職員の都合を優先し本人の意思や状態を無視しているかどうかです。高齢者虐待対応マニュアルにも「トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う」が同旨で置かれています。やってあげすぎが虐待になる唯一の類型です。

・トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う
心理的虐待心理的虐待の具体例には、どんな言葉が挙がっていますか。

高齢者虐待対応マニュアルの心理的虐待の類型には、威嚇として怒鳴る・罵る、「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」と脅すこと、侮辱として排せつの失敗や食べこぼし等を嘲笑する、「死ね」など侮蔑的なことを言う、排せつ介助の際に「臭い」「汚い」と言う、子ども扱いするような呼称で呼ぶこと、否定・無視として「意味もなくコールを押さないで」「なんでこんなことができないの」と言う、話しかけやナースコールを無視することが挙げられています。その他の欄には、車椅子での移動介助の際に速いスピードで走らせ恐怖感を与えること、本人の意思に反した異性介助を繰り返すことも含まれます。

・「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」などと言い脅す
心理的虐待「ここにいられなくなるよ」と言うことは虐待になりますか。

同じ「威嚇的な発言、態度」の項には「給料もらえないですよ」「好きなもの買えなくなりますよ」などと威圧的な態度を取ることも挙がっています。後者は利益の剥奪を示唆する威圧であり、「モノで釣る」ことの裏返しにあたる形です。転居の場面で「引っ越さないとここにはいられない」「うちでは見られなくなる」という含意を伝えれば、文言上ほぼそのままこの例に当たります。手引きの表-1は虐待行為の具体的な例を類型ごとに示したものです。

① 威嚇的な発言、態度 【具体的な例】 ・怒鳴る、罵る。 ・「ここ(施設等)にいられなくなるよ」「追い出す」などと言い脅す。 ・「給料もらえないですよ」「好きなもの買えなくなりますよ」などと威圧的な態度を取る。 など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第3号

心理的虐待「これをしたら〇〇してあげる」という言い方は虐待にあたりますか。

例示は「これができたら外出させてあげる」「買いたいならこれをしてからにしなさい」の2つで、いずれも本人がしたいことを条件にして職員の望む行動を取らせる形です。この類型は金品に限らず、条件をつけて本人の行動に制限を加える構造そのものを捉えています。転居に置き換えれば「引っ越したら新しい家具を買ってあげる」「引っ越さないなら○○はなし」はいずれも同じ形です。モノや外出を引き合いに出して意思を動かそうとした時点で、この類型に入ります。

⑤ 交換条件の提示 【具体的な例】 ・「これができたら外出させてあげる」「買いたいならこれをしてからにしなさい」などの交換条件を提示する。

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第3号

心理的虐待「職員の都合を優先して本人の意思を無視する」ことは、虐待の類型に入っていますか。

例示は、トイレを使用できるのに職員の都合を優先し本人の意思や状態を無視しておむつを使うこと、自分で食事ができるのに職員の都合を優先して全介助にすることです。「職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視して」という定型句が、心理的虐待の判断の軸として置かれています。ただし挙げられている具体例は排泄・食事・服薬という日常生活場面に限られ、住まいの変更は例示されていません。住まいについては共同生活援助ガイドラインの記述が受け皿になります。

④ 障害者の意欲や自立心を低下させる行為 【具体的な例】 ・トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う。 ・自分で食事ができるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視して食事の全介助をする、職員が提供しやすいように食事を混ぜる。 ・自分で服薬ができるのに、食事に薬を混ぜて提供する。 など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第3号

心理的虐待本人抜きで物事を決めることは、虐待の例に挙がっていますか。

同じ項目には、家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えないこと、住所録を取り上げるなど外部との連絡を遮断すること、面会者が訪れても本人の意思や状態を無視して面会させないことが並んでいます。本人抜きで方針を決めてから本人に通告するという進め方は、この例に接続しうる形です。ただし例示は行事を念頭に置いた書きぶりであり、住まいの決定を名指ししてはいません。意思決定支援ガイドラインが会議を「本人参加の下で」と定義していることと表裏の関係にあります。

⑥ 心理的に障害者を不当に孤立させる行為 【具体的な例】 ・本人の家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えない。 ・理由もなく住所録を取り上げるなど、外部との連絡を遮断する。 ・面会者が訪れても、本人の意思や状態を無視して面会させない。 ・その利用者以外の利用者だけを集めて物事を決める、行事を行う。 など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第3号

心理的虐待暴力ではなく言葉だけで押し切る行為も、虐待の対象になりますか。

宗教加入の強制は、暴力を伴わず言葉だけで本人の内心の選択を押し切る行為が心理的虐待になることを示す例です。異性介助の例は「繰り返す」と書かれており、単発なら格別、反復することが虐待性を高めるという評価軸を示しています。「嫌がっても言い続ける」という態様は、この反復性の軸に乗ります。⑦は「その他著しい心理的外傷を与える言動」という受け皿の類型です。

⑦ その他著しい心理的外傷を与える言動 【具体的な例】 ・車いすでの移動介助の際に、速いスピードで走らせ恐怖感を与える。 ・自分の信仰している宗教に加入するよう強制する。 ・利用者の顔に落書きをして、それをカメラ等で撮影し他の職員に見せる。 ・利用者の前で本人の物を投げたり蹴ったりする。 ・本人の意思に反した異性介助を繰り返す。 ・浴室脱衣所で、異性の利用者を一緒に着替えさせたりする。 など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第3号

心理的虐待「バカ」「あほ」と言うことは虐待だと、はっきり書かれていますか。

同じ項目には、排泄の失敗や食べこぼしなどを嘲笑すること、排泄介助の際に「臭い」「汚い」などと言うこと、子ども扱いするような呼称で呼ぶこと、本人の意思に反して呼び捨てやあだ名で呼ぶことが並んでいます。栃木県の手引き・事例集にも同じ具体語が印刷されています。大阪府のマニュアルにはこの具体語は印刷されておらず、「怒鳴る、ののしる、悪口を言う」「人格をおとしめるような扱いをする」という書き方になっています。

② 侮辱的な発言、態度 【具体的な例】 ・排泄の失敗や食べこぼしなどを嘲笑する。 ・日常的にからかったり、「バカ」「あほ」「死ね」など侮蔑的なことを言う。 ・排泄介助の際、「臭い」「汚い」などと言う。 ・子ども扱いするような呼称で呼ぶ。 ・本人の意思に反して呼び捨て、あだ名などで呼ぶ。など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第3号

心理的虐待高齢分野の資料でも、同じような判断基準が使われていますか。

「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」などと言い脅すことが威嚇的な発言・態度の例として挙げられ、職員の都合を優先し本人の意思や状態を無視しておむつを使う・全介助にすることが意欲や自立心を低下させる行為の例として挙げられています。高齢分野では「居宅」も含む書きぶりになっている点が障害分野より広くなっています。なお、高齢者虐待マニュアルに「退所強要」「追い出し」を独立の虐待類型として扱った記述はありません。マニュアル中の「説得」の用例は、いずれも市町村が虐待対応として養護者を説得する文脈です。

① 威嚇的な発言、態度 ・怒鳴る、罵る。 ・「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」、「追い出すぞ」などと言い脅す。 など
心理的虐待おやつを「片付けが終わってから」にするのは支援の工夫ですか

米国の HCBS セッティング規則は、個人が自らのスケジュールと活動をコントロールする自由と支援を有し、いつでも食べ物にアクセスできることを、事業者所有・管理の居住施設の要件として定めています。この条件を変更する場合には、個別にアセスメントされた具体的な必要性に裏づけられ、本人中心サービス計画において正当化されなければなりません。権利がまず既定として置かれ、制限が例外という順序になっています。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、「言うことを聞いたらおやつ」という運用が権利を交渉材料に降格させていることを示す枠組みです。

Individuals have the freedom and support to control their own schedules and activities, and have access to food at any time

根拠:42 CFR 441.301(c)(4)(vi)(米国連邦規則・HCBSセッティング規則)

心理的虐待言葉による虐待は、身体的虐待より軽いものとして扱われますか

米国の ICF/IID 参加条件を定める連邦規則は「施設職員は、身体的・言語的・性的・心理的な虐待または罰を用いてはならない」と規定しています。長期ケア施設の規則でも同様に「言語的・精神的・性的・身体的虐待、体罰、非自発的隔離を用いてはならない」と列挙されています。いずれも言葉による虐待が独立の類型として、身体的虐待と同じ列に置かれています。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、言葉を「軽い方」と見なさない枠組みの例です。

Not use verbal, mental, sexual, or physical abuse, corporal punishment, or involuntary seclusion

根拠:42 CFR 483.420(d)(1)(i)・42 CFR 483.12(a)(1)(米国連邦規則)

心理的虐待「本人は分かっていないから大丈夫」という説明は通りますか

米国 CMS が実地調査官向けに出している解釈指針は、精神的虐待を「入居者に、屈辱・威圧・恐怖・恥・動揺・品位の低下を経験させる、またはその可能性を持つ、言語的または非言語的な言動」と定義しています。言語的虐待は精神的虐待の一種とされ、声が届く範囲にいる入居者に対する口頭・書面・身振りによる伝達や音声を含み、年齢・理解能力・障害の有無を問わないと明記されています。つまり「本人は理解していないから問題ない」という弁明が、定義の段階で否定されています。これは米国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありませんが、研修で使いやすい一文です。

Verbal abuse includes the use of oral, written, or gestured communication, or sounds, to residents within hearing distance, regardless of age, ability to comprehend, or disability.
心理的虐待「言うことを聞かないなら面会させない」はどう位置づけられますか

米国 CMS の解釈指針は、精神的・言語的虐待の例として、嫌がらせ、あざけり・侮辱・愚弄、威圧の意図で怒鳴ることや覆いかぶさること、そして「入居者を脅すこと。ケアを取り上げること、家族・友人との接触を差し止めることを含むがそれに限らない」、社会的交流や活動から孤立させることを列挙しています。あわせて、職員が提供する知識と能力を持ちながら提供しないことを選ぶ場合も虐待に含めています。これは米国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありませんが、面会や連絡を交換条件にする運用を名指しした記述です。

Threatening residents, including but limited to, depriving a resident of care or withholding a resident from contact with family and friends;
心理的虐待「〜しなければデザート抜き」は虐待になりますか

米国ニューメキシコ州の発達障害支援部門が出す公式ガイドラインは、強化子の条件付き喪失を response cost と定義し、その類型に「望ましい物の全部または一部の条件付き取り上げ(例:『〜しなければデザート抜き』)」を明記しています。そのうえで、効果の明確な証拠がないまま潜在的に嫌悪的なプログラムを続けることは虐待とみなされうるので、虐待として通報すべきだとしています。実施には人権委員会の最低四半期ごとの承認が必要とされています。これは米国の州ガイドラインであり、日本の法令上の根拠ではありませんが、この行為に「虐待として通報せよ」と踏み込んだ数少ない公的記述です。

Contingent removal of all or part of a desired item (e.g. 'no dessert if you…').
  • Response Cost Guidelines(米国ニューメキシコ州 Health Care Authority, Developmental Disabilities Supports Division, Bureau of Behavioral Support・2024-12-12 改訂) 全4ページ
心理的虐待支援を見直すとき、どんな問いを立てればよいですか

米国ニューメキシコ州の公式ガイドラインは、行動への介入を検討する際の倫理的基準として「自分の人生で受け入れられない介入を、障害のある人に適用してはならない」と明記しています。あわせて点検項目として「本人は好きなことを、『稼ぐ』必要なしに/『失う』脅しなしに、どれくらいできているか」を問うよう求めています。交換条件にすること自体を問題として点検させる設計です。これは米国の州ガイドラインであり、日本の法令上の根拠ではありませんが、事業所内研修の点検票にそのまま写せる問いです。

Any intervention you would not accept in your own life should never be applied to a person with a disability.
  • Response Cost Guidelines(米国ニューメキシコ州 Health Care Authority, Developmental Disabilities Supports Division, Bureau of Behavioral Support・2024-12-12 改訂) 全4ページ
心理的虐待不快なことを条件付きで課すのは、どう規制されていますか

米国ノースカロライナ州の規則は、全面的に禁止される手続として、体罰、苦痛を伴う身体接触の条件付き使用、不快な味の食物、騒音・悪臭・水をかけるといった不快物質の条件付き適用などを列挙しています。禁止条文の中に contingent(条件付き)という語が二度現れ、条件付きで何かを与える/課すという構造そのものが規制の単位として言語化されています。望ましいものを条件付きで取り上げる側は、別条の contingent deprivation として管理対象になっており、両側面が対で規則化されています。これは米国の州規則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

contingent application of any noxious substances which include but are not limited to noise, bad smells or splashing with water

根拠:10A NCAC 27E .0102(米国ノースカロライナ州規則)

心理的虐待精神的な苦痛だけでも虐待に当たりますか

米国カリフォルニア州法は、高齢者または依存成人に対する虐待を、身体的虐待・ネグレクト・遺棄・孤立・拉致、または精神的苦痛をもたらすその他の取扱い、およびケア管理者による必要な物品・サービスの剥奪と定義しています。その他の取扱いという包括条項があり、身体的な行為に限られません。精神的苦痛は別条で、威嚇的な行動・脅迫・嫌がらせ、または動揺させ混乱させ怯えさせる意図をもってなされた欺瞞的行為や誤解を招く発言によって引き起こされる、恐怖・動揺・混乱・重度の抑うつ等と定義されています。これは米国の州法であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Physical abuse, neglect, abandonment, isolation, abduction, or other treatment with resulting physical harm or pain or mental suffering.

根拠:California Welfare and Institutions Code 15610.07・15610.53(米国カリフォルニア州法)

心理的虐待家族からの電話や面会を取り次がないのは、どう扱われますか

米国カリフォルニア州法は、高齢者や依存成人が郵便や電話を受け取ることを妨げる目的で意図的に行われ、実際に妨げる結果となる行為を「孤立」と定義しています。また、本人の明示の意向に反して「本人は不在」「会いたがっていない」といった虚偽を、家族・友人・関係者との接触を妨げる目的で告げることも含まれます。取り次がないという不作為が、法律上の虐待類型として名前を持っている例です。これは米国の州法であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Acts intentionally committed for the purpose of preventing, and that do serve to prevent, an elder or dependent adult from receiving his or her mail or telephone calls.

根拠:California Welfare and Institutions Code 15610.43(米国カリフォルニア州法)

心理的虐待優しく言っているつもりの言葉づかいでも、害はありますか

elderspeak は「高齢者と話すときに言語に加えられる変化」を指し、幼児化コミュニケーション、二次的赤ちゃん言葉、過剰配慮的発話、見下した発話とも呼ばれます。極端に短い文、ゆっくりだが高い声、単純な語彙と文法、「いい子ね」といった親密語、「私たち、お風呂の準備できたかな?」のような一人称複数形が特徴です。研究では、elderspeak が34.6%から13.6%へ減少したとき、ケアへの抵抗も35.7%から15.3%ポイントへ減少しました。悪意がないから問題ないという反論を、データで封じられる材料です。これは海外の研究であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Use of intimate words such as 'good boy/girl' 'sweetie' or 'honey'
心理的虐待支配や強要は、虐待の類型として書かれていますか

英国ケア法2014に基づく法定ガイダンスは、心理的虐待として、情緒的虐待、危害または見捨てるという脅し、接触の剥奪、屈辱、非難、支配、威嚇、強要、嫌がらせ、言語的虐待、ネットいじめ、孤立化、または不合理かつ正当化されないサービスや支援ネットワークの取り上げを列挙しています。ネグレクトの例示には、薬・十分な栄養・暖房といった生活必需品の留保が入っています。英国にはこの領域に「不適切な支援」という中間カテゴリがなく、虐待として通報・調査の対象になります。「移らないなら支援を続けられない」という形の圧力は、サービスの不合理な引き揚げに正面から当たります。これは英国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありません。

Psychological abuse – including emotional abuse, threats of harm or abandonment, deprivation of contact, humiliation, blaming, controlling, intimidation, coercion, harassment, verbal abuse, cyber bullying, isolation or unreasonable and unjustified withdrawal of services or supportive networks.

根拠:Care and Support Statutory Guidance(Care Act 2014)第14章(英国)

心理的虐待お金や好きな活動を制限するのは、よくあることでは

英国の精神保健法行為準則8.7項は、一律制限の具体例として、外界へのアクセス、インターネット、携帯電話と充電器、郵便、面会時間、金銭へのアクセスまたは自分で買い物をする能力、好きな活動に参加することへの制限を列挙しています。そのうえで「こうした慣行は、国のガイダンスにもベストプラクティスにも根拠がない。自立も回復も促進せず、患者の人権を侵害しうる」と述べています。8.6項は、制限を罰したり辱めたりするために導入・適用してはならず、個別に特定されたリスクへの比例的で慎重な対応としてのみ、必要と示せる期間を超えずに適用すべきだと定めています。これは英国の法定行為準則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Such practices have no basis in national guidance or best practice; they promote neither independence nor recovery, and may breach a patient's human rights.

根拠:Mental Health Act 1983: Code of Practice 8.6・8.7(英国)

心理的虐待虐待の定義に、尊厳の喪失は含まれますか

世界保健機関は高齢者虐待を「信頼が期待される関係の中で生じる、高齢者に危害または苦痛をもたらす、単発または反復した行為、あるいは適切な行為の欠如」と定義しています。この暴力は人権侵害を構成し、身体的・性的・心理的・情緒的虐待、経済的・物質的虐待、遺棄、ネグレクト、そして尊厳と敬意の重大な喪失を含むとされています。行為の有無だけでなく、適切な行為の欠如も定義に入っている点、そして尊厳の喪失が独立して挙がっている点が特徴です。これは国際機関の定義であり、日本の法令上の根拠ではありません。

a single or repeated act, or lack of appropriate action, occurring within any relationship where there is an expectation of trust, which causes harm or distress to an older person.
心理的虐待心理的虐待には、どんな行為が挙げられていますか

令和7年8月改訂の保育所等ガイドラインは、心理的虐待の具体例として、ことばや態度による脅かし・脅迫、他のこどもとは著しく差別的な扱いをする、こどもを無視したり拒否的な態度を示す、日常的にからかう、侮蔑的なことを言う、こどもの失敗を執拗に責める、食べこぼしなどを嘲笑する、こどもの大切にしているものを乱暴に扱う・壊す・捨てる、他のこどもと接触させないなどの孤立的な扱い、感情のままに大声で指示したり叱責したりする、を挙げています。これらの具体例は、被措置児童等虐待対応ガイドラインおよび障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引きの例を参照して作成されたと明記されています。保育分野の資料ですが、行為類型の具体化として参照できます。

感情のままに、大声で指示したり、叱責したりする。
心理的虐待「不適切な保育」の類型は、どう分けられていましたか

こども家庭庁の全国実態調査では、不適切な保育の行為類型として、手引きによる5類型が用いられました。①こども一人一人の人格を尊重しない関わり、②物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ、③罰を与える・乱暴な関わり、④こども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり、⑤差別的な関わり、の5つです。②の強要と脅迫的な言葉がけ、③の罰は、交換条件で言うことを聞かせる働きかけに近い領域を扱っています。なおこの5類型を含む「不適切な保育」概念は、令和7年8月改訂のガイドラインで用いられなくなりました。保育分野の資料であり、障害福祉分野の基準そのものではありません。

心理的虐待距離が近いこと自体が、危うくなることはありますか

こども家庭庁の被措置児童等虐待の実施状況は、里親等における発生時の状況として、加害職員(里親)は配偶者にこどもの養育を任せきりにしていた、委託児童を我が子同様に育てたいとの思いから厳しく指導を行っており、こどもがきついと感じていることを認識していたが養育姿勢を変えることはなかった、独自の養育観が強くこどもの成長過程を自身の養育観に当てはめようとする傾向が強かった、こどもとの距離が近く家族のような感覚で接していた、といった記述を収録しています。悪意ではなく、思い入れと独自の基準が発生条件になっている例です。あわせて、高年齢児のホームに年齢が近い職員が配置され、職員やこどもがお互いをいじり合うような雰囲気に至ってしまった例も記載されています。児童分野の資料です。

こどもとの距離が近く、家族のような感覚で接していた
身体的虐待食事を8割以上食べてもらう決まりがあり、嫌がっても食べてもらっています。

日本介護福祉士会の実態調査の報告には、職員の自由記述として、食事を必ず8割以上摂取しなければならないと決まっており、本人が食べたくないにもかかわらず強制して食べさせる、という記述が載っています。記述者自身が、介護者の正しさが強すぎて本来の入居者の望むことと齟齬がある、と説明し、時間をずらす・次の食事で補う・間で補食を取るといった選択肢が考え付かないと続けています。厚生労働省の手引きも、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせることを身体的虐待の例に挙げています。

介護者の正しさが強すぎて本来の入居者の望むこととに齟齬がある。食事を必ず8割以上摂取しなければならないと決まっており、本人が食べたくないにもかかわらず強制して食べさせる。
身体的虐待強度行動障害のある方は、虐待に遭いやすいのでしょうか。

愛知県の研修資料は、いわゆる強度行動障害のある方が虐待に遭いやすいとし、その理由として支援が難しいこと、周囲との衝突が多いことを挙げています。そのうえで、チームで対応し適切な支援を心がけることで問題が軽減するケースもあるとし、強度行動障害支援者研修などの活用を勧めています。県が県内事案から整理した特徴でも、被虐待者に強い行動障害があり、夜勤等の単独勤務時に行動を抑えようとして虐待に至った、という構図が記述されています。

いわゆる「強度行動障害」のある方が虐待に遭いやすい 支援が難しい・周囲との衝突が多い
身体的虐待職員が利用者から殴られたので、とっさに殴り返してしまいました。虐待になりますか。

栃木県の事例集には、短期入所で利用者から顔面を殴られた職員が殴り返した事例が載っています。痣や腫れも生じない程度で、咄嗟の行動で常習性はありませんでしたが、虐待の判断に本人や障害者本人の自覚は問わないとして身体的虐待と認定され、文書指導と加害職員へのアンガーコントロール研修受講となりました。愛知県の研修資料も、虐待をしている・されているという本人の自覚は問わないとしています。

虐待の判断に本人や障害者本人の自覚は問わない

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第1号

身体的虐待移動を嫌がる利用者を、後ろから腰を持ち上げて運んでいます。問題ですか。

川崎市のサイトで公開されている権利擁護推進委員会の報告書には、送迎車へ移動できない利用者を職員が背後から腰を持ち上げて移動させたり、男性職員がベルトをつかんで移動させたりしていた事例が載っています。法律家のコメントは、これらは人の身体に向けられた有形力の行使であり暴行に該当し、外傷がなくても態様によっては身体的虐待に該当するとし、切迫性が認められないためこれだけで正当な理由はない、行為態様によっては性的虐待にあたる可能性もある、としています。複数職員での関わりなどの工夫で、1か月かけて自分で歩いて乗車できるようになりました。

背後から腰を持ち上げ移動する行為及びベルトをつかんで移動させる行為は、人の身体に向けられた有形力の行使であり「暴行」に該当
身体的虐待本人に触れていなければ、身体的虐待にはならないのではないですか。

世田谷区の高齢者虐待類型の資料は、末尾に東京高裁昭和25年6月10日判決を引き、高齢者の身体に接触しなくても、高齢者に向かって危険な行為や身体になんらかの影響を与える行為があれば身体的虐待と認定することができます、と法的整理を示しています。同資料は身体的虐待の例として、本人に向けて物を壊したり投げつけたりすること、刃物を近づけたり振り回したりすることを挙げています。

高齢者の身体に接触しなくても、高齢者に向かって危険な行為や身体になんらかの影響を与える行為があれば身体的虐待と認定することができます
身体的虐待強度行動障害のある方が職員に手を出した直後、とっさに手が出てしまいました。

岡山県の事例集には、噛みつく・叩く・蹴る・器物破損・異食などがある強度行動障害の利用者に頭を叩かれた支援員が、咄嗟に手を出して本人の顔を叩いた事例が載っています。施設は不適切なケアとしてすぐ予防策を講じ市町村へ報告しました。考察には、明確な虐待行為と判断できない不適切行為はグレーゾーンといわれ、その範囲は幅広いと記されています。行政は、手が出やすい状況を作らない、距離をとる、落ち着くタイミングまで待つ、複数対応を助言しました。

明確な虐待行為と判断できない不適切行為は『グレーゾーン』といわれ、その範囲は幅広い
身体的虐待毎日同じやり方で支援を続けていますが、見直しは必要ですか。

岡山県の事例集には、意思表示が困難な利用者の排便を促すため、廊下で腹這いにさせ職員1名がまたがって腰部を強く押した事例が載っています。施設からの報告を受けて事実確認が行われ、身体的虐待として改善・再発防止が指導されました。考察には、意思確認の困難な利用者への支援が日常化するとケアがマンネリ化・作業化し、不適切ケアの慢性化を生む、と記されています。

意思確認の困難な利用者への支援が日常化するとケアがマンネリ化・作業化し、不適切ケアの慢性化を生む
身体的虐待支援のつもりでやったことでも、暴行罪や傷害罪になりますか。

障害者福祉施設の職員が、布団に仰向けに寝ていた利用者の顔面へ、立った状態から右膝を落とすように打ちつけ、被害者は左目を失明しました。神戸地裁は2026年3月10日、傷害罪で有罪(拘禁刑3年・執行猶予5年)としています。動機は「朝から泣きやがって」という怒りで、利用者の行動が引き金であったことは免責になりませんでした。立位から膝を落とすという体重を乗せた一撃は、制止や防御としての説明が成り立たない態様と評価されています。

朝から泣きやがって
身体的虐待「この人とはわかり合えない」と感じ始めたら、どうすればよいですか。

前記の失明事件で、被告人は供述調書のなかで被害者について「この人とはわかり合えない」と感じていたと述べていました。支援関係をあきらめ、見放した気持ちが、暴力の前段にあったことが記録として残った例です。「わかり合えない」と感じ始めた時点で、一人で抱えずに担当を替える・チームで検討するなど、関係を組み替える必要があります。感情そのものは責められませんが、それを抱えたまま一対一の支援を続けることが危険を生みます。

この人とはわかり合えない
身体的虐待新人が先輩のやり方を真似て虐待に加担することはありますか。

神奈川県の障害者支援施設の第三者委員会中間報告書は、強度行動障害の状態にある利用者への専門研修の機会がなく、先輩職員らが暴力や暴言あるいは無言の圧力などで利用者を支配する支援を行っており、後に配属された一部職員が模倣させられる形で虐待行為に加担するに至ったと分析しています。支援方法は勤務歴の長い先輩職員がOJTで口頭伝達しており、専門知識に基づく支援を実施したい職員がいても先輩職員から否定される状態でした。虐待は個人の資質ではなく、伝承される技術として広がります。

身体的虐待転居を渋る人の腕を引いたり荷物を運び出したりした場合はどうなりますか。

具体例には「食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる、飲み物を飲ませる」が挙がっており、「職員の都合で、本人が拒否しているのに」という定型句がここでも使われています。類型名に「代替方法を検討せずに」が入っている点も重要で、他の選択肢を示さないこと自体が虐待性の要素とされています。純粋に言葉だけの場合は心理的虐待側で扱われます。物理的な介入が伴えば、この類型が直接あてはまります。

② 本人の利益にならない強制による行為、代替方法を検討せずに障害者を乱暴に扱う行為 【具体的な例】 ・医学的診断や個別支援計画等に位置づけられておらず、身体的苦痛や病状悪化を招く行為を強要する。 ・介助がしやすいように、職員の都合でベッド等へ抑えつける。 ・車いすやベッド等から移動させる際に、必要以上に身体を高く持ち上げる。 ・食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる、飲み物を飲ませる。 など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第1号

身体的虐待どこからが体罰になるのですか

厚生労働省の検討会がとりまとめた指針は、たとえしつけのためだと親が思っても、身体に何らかの苦痛を引き起こし、または不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止されると明記しています。指針が体罰として挙げる具体例は、言葉で3回注意したけれど言うことを聞かないので頬を叩いた、大切なものにいたずらをしたので長時間正座をさせた、友達を殴ってケガをさせたので同じように子どもを殴った、他人のものを取ったのでお尻を叩いた、宿題をしなかったので夕ご飯を与えなかった、掃除をしないので雑巾を顔に押しつけた、の6つです。児童分野の指針ですが、行為の線引きの考え方として参照できます。

たとえしつけのためだと親が思っても、身体に、何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止される
身体的虐待体罰には、どんな影響があると分かっていますか

体罰等によらない子育てのための指針は、体罰の悪影響として、体罰を受けていた子どもは、落ち着いて話を聞けない、約束を守れない、一つのことに集中できない、我慢ができない、感情をうまく表せない、集団で行動できない、という行動問題のリスクが高まるとの調査研究を引用しています。効果があるどころか、行動上の困難を増やす方向に働くという整理です。児童分野の指針ですが、罰による統制の帰結を示す資料として参照できます。

身体的虐待トイレに行かせない、正座をさせる、は体罰ですか

文部科学省が平成25年に示した参考事例は、肉体的苦痛を与えるものとしての体罰の例に、放課後に児童を教室に残留させ、児童がトイレに行きたいと訴えたが一切室外に出ることを許さないこと、宿題を忘れた児童に対して教室の後方で正座で授業を受けるよう言い、児童が苦痛を訴えたがそのままの姿勢を保持させたことを挙げています。身体に対する侵害としては、危険な行為をした児童の背中を足で踏みつける、反抗的な言動をした生徒の頬を平手打ちする、といった例が示されています。学校教育の分野の資料ですが、拘束や姿勢の強制をどう評価するかの参照になります。

放課後に児童を教室に残留させ、児童がトイレに行きたいと訴えたが、一切、室外に出ることを許さない

根拠:学校教育法第11条

身体的虐待学校での体罰は、実際どのくらい起きているのですか

文部科学省の令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査によれば、公立学校での体罰の発生学校数は327校、発生件数は343件でした。私立は発生学校数110校・126件、国立は2校・3件です。令和5年度に懲戒処分等を受けた教育職員は4,829人で、うち体罰343人、不適切な指導509人という内訳が示されています。件数は前年度より減っているものの、毎年一定数が把握されているという状況です。学校教育の分野の統計であり、障害福祉分野の統計ではありません。

身体的虐待身体的虐待の具体例は、どこまで細かく書かれていますか

令和7年8月改訂の保育所等ガイドラインは、身体的虐待の具体例として、首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、ご飯を押し込む、食事を与えない、戸外に閉め出す、縄などにより身体的に拘束する、意図的にこどもを病気にさせる、といった行為を列挙しています。打撲傷、あざ、骨折、頭部外傷、内臓損傷、刺傷なども挙げられています。食事を与えないことや締め出しが、身体的虐待の側にも書かれている点が特徴です。保育分野の資料であり、障害福祉分野の基準そのものではありません。

戸外に閉め出す、縄などにより身体的に拘束する
身体拘束家で本人を部屋から出られないようにしています。安全のためでも虐待になりますか。

厚生労働省の自治体向け手引きは、養護者による障害者虐待の身体的虐待「④ 正当な理由のない身体拘束」の具体例として、外から鍵をかけて閉じ込めること、中から鍵をかけて長時間家の中に入れないことを挙げています。柱やいすやベッドに縛り付けること、医学的判断に基づかない投薬によって動きを抑制すること、ミトンやつなぎ服を着せることも同じ欄に並びます。安全のためという説明があっても、正当な理由の有無は手続を含めて判断されます。

外から鍵をかけて閉じ込める。中から鍵をかけて長時間家の中に入れない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第6項第1号

身体拘束やむを得ず身体拘束をするとき、満たさなければならない要件は何ですか。

厚生労働省の手引きは、緊急やむを得ない場合を除き身体拘束等を行ってはならないとしたうえで、切迫性(生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いこと)、非代替性(他に代替する方法がないこと)、一時性(行動制限が一時的であること)の3要件を示しています。3要件を全て満たす必要があり、判断は組織的かつ慎重に行います。非代替性は複数職員で確認し、個別支援計画に態様・時間・緊急やむを得ない理由を記載します。

緊急やむを得ない場合とは、支援の工夫のみでは十分に対応できないような、一時的な事態に限定される

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第1号

身体拘束ベッド柵で囲むのは身体拘束にあたりますか。

厚生労働省の手引きは、「身体拘束ゼロへの手引き」から禁止の対象となる身体拘束の具体的行為11項目を引用しています。そこには、自分で降りられないようにベッドを柵(サイドレール)で囲むこと、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛ること、ミトン型の手袋等をつけること、介護衣(つなぎ服)を着せること、向精神薬を過剰に服用させること、自分の意思で開けることのできない居室等に隔離することが並んでいます。

自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第1号

身体拘束姿勢を保つためのベルトも身体拘束になるので、外したほうがいいですか。

厚生労働省の手引きは、肢体不自由、特に体幹機能障害がある利用者が残存機能を活かせるよう安定した着座姿勢を保持するための工夫としてベルト類を装着して身体を固定する行為は、やむを得ない身体拘束ではなく、その行為を行わないことがかえって虐待に該当する、としています。ただし愛知県の研修資料は、座位保持装置等であってもベルトやテーブルをしたまま長時間漫然と放置する行為は身体拘束に該当する場合があるとし、目的や理由を明確にして本人・家族の意見を定期的に確認し個別支援計画に記載することを求めています。

肢体不自由、特に体幹機能障害がある利用者が残存機能を活かせるよう安定した着座姿勢を保持するための工夫としてベルト類を装着して身体を固定する行為
身体拘束落ち着かないときに居室に入ってもらうことが日常になっています。大丈夫でしょうか。

愛知県の研修資料は、行動障害のある利用者が他の利用者を叩く、噛みつく、自分の顔面を強く叩き続けるといった場合に、やむを得ず居室に隔離したり身体を拘束したりする場面があり得るとしつつ、必要性を慎重に判断し範囲を最小限にし、適切な手続きを踏む必要があるとしています。そのうえで、行動制限が日常化すると切迫性・非代替性・一時性のいずれも該当しなくなり、いつの間にか身体的虐待を続けている状態に陥りかねない、と警告しています。

行動制限をすることが日常化してしまうと「切迫性」「非代替性」「一時性」のいずれも該当しなくなり、いつの間にか身体的虐待を続けている状態に陥っていたということにもなりかねません。
身体拘束罰として短時間だけ部屋に入れておくのは、虐待にあたりますか。

栃木県の事例集には、就労継続支援B型で生活支援員が、他害行為を注意しても反省が見られない利用者を罰としてトイレの用具入れに入れて施錠し、その後他の業務にとりかかって閉じ込めたことを忘れ約10分放置した事例が載っています。他の職員が物音に気づいて解放しました。被害者は意思疎通が困難で証言を得られませんでしたが、身体的虐待と心理的虐待が認定され、文書指導が行われました。

罰としてトイレの用具入れに入れて施錠

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第1号

身体拘束転落しそうだったので、職員の判断でベッド柵を4点にしました。あとで報告すれば大丈夫ですか。

川崎市の集団指導資料には、転落リスクのある入居者について職員個人の判断で4点柵を使用し、後日管理者に報告したものの管理者も適切な手続きの案内等を行わず、次第に複数職員が同様の対応を行うようになっていた事例が、身体的虐待として掲載されています。市は、第三者(管理者や家族、行政等)から理解を得た=身体拘束可能ではありません、と釘を刺しています。手続を踏まない拘束は、同意があっても正当化されません。

第三者(管理者や家族、行政等)から理解を得た=身体拘束可能ではありません
身体拘束一時的にすぐやめたのであれば、身体拘束にはあたりませんか。

川崎市の集団指導資料には、足を組む癖のある入居者について、誤嚥等の危険があるとして足首に鈴をつけたり足首を紐で縛ったりした事例が載っています。どちらも一時的ですぐにやめていましたが、市は、本人の意に反して足を縛る行為は身体拘束であり、仮に緊急やむを得ない場合の3要件を満たしていたとしても、身体拘束を行う上での手続きを怠った場合は高齢者虐待にあたる、と解説しています。

仮に緊急やむを得ない場合の3要件を満たしていたとしても、身体拘束を行う上での手続きを怠った場合は高齢者虐待にあたる
身体拘束自傷を防ぐためにミトンを使っています。他に方法がないので仕方ないですよね。

川崎市のサイトで公開されている権利擁護推進委員会の報告書には、髭剃りの傷を掻きつぶす自傷が続いた利用者にミトンを着用させていたが、T字カミソリを電気シェーバーに変えたところ傷が消失し自傷もなくなった事例が載っています。法律家のコメントは、ミトンの着用は身体を拘束したといえ、正当な理由がない限り虐待になるとし、ひげ剃りを工夫すれば回避できたので代替手段があった、すなわち非代替性がなく正当理由はなかったという判断になる、と述べています。

結果論としてはひげ剃りを工夫すれば問題行動が回避されたので代替手段があった=非代替性なし=正当理由はなかった
身体拘束人手が足りないことが理由で起きた虐待は、仕方がないのではないですか。

八戸市の集団指導資料には、夜間の人員が手薄な時間帯に、複数の介護職員が特定の利用者を車椅子に腰ベルトで抑制して同行させていた事例が載っています。職員間で合議して決定したものではなく、本人や家族への説明や記録等も一切行われていませんでした。資料は、本人はもちろん排泄介助を見られる他の利用者への心理的影響も考慮しなければならないとし、人手が足りないから、他の職員も行っているから、という「当たり前」「しょうがない」という認識を見直す必要がある、と述べています。

人手が足りないから、他の職員も行っているから、「当たり前」「しょうがない」という認識を見直す必要がある
身体拘束身体拘束が許されるのはどんなときですか。

厚生労働省の手引きは、やむを得ず身体拘束を行う場合には3要件をすべて満たす必要があり、その場合であっても判断は組織的にかつ慎重に行うとしています。切迫性は生命・身体・権利が危険にさらされる可能性が著しく高いこと、非代替性は他に代替する方法がないこと、一時性は行動制限が一時的であることです。1つでも欠ければ拘束は許されません。3つ揃っているかどうかは、その場の判断ではなく複数職員での確認と記録によって示されます。

やむ得ず身体拘束を行う場合には、以下の3要件を全て満たす必要があり、その場合であっても、身体拘束を行う判断は組織的にかつ慎重に行います。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第1号

身体拘束「これから暴れるかもしれない」という予測だけで拘束できますか。

名古屋高裁金沢支部は令和2年12月16日(令和2年(ネ)第39号 損害賠償等請求控訴事件)、医療保護入院中の患者について、身体拘束が始まった時点で興奮や抵抗はなく、法が定めた基準に当てはまらないから違法と認定しました。拘束を必要とした医師の判断は早すぎるとして、裁量を逸脱しているとされています。一審は違法性を否定していましたが、控訴審がこれを変更しました。最高裁が適法とした事案では患者が現に何度も起き上がろうとしていたのに対し、本件では拘束開始時点で何も起きていなかった。この差が決定的です。

身体拘束車椅子の体幹ベルトは身体拘束になりますか。

厚生労働省の手引きは、身体拘束に該当する行為とは本人の身体の機能や行動を制限する目的で行われる各種の行為であると解されるとしています。そのうえで、変形や拘縮を防止し体幹を安定させることで活動性を高める目的で使用されるベルトやテーブルについては、一律に身体拘束と判断することは適切ではないと述べています。判断の軸は道具の種類ではなく目的です。ただし同じ手引きは、ベルトやテーブルをしたまま利用者をいすの上で漫然と長時間放置するような行為については身体拘束に該当する場合もあるとも述べています。

一律に身体拘束と判断することは適切ではありません。身体拘束か否かは、目的に応じて適切に判断することが求められます。
身体拘束虐待と言われるのが怖いので、体幹ベルトを外そうと思います。

厚生労働省の手引きは、体幹機能障害のある利用者が残存機能を活かせるよう安定した着座姿勢を保持するための工夫としてベルト類を装着して身体を固定する行為について、やむを得ない身体拘束ではなく、その行為を行わないことがかえって虐待に該当すると述べています。実際に、過度のベルト外しによって本人が怖い思いをしたり車椅子から転落したりする事例が報告されています。ベルトなしでは乗車できないという理由でベッドに寝かせきりになる対応も、虐待を助長させるものとして名指しで否定されています。必要な手続として、医師や理学療法士等の意見を踏まえ、使用場面・目的・理由を明確にし、本人・家族の意見をモニタリングして個別支援計画に記載することが求められます。

その行為を行わないことがかえって虐待に該当する
身体拘束ベルトを付けたまま長時間座らせておくのは問題ありませんか。

分かれ目は目的と、その後の関わりです。活動を支えるために使い続けるのであれば支援ですが、装着したまま放置すれば拘束になります。手引きは記録について、態様・時間・理由・関係者間で共有されているかを書くことが重要としています。ヘッドギアについても同様の扱いとされています。

身体拘束最初は緊急やむを得ないと判断した行動制限を、その後も続けています。

厚生労働省の手引きは、職員の行動障害に対する知識や支援技術が十分でない場合、対応方法が分からずに行動制限に頼ってしまうことが起こると指摘しています。そして、行動制限が日常化すると切迫性・非代替性・一時性のいずれも該当しなくなり、いつの間にか身体的虐待を続けている状態に陥りかねないとしています。最初は要件を満たしていた行動制限が、繰り返すうちに虐待に変わる。その変わった瞬間を誰も告げてくれないのが、この類型の怖さです。手引きは続けて、共同アセスメントによって他害が大きく減った実例を挙げ、知識と技術と事業所間連携が拘束を減らしたと結論しています。

行動制限をすることが日常化してしまうと「切迫性」「非代替性」「一時性」のいずれも該当しなくなり、いつの間にか身体的虐待を続けている状態に陥っていた
身体拘束手引きが挙げる身体拘束の具体例を教えてください。

厚生労働省の手引きは、身体拘束の具体的な内容として6項目を挙げています。①車いすやベッド等に縛り付ける、②手指の機能を制限するためにミトン型の手袋を付ける、③行動を制限するために介護衣(つなぎ服)を着せる、④支援者が自分の体で利用者を押さえ付けて行動を制限する、⑤行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させる、⑥自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。④は身体で押さえる行為に関する唯一の例示ですが、文言に「行動を制限する」という目的が組み込まれています。この目的要素をどう当てはめるかについて、手引きはこの箇所では説明していません。

④ 支援者が自分の体で利用者を押さえ付けて行動を制限する。
身体拘束とっさに手を出して止めたら、身体拘束になりますか。

これは「見つからなかった」という調査結果そのものが現場にとって重要な項目です。厚生労働省の手引き、市町村・都道府県編の手引き、障害支援区分の認定調査員マニュアル、強度行動障害支援者養成研修テキストを検索しましたが、時間の長短で身体拘束該当性を切り分けた記述は一切見つけられませんでした。最も近いのは「身体拘束に該当する行為とは、本人の身体の機能や行動を制限する目的で行われる各種の行為であると解される」という定式ですが、これは座位保持装置の文脈で書かれたものです。したがって「とっさだから拘束ではない」とも「とっさでも拘束である」とも、公的資料を根拠に断定することはできません。判断に迷う場面は、その場で結論を出すより、記録に残して組織と行政に相談する道を選んでください。

身体拘束に該当する行為とは、本人の身体の機能や行動を制限する目的で行われる各種の行為であると解される
身体拘束噛みついた利用者を羽交い締めにしてしまいました。手引きは何と書いていますか。

厚生労働省の手引きは「咄嗟のことであれば、噛みついた利用者を止めるために職員は羽交い締めにするかもしれません。さらに、それでも噛もうと興奮する様子を見て居室に押し込み施錠をするかもしれません」と描写しています。この記述の帰結として手引きが述べるのは行為の評価ではなく、「咄嗟のときにも利用者に不安や恐怖を与えない対応を行うための知識と技術を持つことが必要」ということです。つまり手引きは、その場の行為を裁くのではなく、そうならないための準備を求めています。研修を受けているかどうかが問われる構造です。

咄嗟のことであれば、噛みついた利用者を止めるために職員は羽交い締めにするかもしれません。
身体拘束やむを得ず身体拘束を行うとき、どんな手続が必要ですか。

厚生労働省の手引きは、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定し、管理者、サービス管理責任者、虐待の防止に関する担当者等、支援方針について権限を持つ職員が出席していることが大切としています。個別支援計画には身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載します。本人や家族には適宜十分に説明をして了解を得ることが必要とされています。加えて、市町村の障害者虐待防止センター等、行政に相談・報告して理解を得ることも重要とされ、事業所で抱え込まないことが繰り返し求められています。

行動制限・身体拘束する場合、市町村の障害者虐待防止センター等、行政に相談・報告して、行動制限・身体拘束も含めた支援についての理解を得ることも重要です。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第35条の2

身体拘束身体拘束の記録は、拘束している間ずっと書き続けなければいけませんか。

厚生労働省の手引きは報酬Q&Aを引用し、ケア記録等への記載については必ずしも身体拘束を行う間の常時の記録を求めているわけではないとしています。そのうえで、個別支援計画に記載がない緊急やむを得ず身体拘束を行った場合には、その状況や対応に関する記載が重要であると明記しています。記録内容としては「態様・時間・理由・関係者間で共有されているか」等の記載が重要とされます。逆に言えば、計画に書かないまま拘束を続けて記録もない状態が最も危険です。基準省令上、必要な記録がされていない場合は運営基準違反に問われる場合があります。

ケア記録等への記載については、必ずしも身体拘束を行う間の常時の記録を求めているわけではなく、個別支援計画に記載がない緊急やむをえず身体拘束を行った場合には、その状況や対応に関する記載が重要である

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第35条の2第2項

身体拘束身体拘束をしていなければ、委員会や研修はやらなくてよいですか。

指定障害福祉サービス基準第35条の2第3項は、身体拘束等の適正化を図るため、対策を検討する委員会の定期的な開催と結果の周知徹底、適正化のための指針の整備、従業者への研修の定期的な実施の3つを講じなければならないと定めています。この条は第213条により指定共同生活援助(グループホーム)にも準用されます。令和6年度報酬改定では、身体拘束廃止未実施減算の減算額が施設・居住系サービスについて所定単位数の10%に引き上げられ、共同生活援助はこの区分に明記されています。解釈通知では、法人単位での委員会設置も可能とされ、虐待防止委員会において身体拘束等の適正化を検討することも差し支えないとされています。

一 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第35条の2・第213条

身体拘束グループホームに身体拘束の禁止規定は適用されますか。条番号を教えてください。

平成18年厚生労働省令第171号 第35条の2第1項は、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならないと定めています。第213条は「第三十五条の二から第四十一条まで」を指定共同生活援助の事業について準用しており、日中サービス支援型についても第213条の11が同様に準用しています。手引きに掲載されている第48条は指定障害者支援施設等の基準(省令第172号)の条であり、グループホームに直接適用される条ではありません。行政に条番号を示すときは、この区別を誤らないでください。

利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」という。)を行つてはならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第35条の2・第213条

身体拘束「正当な理由」とは何ですか。定義はどこに書いてありますか。

障害者虐待防止法第2条第7項第1号は「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」を身体的虐待としていますが、条文は「正当な理由」の内容を定義していません。厚生労働省の手引き全74ページを検索したところ、「正当な理由」の語は法条文の引用のほかは座位保持装置の文脈に1箇所現れるだけで、定義文はありませんでした。手引きが与えているのは定義ではなく判断の枠組み、すなわち「緊急やむを得ない場合」+3要件です。したがって現場では「正当な理由があるかどうか」ではなく、「3要件が揃っているか、手続を踏んだか、記録があるか」で考えることになります。

一 障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第1号

身体拘束「緊急やむを得ない場合」とはどこまでを指しますか。

厚生労働省の手引きは、緊急やむを得ない場合を「支援の工夫のみでは十分に対応できないような、一時的な事態」に限定しています。これが手引き上の唯一の定義文です。つまり支援の工夫が先にあり、それで足りない場合に初めて緊急やむを得ない場合になるという順序が示されています。ただし手引きは「支援の工夫」の中身を列挙していません。安易に緊急やむを得ないものとして身体拘束を行わないよう、慎重に判断することが求められています。

緊急やむを得ない場合とは、支援の工夫のみでは十分に対応できないような、一時的な事態に限定されます。
身体拘束非代替性は、誰がどう確認すればよいですか。

厚生労働省の手引きは、非代替性を判断する場合には、まず身体拘束を行わずに支援する全ての方法の可能性を検討し、生命又は身体を保護するという観点から他に代替手法が存在しないことを複数職員で確認する必要があるとしています。さらに、拘束の方法についても利用者本人の状態像等に応じて最も制限の少ない方法を選択する必要があるとしています。一人の判断で決めないこと、そして選ぶなら最も緩い方法を選ぶこと。この2点が条件です。

まず身体拘束を行わずに支援する全ての方法の可能性を検討し、利用者本人等の生命又は身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを複数職員で確認する必要があります。
身体拘束身体拘束として禁止されている行為の一覧はありますか。

厚生労働省の身体拘束ゼロ作戦推進会議による平成13年3月の手引きは、禁止の対象となる行為として11項目を挙げています。ひも等で縛る行為のほか、自分で降りられないようにベッドを柵で囲む、Y字型抑制帯や腰ベルト・車いすテーブルをつける、立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるいすを使用する、つなぎ服を着せる、向精神薬を過剰に服用させる、自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する、が含まれます。同手引きは、起きる・食べる・排せつする・清潔にする・活動するという5つの基本的ケアの徹底で拘束の原因を除去せよと説き、問題の検討もなく漫然と拘束している場合は直ちに解除するとしています。

3.自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
身体拘束11項目に入っていない行為なら、身体拘束ではありませんか。

厚生労働省老健局は令和7年3月、平成13年の手引きを24年ぶりに見直した「身体拘束廃止・防止の手引き」を公表しました。同手引きは、これまで示されてきた11項目はあくまでも例示であり、他にも身体拘束に該当する行為があることに注意が必要と明記し、身体拘束の定義自体を「本人の行動の自由を制限すること」と再定義しています。対象も施設だけでなく在宅における介護事業所と家族等に拡大されました。一覧に載っていないから安全、という読み方はできません。

これまで示されてきた『身体拘束廃止・防止の対象となる具体的な行為』の11項目は、あくまでも例示であり、他にも身体拘束に該当する行為があることに注意が必要です。
身体拘束一時性は、どこまで具体的に決めておく必要がありますか。

令和7年3月の「身体拘束廃止・防止の手引き」は、3つの要件の確認は本人の尊厳を守るためのプロセスであると位置づけたうえで、一時性について時間の範囲まで具体的に想定するよう求めています。非代替性の例示としては、点滴を自分で抜いてしまう方に対して点滴が視界に入らないように位置を工夫する、かゆみを減じるためにガーゼの種類を工夫する、といった代替方法が挙げられています。「しばらくの間」という言い方は一時性を満たしません。

何月何日の何時から何月何日の何時までなのか。また、1日のうちの何時から何時までなのか
身体拘束言葉で動きを止めるスピーチロックは、身体拘束として扱われていますか。

令和5年度老人保健健康増進等事業の報告資料には、実践事例として「組織として、スピーチロックも身体拘束とし、『ちょっと待ってね』等の言葉の言い換え等に取り組んでいる」と記載されています。グループホームの合同身体拘束廃止委員会の事例では、センサーマットの考え方やスピーチロックの考え方や対応等が委員会の議題として挙がっており、他法人のグループホーム2事業所と合同で3か月ごとに開催されています。これは厚生労働省サイト上の資料でスピーチロックを身体拘束として扱う数少ない記述です。

組織として、スピーチロックも身体拘束とし、「ちょっと待ってね」等の言葉の言い換え等に取り組んでいる
身体拘束一度決めた身体拘束は、なぜ見直されなくなるのですか。

神奈川県の検討部会報告書(令和3年3月)は、県立6施設について、3要件に合致しないにもかかわらず長期にわたって行われていた身体拘束や不適切な支援を確認したと記載しています。1日20時間以上の居室施錠が行われていた施設もありました。機序として、行動制限取扱要領に拘束等の可能な範囲があらかじめ明記されていて状態像に応じた検討がされないこと、生活寮の職員が必要不可欠だと主張すれば会議体で安易に承認され管理者も容認すること、個別支援計画・会議録に3要件の記載がほとんどないこと、拘束理由が一律に記載され利用者の状況記録が不足していることが挙げられています。職員間で解消の合意を得るまでに1年半かかったという証言も記録されています。

一回決めてしまうと外部の目が入ることもなく見直しが進みにくい
身体拘束行動障害のある方に、やむを得ず行動制限をする場面をどう準備しますか。

厚生労働省の手引きは、行動障害の状態になったときには本人の健康や周囲の利用者の安全を守るために職員が身体拘束や行動制限をやむを得ず行うことがあるとしつつ、そのときには事業所の職員全員が障害特性を理解し、予め本人や家族と相談して決めておいた方法や時間の範囲で対応することが必要としています。あわせて、家族や過去の支援者からの情報を引き継いだり丁寧な観察を行ったりして障害特性を理解し、行動障害が起こらないような支援を行うことが大前提だと述べています。事前の取り決めがあるかどうかが、その場の判断の質を決めます。

予め本人や家族と相談して決めておいた方法や時間の範囲で対応することが必要
身体拘束職員の安全を守るための身体拘束は、緊急やむを得ない場合に当たりますか。

指定障害福祉サービス基準第35条の2第1項の除外事由は「利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」であり、職員は文言に含まれていません。一方、厚生労働省の手引きの切迫性の説明は「利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利」と「等」が付いています。しかしこの「等」に職員が含まれるか否かを説明した公的資料は、本調査では見つけられませんでした。したがって「職員の安全のためだから緊急やむを得ない場合に当たる」と断定してはいけません。この点は現場の中心論点になり得ますが、公的資料では埋められない空白です。

利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第35条の2

身体拘束身体拘束の禁止は、言葉での制止にも及びますか。

緊急やむを得ない場合を除き禁止され、やむを得ず行う場合は態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由等を記録しなければなりません。さらに、適正化のための委員会の定期開催、指針の整備、研修の定期実施が義務づけられています。転居を拒む本人を居室から出す、荷物を運び出すといった物理的介入を伴えば直接適用されます。言葉のみの場合にこの条が適用されるかは、条文上明らかではありません。

第三十五条の二 〔指定共同生活援助事業者〕は、〔指定共同生活援助〕の提供に当たっては、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」という。)を行ってはならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第35条の2(第213条により準用)

身体拘束行動を落ち着かせるための手立ては、どんな順番で使うべきですか

米国の ICF/IID 参加条件を定める連邦規則は、介入を「最も肯定的・最も侵襲の少ないもの」から「最も肯定的でない・最も侵襲的なもの」への階層として設計するよう求めています。より制限的な技法を用いる前に、より侵襲の少ない技法を体系的に試みて無効だったことが記録上示されている必要があります。そのうえで「不適切な行動を管理する技法は、懲罰目的で、職員の都合のために、または積極的支援プログラムの代替として、決して用いられてはならない」と定めています。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、交換条件型の働きかけを「先に試すもの」ではなく「侵襲的な側」に置く枠組みです。

Techniques to manage inappropriate client behavior must never be used for disciplinary purposes, for the convenience of staff or as a substitute for an active treatment program.

根拠:42 CFR 483.450(米国連邦規則)

身体拘束身体拘束を「懲らしめ」や「手が足りないから」で使うのは

米国の長期ケア施設の入居者権利規定は「懲罰または職員の都合を目的として課され、入居者の医学的症状の治療に必要でない、あらゆる身体的または化学的拘束からの自由」を権利として定めています。動機そのものを違法要素として名指ししている点が特徴です。同じ条項群には、私物の保持と使用、自分が選ぶ時に自分が選ぶ訪問者を迎える権利、電話への合理的アクセス、郵便の送受信が権利として並んでいます。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

The right to be free from any physical or chemical restraints imposed for purposes of discipline or convenience, and not required to treat the resident's medical symptoms.

根拠:42 CFR 483.10(e)(1)(米国連邦規則)

身体拘束物や活動に条件を付けることは、行動制限に当たりますか

豪州の NDIS 品質・安全確保委員会が出す規制対象行動制限ガイドは、環境的拘束を「本人が自らの環境のあらゆる部分(物や活動を含む)へ自由にアクセスすることを制限すること」と定義しています。公式の判定フローチャートは「本人が環境にアクセスするにあたって何らかの条件が付いているか」を明示的な分岐に据え、条件付きなら「これは環境的拘束である」と結論します。職員が善意かどうかは問われず、構造だけを見ます。これは豪州の規制であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、飴へのアクセスに条件を付ける行為が声かけの巧拙ではなく行動制限として扱われる例です。

Are there any conditions on the person accessing their environment?

根拠:NDIS (Restrictive Practices and Behaviour Support) Rules 2018 s.6(e)(豪州)

身体拘束冷蔵庫に鍵をかけたり、携帯を預かったりするのは

豪州 NDIS の規制対象行動制限ガイドは、環境的拘束の例として、扉・戸棚・冷蔵庫に鍵をかけてアクセスを妨げること、料理やテレビ視聴などの活動への参加を妨げたり制限したりすること、携帯電話・iPad・タバコといった私物へのアクセスを妨げること、裏庭や台所など特定の区域へのアクセスを妨げることを挙げています。日常的な地域慣行との線引きとして、安全のために夜に玄関に鍵をかける例(本人が望めば家を出られる状態)が示されています。環境的拘束は行動支援計画への記載、州・準州の承認手続、委員会への月次報告が義務です。これは豪州の規制であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Preventing access to a person's possessions such as their mobile phone, iPad or cigarettes.

根拠:NDIS (Restrictive Practices and Behaviour Support) Rules 2018(豪州)

身体拘束鍵をかけていなくても、口約束のルールなら問題ないですか

豪州ニューサウスウェールズ州の行動制限承認制度の運用指針は、環境的拘束が物理的障壁だけでなく「通常の地域慣行を超える、強制力のある制限や境界」を含むと述べています。つまり鍵をかけなくても、ルールとして課せば環境的拘束になりうるということです。同指針はさらに「食べ物・水・トイレおよび入浴設備へのアクセスといった基本的人権に対して制限が適用される、または適用が提案される場合には、特段の注意が払われなければならない」と明記しています。食べ物へのアクセス制限が許容されうるのは、重度の食物アレルギーや窒息リスクといった安全上の理由がある場合に限られる例示になっています。これは豪州の州ガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありません。

particular care must be taken if any restriction is applied or proposed to be applied to basic human rights such as access to food, water, and toileting and bathing facilities.
身体拘束「継続的な監督下にあり離れる自由がない」という判定基準を使ってよいですか

英国では2014年の Cheshire West 判決が、自由の剥奪の判定を「継続的な監督と管理の下にあり、かつ立ち去る自由がない」という acid test に単純化していました。しかし2026年6月2日、英国最高裁は北アイルランド司法長官が持ち込んだ事件で Cheshire West は誤りだったと判示し、この acid test を廃しました。代わりに、制限の種類・期間・効果・実施態様、本人が異議を述べているか、その状況の相対的な普通さ、目的などを総合する多面的評価を求めています。誤用注意として、Cheshire West の acid test を現在の英国法として引いてはいけません。これは英国の判例であり、日本の法令上の根拠ではありません。

身体拘束「うちのホームでは全員こうしています」というルールは問題ですか

英国の精神保健法1983行為準則は、一律制限を「個別のリスクアセスメントによる正当化なしに、全患者・患者類型・サービス内に日常的に適用される、患者の自由その他の権利を制限する規則または方針」と定義しています。一律制限は、特定の個人について特定されたリスクへの必要かつ比例的な対応として正当化できない限り避けるべきだとされます。実施には病院管理者の明示の承認が必要です。事業所の「うちのルール」を点検するときの物差しになります。これは英国の法定行為準則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

the term 'blanket restrictions' refers to rules or policies that restrict a patient's liberty and other rights, which are routinely applied to all patients, or to classes of patients, or within a service, without individual risk assessments to justify their application.

根拠:Mental Health Act 1983: Code of Practice 8.5(英国)

身体拘束行動制限を使う目的として、絶対に認められないものは何ですか

英国保健省が2014年に出した『積極的で先を見越したケア』は、ウィンターボーン・ビュー病院の虐待調査等により、行動制限が最終手段としてのみ用いられてきたわけではなく、苦痛を与え、辱め、罰するために用いられてきたことが明らかになったと述べています。そのうえで8つの原則の第1に「行動制限は、罰するために、あるいは苦痛・苦悩・屈辱を与えることのみを意図して用いられてはならない」を置き、行動を起こさなければ本人・職員・公衆に危害が及ぶ現実的可能性がなければならないとしています。言うことを聞かせるために制限を課すことは、危害防止ではなく行動統制が目的であり、この原則に反します。これは英国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありません。

Restrictive interventions should never be used to punish or for the sole intention of inflicting pain, suffering or humiliation.
身体拘束世界では、鎖でつながれている人がいるのですか

ヒューマン・ライツ・ウォッチは110か国を対象とした調査で、約60か国において心理社会的障害のある人が鎖につながれている証拠を確認しました。10歳ほどの子どもを含む男女が、数週間・数か月、時には数年にわたり鎖でつながれ、あるいは狭い空間に閉じ込められ、多くが同じ狭い場所で食事・睡眠・排泄を強いられています。勧告には、法と政策による拘束の禁止と徹底調査、任意でアクセス可能な地域精神保健サービスの整備、施設への定期的かつ予告なしの監視、独立した苦情申立制度の設置、脱施設化政策の策定が含まれます。予告なしの定期監視と独立した苦情申立制度は、国連の枠組みでも共通して挙がる要素です。これは NGO の報告であり、日本の法令上の根拠ではありません。

身体拘束危ないときに手をつかむのも体罰になりますか

体罰等によらない子育てのための指針は、体罰に当たらない行為として、罰を与えることを目的としない、子どもを保護するための行為を挙げています。例として、道に飛び出しそうな子どもの手をつかむこと、他の子どもに暴力を振るうのを制止するなど第三者に被害を及ぼす行為を制止する行為が示されています。目的が罰か保護かで線を引く整理です。同じ指針は、体罰以外にも子どもの心を傷つける行為があるとして、冗談のつもりで存在を否定するようなことを言った、やる気を出させるという口実できょうだいを引き合いにしてけなした、といった例を挙げています。児童分野の指針ですが、制止と罰の切り分けの考え方として参照できます。

身体拘束止めてよい行為と、行き過ぎの境目はどこですか

文部科学省の参考事例は、認められる懲戒の例として、放課後等に教室に残留させる、授業中に教室内に起立させる、学習課題や清掃活動を課す、立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせることを挙げています。正当な行為の例としては、児童が教員の指導に反抗して教員の足を蹴ったため児童の背後に回り体をきつく押さえること、休み時間の廊下で他の児童を押さえつけて殴る行為に及んだ児童がいたためこの児童の両肩をつかんで引き離すことが示されています。他者への危害を止める行為と、罰としての行為が明確に切り分けられています。学校教育の分野の資料ですが、他害の制止をめぐる整理の参照になります。

休み時間に廊下で、他の児童を押さえつけて殴るという行為に及んだ児童がいたため、この児童の両肩をつかんで引き離す

根拠:学校教育法第11条

放棄・放置忙しいときに「ちょっと待って」と声をかけるのは、スピーチロックになりますか。

厚生労働省の手引きは、放棄・放置「④ 障害者の権利や尊厳を無視した行為又はその行為の放置」の具体例として、話しかけ等に対し「ちょっと待って」と言ったまま対応しないことを挙げています。心理的虐待ではなく放棄・放置に分類されている点が特徴です。要件は「と言ったまま対応しない」ことであり、一度声をかけること自体を問題としてはいません。高齢者向けのマニュアルにも同旨の記載があります。

話しかけ等に対し「ちょっと待って」と言ったまま対応しない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置利用者同士のトラブルで、一方が他方に手を出しています。職員がやったわけではないので虐待にはあたりませんか。

厚生労働省の手引きは、放棄・放置「④ 障害者の権利や尊厳を無視した行為又はその行為の放置」の具体例として、他の利用者に暴力を振るう障害者に対して何ら予防的手立てをしていないことを挙げています。法律上も、他の利用者による同様の行為の放置が放棄・放置の定義に含まれています。加害したのが職員でなくても、放置した事業所の責任が問われます。

他の利用者に暴力を振るう障害者に対して何ら予防的手立てをしていない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置本人が自分で決めたことなので、そのままにしています。これでいいですか。

厚生労働省の手引き(平成30年6月版)は、放棄・放置の一覧の筆頭に「自己決定といって、放置する。」を置いています。自己決定という支援の言葉が、必要な関わりをしない口実に使われる型が名指しされています。同じ一覧には「話しかけられても無視する。拒否的態度を示す。」も並んでいます。本人の意思を尊重することと、必要な支援をしないことは別のことです。

自己決定といって、放置する。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置話しかけられても返事をせず、拒否的な態度をとってしまいました。これは心理的虐待ですか。

厚生労働省の手引き(平成30年6月版)は、放棄・放置の一覧に「話しかけられても無視する。拒否的態度を示す。」を挙げています。無視は心理的虐待の類型にも出てきますが、この一覧では放棄・放置として整理されています。どちらの類型に整理されるにせよ、虐待として扱われることに変わりはありません。

話しかけられても無視する。拒否的態度を示す。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置ナースコールを何度も押す方に、コールを手の届かないところに置いてもいいですか。

厚生労働省老健局のマニュアルは、介護・世話の放棄・放任「③ 必要な用具の使用を限定し、高齢者の要望や行動を制限させる行為」の具体例として、ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置くことを挙げています。心理的虐待「③」の欄には「話しかけ、ナースコール等を無視する。」も置かれています。呼ぶ回数が多いことは、呼べなくしてよい理由になりません。

ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置く。
放棄・放置「ちょっと待ってね」と言ったあと、結局行けませんでした。虐待になりますか。

厚生労働省老健局のマニュアルは、介護・世話の放棄・放任「④ 高齢者の権利を無視した行為又はその行為の放置」の具体例として、高齢者からの呼びかけに対し「ちょっと待ってね」等と言い、その後の対応をしないことを挙げています。問題の核は待ってもらうこと自体ではなく、そのあと対応しないことだと読めます。東京都福祉保健財団のチェックリストも「乱用し、長時間待たせて」いないかを点検項目にしています。

高齢者からの呼びかけに対し「ちょっと待ってね」等と言い、その後の対応をしない。
放棄・放置約束を守らなかったので食事を抜きました。しつけの範囲ではありませんか。

厚生労働省の検討会がまとめた資料は、「こんなことしていませんか」として並ぶ例の一つに「宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった」を挙げ、これらは全て体罰です、と断定しています。同資料は、しつけとは子どもをサポートして社会性を育む行為であり、体罰で押さえつけるしつけはこの目的に合うものではなく許されない、と説明しています。食事を罰の道具にすることが名指しで否定されています。

宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった
放棄・放置「ちょっと待って」を何度も使ってしまいます。どこからが問題ですか。

東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」第6項目は、利用者に対して「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていないかを問うています。乱用し、長時間待たせて、という限定が付いており、一度言うこと自体を問題視する書きぶりにはなっていません。厚生労働省の手引きも同様に、言うこと自体ではなく、言ったまま対応しないことを要件にしています。

利用者に対して、「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていませんか?
放棄・放置罰として食事を抜いたことはありませんが、自己点検ではどう問われますか。

厚木市高齢者・障害者虐待防止ネットワーク会議が作成した施設従事者等のための自己チェックリストは、「利用者への体罰など」の区分に、利用者に対して食事を抜くなどの人間の基本的欲求に関わる罰を与えたことがあるか、という項目を置いています。「よくある/時々ある/ない」で自己採点する形式です。同じリストには、日用品等の購入を制限したことがあるか、自由な帰省、面会、外出を一方的に制限したことがあるか、という項目もあります。

利用者に対して、食事を抜くなどの人間の基本的欲求に関わる罰を与えたことがある。
放棄・放置事業所内で以前から報告があったのに何もしなかった場合、どう扱われますか。

愛知県が県内に報告のあった虐待事案の特徴として整理した資料は、放棄・放置の類型について、身体的または心理的虐待事案の通報を受けて事実確認調査を実施したところ、施設・事業所内で以前より報告があり事態を把握していたにもかかわらず、何ら有効な対策が講じられず繰り返されていることが確認された、と記述しています。職員の中に方針に疑問を感じている者がおり支援記録や委員会で報告されているが適切に取り扱われていない、という事業所像も示されています。

施設・事業所内で、以前より報告があり、事態を把握していたが、何ら有効な対策が講じられず、繰り返されていることが確認された。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置見守りセンサーの電源を切ってしまうのは、どういう扱いになりますか。

川崎市の集団指導資料には、入居者のナースコールを手の届かない場所に移動させた事例がネグレクトとして掲載され、利用者の状態像に応じて設置したセンサー(離床センサー等)の電源を勝手に切る等の行為もネグレクトに含まれる、と注記されています。江戸川区の資料にも、夜勤職員が入所者の離床センサーをオフにして勤務中にソファで寝ており、入所者がフロアで倒れているところを発見された事例が放棄放任として認定された記録があります。

利用者の状態像に応じて設置したセンサー(離床センサー等)の電源を勝手に切る等の行為もネグレクトに含まれる
放棄・放置意図的ではない対応でも、放っておくと問題になりますか。

八戸市の集団指導資料には、ナースコールを押したまま(他利用者が押しても鳴らない状態)で30分以上気づかず、利用者を待たせた事例が載っています。事後の全職員アンケートで、意図的に無視・待たせている職員がいることも判明し、他の複数利用者も同様の対応を受けていました。資料は、現時点で意図的でなくても結果的に利用者に不利益が生じていること、今後重大な虐待行為にエスカレートしていく可能性があることから早急な対策が必要だとしています。

現時点で意図的ではなくても、結果的に利用者に不利益が生じていること、今後重大な虐待行為にエスカレートしていく可能性があることから、早急な対策が必要
放棄・放置本人が支援を拒んで生活が荒れている場合も、虐待として対応するのですか。

松江市の手引きは、セルフネグレクトを「本人の意思または本人の判断能力の低下により、自己の身体的、精神的な健康の維持にとって必要な医療や衣食住を拒むなど、生命や健康に悪影響を及ぼす状況に自ら追い込むこと」と定義し、脱水症状、栄養不良、危機的・非安全な生活水準、不衛生な住居、介護拒否などを例に挙げています。そのうえで、虐待に含めるかどうかについては議論があるところだが、尊厳を守るという観点、支援を必要としているという状態に着目して適切な対応を図っていくことが求められる、としています。

セルフネグレクトを虐待に含めるかどうかについては議論があるところですが、高齢者の尊厳を守るという観点、支援を必要としているという『状態』に着目して、適切な対応を図っていくことが求められます
放棄・放置他の利用者が誰かを叩いているのを止めなかった場合、職員も虐待になりますか。

障害者虐待防止法第2条第7項第4号は、障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該施設を利用する他の障害者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ることを、障害者福祉施設従事者等による虐待と定めています。同旨の規定は養護者(第2条第6項第1号ロ)と使用者(第2条第8項第2号)にも置かれています。全国社会福祉協議会の手引きは、これを「障害者同士による権利侵害行為などについて、施設が防止しないことも虐待と捉えています」と解説しています。グループホーム(共同生活援助)は障害者福祉施設従事者等に含まれるため、この定義が直接効きます。

障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する他の障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける他の障害者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置他の利用者に暴力を振るう利用者に、何もしていません。問題ですか。

厚生労働省の手引き 表-1 の放棄・放置④「障害者の権利や尊厳を無視した行為又はその行為の放置」の具体例として、「他の利用者に暴力を振るう障害者に対して、何ら予防的手立てをしていない」が挙げられています。この項目は、加害者が利用者であって職員ではないにもかかわらず、職員側の虐待として構成されています。高齢者虐待対応マニュアルにも同文が置かれており、条文に「他の入所者による行為の放置」の文言がない高齢者分野でも、国は同じ運用をしています。事故が起きてからではなく、予防的手立てを講じたかどうかが問われます。

・他の利用者に暴力を振るう障害者に対して、何ら予防的手立てをしていない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置利用者同士のいさかいは、当事者同士の問題として様子を見てよいですか。

大阪府の障がい者虐待対応マニュアルは、市町村の事実確認の留意点として、利用者間のいじめや喧嘩を放置している場合はネグレクトにあたる可能性もあると記載しています。同マニュアルのリスクアセスメントシートでは、家族・同居人・施設従事者等が行っている虐待(他の利用者から受ける暴力・暴言等を含む)を放置することが、重度の区分に置かれています。「当事者同士のことだから」という整理は、支援者の職務上の義務を免除しません。何をしたか、いつ誰と共有したかを記録に残してください。

利用者間のいじめや喧嘩を放置している場合、ネグレクトにあたる可能性もあります。
放棄・放置「ちょっと待って」と言うのは虐待になりますか。

厚生労働省の手引き 表-1 の放棄・放置④には、「話しかけ等に対し『ちょっと待って』と言ったまま対応しない」が具体例として挙げられています。高齢者虐待対応マニュアルにも「高齢者からの呼びかけに対し『ちょっと待ってね』等と言い、その後の対応をしない」という同旨の記述があります。東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」でも、「『ちょっと待って』を乱用し、長時間待たせていませんか?」が独立した項目として立てられています。待たせること自体ではなく、戻らないことが問題です。声をかけたら、必ず戻る。戻れないなら他の職員に引き継ぐ。

・話しかけ等に対し「ちょっと待って」と言ったまま対応しない。
放棄・放置忙しくて入浴を飛ばしてしまいました。虐待になりますか。

厚生労働省の手引きは、入浴しておらず異臭がする、排泄の介助をしない、髪・ひげ・爪が伸び放題、汚れのひどい服や破れた服を着せている等、日常的に著しく不衛生な状態で生活させることを放棄・放置の例に挙げています。キーワードは「日常的に」と「著しく不衛生な状態で生活させる」です。忙しくて手が回らなかったという理由は要件に一切書かれておらず、行為者の意図を問わない構造になっています。状態が固定して本人の生活環境が悪化していないかを、他の職員の目で定期的に確認してください。

・入浴しておらず異臭がする、排泄の介助をしない、髪・ひげ・爪が伸び放題、汚れのひどい服や破れた服を着せている等、日常的に著しく不衛生な状態で生活させる。
放棄・放置褥瘡ができてしまいました。これも虐待とされるのですか。

厚生労働省の手引きと高齢者虐待対応マニュアルの双方に、「褥瘡(床ずれ)ができるなど、体位の調整や栄養管理を怠る」が同文で置かれています。褥瘡は時間の経過を証拠として残す事象であり、「気づかなかった」では説明できません。結果が出た時点で、怠ったことが可視化されます。だからこそ、体位交換と栄養管理の実施記録が事業所を守る材料にもなります。

・褥瘡(床ずれ)ができるなど、体位の調整や栄養管理を怠る。
放棄・放置おむつ交換が遅れた日が続いています。どこからが虐待ですか。

1回の遅れではなく、それが常態になっていることが線です。常態化の判定は記録と他職員の証言で行われるため、「その日だけ忙しかった」という弁明は通りません。逆に言えば、交換の記録が正確に残っていれば、常態ではないことを示す材料になります。忙しさが構造的なものであれば、それは体制の問題として別に記録し、管理者に上げてください。

・おむつが汚れている状態を日常的に放置している。
放棄・放置食事や水分をあまり取らない方を、無理強いせず見守っています。問題ありませんか。

厚生労働省の手引きは「健康状態の悪化をきたすほどに水分や栄養補給を怠る」を放棄・放置の例としています。程度要件があるため、脱水や体重減少という測れる形になった時点で虐待側に振れます。大阪府のリスクアセスメントシートでは、脱水症状・栄養不足による衰弱(全身衰弱・意識混濁・急激な体重減少)が重度に分類されています。無理強いしないことと、何もしないことは別です。摂取量と体重を数字で追い、変化があれば医療につないでください。

・脱水症状・栄養不足による衰弱がある(全身衰弱・意識混濁・急激な体重減少)
放棄・放置居室が暑い・寒いまま改善していません。閉じ込めているわけではないので問題ないですか。

厚生労働省の手引きは「健康状態の悪化をきたすような環境(暑すぎる、寒すぎる等)に長時間置かせる」を放棄・放置の例としています。積極的に閉じ込めなくても、改善しないまま置いておくことが該当します。使用者による虐待の類型では、さらに直截に「本人にとって危険な状況を改善しない」「障害に配慮しない環境を継続させ、放置する」と書かれています。送迎車内も含めて、温度環境は点検の対象です。

・健康状態の悪化をきたすような環境(暑すぎる、寒すぎる等)に長時間置かせる。
放棄・放置本人が片づけたくないと言うので、居室にごみが溜まったままです。

厚生労働省の手引きは「室内にごみが放置されている、鼠やゴキブリがいるなど劣悪な環境に置かせる」を放棄・放置の例としています。養護者版では「室内にごみを放置する、掃除をしない、冷暖房を使わせないなど、劣悪な住環境の中で生活させる」と同旨が書かれています。本人の意思の尊重と、健康を損ねる環境の放置は両立しません。どう働きかけ、どこで折り合いをつけたのかを記録し、チームで共有してください。

・室内にごみが放置されている、鼠やゴキブリがいるなど劣悪な環境に置かせる。
放棄・放置具合が悪そうですが、しばらく様子を見ることにしました。

厚生労働省の手引きは、放棄・放置②の例として「医療が必要な状況にも関わらず、受診させない。あるいは救急対応を行わない」を挙げています。刑法上は第218条 保護責任者遺棄罪に対応しうると国・自治体のマニュアルが明記しています。「様子を見た」という説明は、判断の遅れを正当化しません。栃木県の類型表でも「病気や怪我をしても受診させない」がネグレクトの例に挙げられています。迷ったら受診させ、迷った経過を記録に残してください。

・医療が必要な状況にも関わらず、受診させない。あるいは救急対応を行わない。
放棄・放置服薬を事業所の判断で減らしたり、まとめたりしてもよいですか。

厚生労働省の手引きは「処方通りの服薬をさせない、副作用が生じているのに放置している、処方通りの治療食を食べさせない」を放棄・放置の例としています。基準は「処方どおり」からの逸脱です。事業所の裁量で減らす、まとめる、忘れるのいずれも、結果として処方どおりでなくなれば同じ欄に入ります。副作用については「生じているのに放置している」=気づいた後に動かないことが要件で、気づけなかった場合の観察義務は包括条項で拾われます。変更が必要と考えたら、必ず処方元に相談してください。

・処方通りの服薬をさせない、副作用が生じているのに放置している、処方通りの治療食を食べさせない。
放棄・放置誤嚥事故が起きたとき、「事故」と「虐待」はどこで分かれますか。

厚生労働省の手引きは「本人の嚥下できない食事を提供する」を放棄・放置の例に挙げています。これは「やった」ことに見えて、実は嚥下評価に基づく食形態の調整を「やらなかった」ことの結果です。指示があるのに従わなかった場合や、評価そのものを怠っていた場合は、事故ではなくネグレクトの側に寄ります。逆に、評価と指示と共有の記録があれば、事故として扱われる余地が残ります。

・本人の嚥下できない食事を提供する。
放棄・放置センサーが鳴りすぎて対応できないので、電源を切っています。

高齢者虐待対応マニュアルの介護・世話の放棄・放任④には「必要なセンサーの電源を切る」が具体例として書かれています。切る動機はたいてい「鳴りすぎて対応できない」=人員不足ですが、理由が体制側にあっても行為の評価は虐待のままです。見守りをやめる装置操作は、それ自体が名指しで否定されています。体制の問題は虐待の発生要因として別に整理されており、原因の説明にはなっても行為の免責にはなりません。切りたくなったら、切る前に管理者へ上げてください。

・必要なセンサーの電源を切る。
放棄・放置状態が変わったという報告は受けていましたが、計画の見直しはしていません。

高齢者虐待対応マニュアルの介護・世話の放棄・放任②には「介護提供事業者等からの報告・連絡等を受けていたにもかかわらず、高齢者の状態変化に伴う介護計画等の見直しを怠る」が挙げられています。障害福祉では個別支援計画に読み替えて同じ構造になります。分岐点は情報が届いていたかどうかです。「知らなかった」なら観察義務の問題ですが、申し送りやヒヤリハットが残っていれば、それがそのまま「知っていた証拠」になります。報告を受けたら、いつ誰がどう扱ったかまで記録してください。

・介護提供事業者等からの報告・連絡等を受けていたにもかかわらず、高齢者の状態変化に伴う介護計画等の見直しを怠る。
放棄・放置手引きの例示リストに載っていない行為なら安全ですか。

厚生労働省の手引き 表-1 の放棄・放置⑤は「その他職務上の義務を著しく怠ること」です。①〜④に当てはまらない「やらなかったこと」を全部拾うための受け皿であり、例示リストに載っていないから該当しない、という読み方ができない構造になっています。高齢者版の同じ⑤には、管理者の通報義務違反が具体例として書き込まれています。リストは網羅ではなく例示だと考えてください。

⑤ その他職務上の義務を著しく怠ること

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

放棄・放置入浴の回数が足りないだけで、行政処分になることはありますか。

船橋市は令和7年10月8日、短期入所生活介護事業所に対し、新規利用者の受入停止3か月と報酬支払額の7割減額3か月の処分を行いました。認定事実は、令和5年12月、令和6年2月〜5月および令和6年7月〜9月の計8か月について、延べ152人(実人数47人)の入浴回数が不足し、不足回数が計568回だったことです。根拠は介護保険法上の人格尊重義務違反です。殴っても怒鳴ってもいません。決定的だったのは、回数が数えられたこと、8か月という期間、そして人員不足で入浴不足が解消できないにもかかわらず定員いっぱいの受入れを続けたことです。

放棄・放置人手が足りず、できないと分かっていても受け入れを続けています。

船橋市の処分事案では、人員不足で入浴不足が解消できないと分かっていながら定員いっぱいの受入れを続けたことが処分理由に組み込まれています。国の調査でも「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」は虐待の発生要因として調査票に明示されています。体制の不足は、虐待の言い訳としては通らない一方で、虐待の原因としては公式に認められています。受け入れを決める段階で、支援できる体制があるかを検証し、その検討経過を残してください。

放棄・放置部下から相談を受けましたが、忙しくて対応できませんでした。

千葉県の事例集には、一般企業で障害特性による定期的な休息を「仕事をしない」と陰口を言われた本人が上司に相談したところ、上司が忙しさを理由に対応せず、本人が居づらくなって退職した事例が収載されています。虐待の種類はネグレクトとして整理されました。加害行為の主体は同僚であり、虐待として名指しされたのは対応しなかった上司です。これは障害者虐待防止法第2条第8項第2号「他の労働者による行為の放置」の実例にあたり、施設の職員間でも構造は同じです。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第8項第2号

放棄・放置「痛い」と繰り返し訴えられていますが、原因が分かりません。

京都府の権利擁護支援センターの研修資料は、入居者が「痛い」と何度も訴えても主治医に相談せず放置し、後に骨折と判明した事案を放棄・放置の事案として提示しています。骨折が発覚したのは定期往診時でした。痛みの原因を見抜けなかったことではなく、訴えを受け取ったのに動かなかったことが問題とされています。同じ資料には、入居者が食事を食べないことから目の前でバケツに捨て続ける行為も、放棄・放置の事案として挙げられています。

放棄・放置同僚が叩いているのを見ても止められませんでした。私の勇気が足りないのでしょうか。

京都府の研修資料は、2005年の障害者施設の事例を「よい施設だと評判だったが、視線の難しい利用者が次々入所、職員は疲れ切りパニック状態。他職員が叩くのを目撃しても止められなかった」と紹介しています。過重な受入れと疲弊という体制の問題として分析されています。ただし、止めなかったこと自体は法律上あなた自身の虐待(放棄・放置)にもなり得ます。個人を責めるのではなく、止められる体制と通報の経路を作ることが対策です。

よい施設だと評判だったが、視線の難しい利用者が次々入所、職員は疲れ切りパニック状態。他職員が叩くのを目撃しても止められなかった。
放棄・放置本人が「放っておいてほしい」と言う場合も、放っておいてよいですか。

厚生労働省の手引きが参考資料として掲載する法人倫理綱領例の放棄・放置欄には、「自己決定といって、放置する」「話しかけられても無視する。拒否的態度を示す」「失禁をしていても衣服を取り替えない」「職員の不注意によりけがをさせる」の4項目が並びます。原典は平成17年10月20日の障害保健福祉部長通知です。本人が選んだことを理由にした放置も、不注意による怪我も、ネグレクトの例として置かれています。セルフネグレクトについては障害者虐待防止法に明確な規定はありませんが、国の手引きは支援が必要な状態である可能性が高いとして、関係機関と連携した対応を求めています。

・自己決定といって、放置する。
放棄・放置「しつけ」や「指導」という説明は通りますか。

東京都で5歳女児が死亡した事件で、東京地裁は2019年10月15日、継父に傷害罪と保護責任者遺棄致死罪で懲役13年を言い渡しました。判決は「しつけからかけ離れた食事制限や暴力を理不尽に行った」と認定し、1か月余りで体重の4分の1が失われた食事制限を「明らかに苛烈」と評価しています。量的な変化(体重・食事量)は、動機がどうであれ客観的に虐待を示す証拠になります。また判決は、医療措置責任が生じたのは死亡の3日前ごろと認定しており、「いつから助ける義務が生じたか」が争点になることを示しています。

しつけからかけ離れた食事制限や暴力を理不尽に行った
  • 報道記事(東京すくすく(東京新聞)・2019年)
放棄・放置先輩職員が虐待をしていて、逆らえませんでした。それでも責任を負いますか。

東京都の事件で、東京地裁は2019年9月17日、実母に保護責任者遺棄致死罪で懲役8年を言い渡し、東京高裁も2020年9月8日に控訴を棄却して確定しました。弁護側は継父からの心理的DVによる支配を主張し、裁判所も従属関係が見て取れるとしてDVの存在自体は認めました。それでも責任は免れませんでした。決め手は、消極的に見て見ぬふりをしただけでなく自分も相応の役割を果たしていたこと、そして離婚を切り出すなど抵抗の態度を示したこともあり心理的に強固に支配されていたとまではいえないことの2点です。施設に置き換えれば、通報という抵抗の手段が現に存在します。

夫の意向に従ってしまった面は否定できないが、苛烈な食事制限など相応の役割を果たしている
  • 報道記事(東京すくすく(東京新聞)・2019年)
放棄・放置「言うことを聞かないなら夕飯抜き」は、どのくらい重い話ですか

米国の知的障害者向け中間ケア施設(ICF/IID)の参加条件を定める連邦規則は、職員は栄養的に十分な食事に寄与する食べ物または水分を取り上げることによって利用者を罰してはならない、と明記しています。「言うことを聞かないなら食事抜き」も「飴が欲しいならこれをしなさい」も、裏返せば同じ随伴性として扱われます。同じ条項の直前には、身体的・言語的・性的・心理的な虐待または罰の禁止が置かれています。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、この行為に名前と条文が与えられている例です。

Staff must not punish a client by withholding food or hydration that contributes to a nutritionally adequate diet.

根拠:42 CFR 483.420(d)(1)(ii)(米国連邦規則)

放棄・放置必要なものを渡さないことも虐待に入るのですか

米国の長期ケア施設に関する連邦規則は、虐待を「傷害・不合理な監禁・威嚇・罰を故意に加え、その結果として身体的な害・苦痛・精神的苦悶を生じさせること」と定義し、さらに「身体的・精神的・心理社会的な健全さを得るまたは維持するために必要な物品またはサービスの剥奪」も虐待に含めています。取り上げること自体が定義に組み込まれている点が重要です。ネグレクトの定義も、必要な物品とサービスを提供しないことと規定されています。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

deprivation by an individual...of goods or services necessary to attain or maintain physical, mental, and psychosocial well-being.

根拠:42 CFR 483.5 Definitions(米国連邦規則)

放棄・放置「ごはんは出すがおやつは言うことを聞いたら」という運用は

米国ペンシルベニア州のパーソナルケアホームに関する州規則には「食べ物の留保または強制の禁止」という見出しの条文があり、ホームは食事・飲料・軽食・デザートを罰として取り上げてはならないと定めています。例外は処方された医科的・歯科的処置に従う場合のみです。逆方向、つまり無理に食べさせることも同じ条文で禁じられています。これは米国の州規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、条文が snacks・desserts まで列挙している点で、おやつを交換条件にする運用を明確に射程に入れています。

A home may not withhold meals, beverages, snacks or desserts as punishment.

根拠:55 Pa. Code 2600.164(a)(米国ペンシルベニア州規則)

放棄・放置生活に必要なものを条件付きで取り上げるのは、現場の裁量ですか

米国ノースカロライナ州の利用者権利規則は、臨床上・医学上の適応がある場合にのみ用いうる手続として「あらゆる基本的必需品の条件付き剥奪」を名指しで列挙しています。その適応判断と個別利用者への使用承認は、当該手続について正式な訓練と権限付与を受けた医師または免許心理士でなければ行えません。日本で「声かけの工夫」の範囲に入れられがちな行為が、ここでは処方箋レベルの管理対象になっています。これは米国の州規則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

contingent deprivation of any basic necessity

根拠:10A NCAC 27E .0103(米国ノースカロライナ州規則)

放棄・放置ホームの「うちのルール」でも問題になることはありますか

米国イリノイ州の実施ガイダンスは、アセスメントされ文書化された安全上の懸念がない限り、事業者は、いつでも食べ物にアクセスする個人の権利を禁じるような方針または慣行を持ってはならないと定めています。policy or practice という文言に慣行が含まれるため、「片付けが終わってからおやつ」といった明文化されていない運用も射程に入ります。保護者が特定の食べ物を制限したいという希望は、アセスメントされた必要性を構成しないとも明記されています。これは米国の州ガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありません。

No provider may have a policy or practice that prohibits the right of an individual to access food at any time unless there is an assessed, documented safety concern.
放棄・放置緊急で入所した人は、その後どうなりやすいですか

英国ノーフォークの民間病院で、30代の3名が27か月の間に相次いで死亡しました。3名とも行動が支援機関にとって困難とされ、本人・家族の危機の末に入院に至っていました。2021年の成人保護レビューは、拘束と隔離の過剰使用、過剰投薬、記録の欠如、入院者への身体的暴行を認定し、ガバナンス・委託・監督・個別計画・専門職実践の失敗と総括して13項目の勧告を出しました。病院は2021年5月に閉鎖されました。本人・家族の危機的状況で緊急入所した人ほど、その後の見直しがされないまま長期化しやすいという教訓です。緊急入所こそ期限を切った再評価の対象にする運用が要ります。これは英国の事例であり、日本の法令上の根拠ではありません。

放棄・放置虐待とまでは言えないが気になる関わりは、どう整理されていますか

体罰等によらない子育てのための指針のコラムは、マルトリートメントを、要保護のレッドゾーン、要支援のイエローゾーン、要観察のグレーゾーンの3層で整理しています。グレーゾーンの例として、自転車の補助イスに子どものみを乗せておいて買い物をする、高層マンションのベランダに踏み台となるような物が置いてある、親のたばこやライターを無造作に子どもの手の届くところに置く、が挙げられています。虐待か否かの二分ではなく段階で見る枠組みです。児童分野の指針ですが、境界領域の扱い方の参照になります。

放棄・放置他の職員の不適切な関わりを見て見ぬふりをするのは

令和7年8月改訂の保育所等ガイドラインは、ネグレクトの具体例として、体調を崩しているこどもに必要な看護等を行わない、こどもを故意に車の中に放置する、必要な情緒的欲求に応えていない、おむつを替えない、泣き続けるこどもに長時間関わらず放置する、視線を合わせ声をかけ抱き上げるなどのコミュニケーションをとらず保育を行う、適切な食事を与えない、別室などに閉じ込める、部屋の外に締め出す、といった行為を列挙しています。そのなかに、他の保育士等や他のこどもによる虐待を放置すること、他の職員が不適切な指導を行っている状況を放置することが明記されています。放置という不作為が類型に入っている点が要です。保育分野の資料であり、障害福祉分野の基準そのものではありません。

他の職員が不適切な指導を行っている状況を放置する
性的虐待介助しやすいので、着替えの前に下着のままで待っていてもらっています。問題ですか。

厚生労働省の手引きは、性的虐待の具体例として、排泄や着替えの介助がしやすいという目的で下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置することを挙げています。人前で排泄をさせたり、おむつ交換をしたりすること、その場面を見せないための配慮をしないことも同じ欄に並びます。介助の効率という目的があっても、性的虐待として扱われます。

排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置する。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第2号

性的虐待職員同士の性的な会話に利用者を巻き込んでしまいました。虐待になりますか。

神奈川県の事例集には、生活介護の送迎車内で生活支援員と運転員が性的な会話を続け、同乗していた利用者にも性的な質問をした事例が載っています。好きな異性のタイプの話題から性的な話題になり、以降は送迎車内で性的な質問が当たり前になっていました。本人は苦痛でしたが言えませんでした。性的虐待と認定され、加害職員は直接支援から外され人権研修を受けています。厚生労働省の手引きも、本人の前でわいせつな言葉を発する・会話することを性的虐待の例に挙げています。

本人の前でわいせつな言葉を発する、又は会話する。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第2号

性的虐待職員が利用者の自宅やグループホームを個人的に訪問しても問題ありませんか。

札幌市の集団指導資料には、就労継続支援B型の職業指導員が、世話人のいない時間帯を見計らって利用者の入居するグループホームを訪問し性的関係を持ち、その後も週1、2回の頻度で酒を持って訪問するようになった事例が載っています。市は、職員でないと知りえない情報や、支援者と利用者という密接な関係を利用したものだとして悪質な性的虐待と認定し、複数職員の目が行き届く支援体制や利用者宅への原則訪問禁止等を文書指導しました。

職員でないと知りえない情報や、支援者と利用者という密接な関係を利用し、判断能力が十分でない未成年者と関係を持つに至っている

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第2号

性的虐待周りの職員が気づいていたのに止められなかった場合、どうなりますか。

千葉県の事例集には、通所施設で男性職員が知的障害のある女性利用者複数名に対し、スキンシップの限度を超えて胸を触る等の性的虐待を日常的に行っていた事例が載っています。この職員に対し注意をしにくい雰囲気があり、周囲の職員が虐待を把握しながらも放置・容認していました。施設内対応では改善せず、運営適正化委員会からの通報で発覚しています。注意しにくい雰囲気そのものが、被害を長引かせる要因として記録されています。

この男性職員に対し注意をしにくい雰囲気があり、周囲の職員が虐待を把握しながらも放置・容認
性的虐待介護や支援の場面で体に触れる行為が、性的虐待とされることはありますか。

静岡地裁は2021年1月13日、介護施設の居室で90代女性入所者に抱きつき、キスをし、シャツをまくり上げて胸や尻を触った介護福祉士に、強制わいせつ罪で懲役2年・執行猶予4年を言い渡しました。裁判官は、介護福祉士という立場にありながら高齢の被害者の尊厳や気持ちを顧みず自己中心的に犯行に及んだと指摘しています。場所は居室、時間は日中の午後4時過ぎで、密室でも深夜でもありません。「二人きりになるな」だけでは防げず、居室内の介助そのものが構造的にリスクを抱えています。

わいせつな行為をすることで癒やされ、性的に満足したいなどと考え、介護福祉士という立場にありながら、高齢の被害者の尊厳や気持ちを顧みず、自己中心的に犯行に及んだ
性的虐待「支援の一環だった」という説明は、身体接触の正当化になりますか。

東京地裁は2024年8月26日、福祉作業所の施設長が30代の知的障害のある女性利用者の体を触る、下着に手を入れる、抱きつくなどした事案について、元施設長と法人の連帯責任で150万円の賠償を命じました。被告は「支援の一環だった」「被害者が誘ってきた」と反論しましたが、いずれも認められていません。区の障害福祉課は虐待事実を認定していました。介助上必要な接触かどうかは、行為の部位・態様・継続性で客観的に判断されます。施設長という立場、すなわち支援関係における力の差は、同意の存在を否定する方向に働きます。

性的虐待利用者を撮影することが虐待になるのは、どんな場合ですか。

厚生労働省の手引き 表-1 は、性的虐待の例として「本人を裸にする、又はわいせつな行為をさせ、映像や写真に撮る。撮影したものを他人に見せる」「更衣やトイレ等の場面をのぞいたり、映像や画像を撮影する」を挙げています。心理的虐待の例には「利用者の顔に落書きをして、それをカメラ等で撮影し他の職員に見せる」があります。高齢者虐待対応マニュアルにも同旨の記載があります。職員同士で共有するつもりの写真も、対象になります。

・更衣やトイレ等の場面をのぞいたり、映像や画像を撮影する。
性的虐待介助しやすいように下半身を裸のままにしておくのは、性的虐待になりますか。

高齢者虐待対応マニュアルの性的虐待の類型には、「排せつや着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置する」「人前で排せつをさせたり、おむつ交換をしたりする」が挙げられています。目的が業務の効率であっても、性的虐待として整理されます。カーテンを開けたまま排泄ケアをする、排泄について大声で話すといった行為も、東京都福祉保健財団のチェックリストでプライバシーへの配慮に欠けるケアとして項目化されています。

・排せつや着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置する
性的虐待「一緒に寝てあげる」といった行為は、性的虐待の具体例に入っていますか。

性的虐待の柱書は「あらゆる形態の性的な行為又はその強要」ですが、例示は身体接触・性交・わいせつな会話・撮影・露出という顕在的な性的行為に集中しています。前段階の行動(手なずけ・特別扱い・秘密)は例示されていません。ただし手引きの本文には「支援者と利用者という関係においてそうしたやり取りや関係性を持つことは厳に慎むべきである」という記述があり、これが専門職としての境界に触れた数少ない日本の明文です。「添い寝」「一緒に寝る」という語そのものを含む公的資料は、日本・海外とも見つけられませんでした。

性的虐待 ○あらゆる形態の性的な行為又はその強要 【具体的な例】 ・キス、性器等への接触、性交 ・性的行為を強要する。 ・本人の前でわいせつな言葉を発する、又は会話する。性的な話を強要する(無理やり聞かせる、無理やり話させる)。 ・わいせつな映像や写真をみせる。 ・本人を裸にする、又はわいせつな行為をさせ、映像や写真に撮る。撮影したものを他人に見せる。 ・更衣やトイレ等の場面をのぞいたり、映像や画像を撮影する。 ・排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置する。 ・人前で排泄をさせたり、おむつ交換をしたりする。またその場面を見せないための配慮をしない。 など

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第2号

性的虐待性的虐待を防ぐために、事業所は何をすべきだとされていますか。

手引きは、利用者の恋愛感情につけ込んで事業所の内外で関係を持つなどの悪質な事案が報道されていること、利用者側の障害特性や依存傾向なども影響して発見が遅れることがあることを述べています。発見の端緒として、本人の情緒が急に不安定になったなどの変化を家族が不審に思うこと、虐待者である職員が異性の利用者とばかり接する等の問題行動に他の職員が気付くことを挙げています。特定の利用者への偏った関わりが、日本の公的資料で明示された数少ない前段階の指標です。職員教育においては、利用者の人権を尊重することと、援助関係における倫理規範を厳守することを徹底する必要があるとされています。

支援者と利用者という関係においてそうしたやり取りや関係性を持つことは厳に慎むべきであることは言うまでもありませんが、利用者側の障害特性や依存傾向なども影響して、発見が遅れてしまったり、周囲もなんとなくおかしいと思いながらも特に問題視せずに推移してしまったりすることもあります。
性的虐待特定の利用者への過剰な関わりを、自己点検の項目にした資料はありますか。

これは調査の範囲で見つかった、日本の公的資料で唯一、好意的な方向の特別扱いを自己点検項目にしたものです。前後の設問は「特定の利用者に対し、ぞんざいな態度・受け答えをしてしまうことがある」「利用者の支援に際し、無言で介助や誘導を行っていることがある」です。ただし「贈与」「秘密」「私的関係」は明示されていません。なお同県の最新版の手引き(令和8年1月)にはこの設問は収載されておらず、代わりに発見チェックリストが置かれています。

17.特定の利用者に対し、個人の主観で過剰な関わりやコミュニケーションをしていることがある。
性的虐待早期発見のチェックリストは、職員側の行動も見る作りになっていますか。

6項目はいずれも、人に嫌悪感を抱く態度が増えていないか、触れられることを極度に嫌がらないか、歩行や座位が不自然でないか、出血やキズがないか、急に怯えないか、一人で過ごす時間が増えていないか、というものです。加害側の行動を見る指標は含まれていません。つまり日本の早期発見ツールは「利用者の様子の変化」で捉える設計であり、職員が秘密を持たせる・物を与える・特別扱いするといった加害者側の行動指標を持っていません。この空白は、現場が兆候に気づく手がかりを持ちにくいことを意味します。

《3.性的虐待の着眼点》 1.人に対して嫌悪感を抱いているような態度や言動をとることが増えていませんか? 2.人に触れられることを極度に嫌がることが増えたように感じられることはありませんか? 3.歩行等がいつもより不自然であることや、座位が保てないようなことはありませんか? 4.肛門や性器からの出血やキズがみられませんか? 5.急に怯えたり、恐ろしがったりする、また、人目を避けるようなことはありませんか? 6.一人で過ごす時間が増えていませんか?
性的虐待支援者と利用者の私的な関係について、職業倫理はどう定めていますか。

同規範は、専門的援助関係を最も大切にし、それを自己の利益のために利用してはならないとしたうえで、専門職の立場を私的に利用してはならないこと、支援の代償として正規の報酬以外に物品や金銭を受けとってはならないことを定めています。ただし「社会通念上、不適切」の中身は例示されていません。また物品に関する条項は「受けとってはならない」であり、職員が与えることは規定していません。介護福祉士の倫理基準と知的障害者福祉の倫理綱領には、境界・私的関係・贈与に関する条項は存在しませんでした。

1-3 社会福祉士は、専門職としてクライエントと社会通念上、不適切と見なされる関係を持ってはならない。
性的虐待支援者という立場が、同意の成立に影響することは法律に書かれていますか。

同項は第2号に「心身の障害を生じさせること又はそれがあること」、第7号に「虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること」も置いています。これらは、支援者と利用者の関係では対等な同意が成り立ちにくいという考え方が日本の実定法にも入っていることを示しています。個々の事案がこれに該当するかの判断は、ここでは行いません。なお16歳未満の者に対して金銭その他の利益を供与して面会を要求する行為は第182条で処罰されますが、成人の障害者には適用されません。

八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

根拠:刑法第176条第1項第8号

性的虐待「職員には内緒だよ」と利用者に言うのは、どう見られますか

豪州ニューサウスウェールズ州の児童後見人室が発行する行動規範ガイドは、単独では規範違反にあたらないかもしれないが合わさると安全へのリスクを示しうる「懸念すべき行動」を列挙し、その中に「大人が子どもに秘密を持つよう求めること。大人との関係を秘密にすることを含む」を挙げています。例示は、職員が子どもに自分と二人きりで過ごすよう促し、その時間のことを他の人に言わないよう指示することです。同じ一覧には、職務上の理由がないのに二人きりになること、一人の子どもを他より優遇することも含まれます。ただし本文書の対象は子どもであり、障害のある成人を対象とした同種の資料は本調査では見つかっていません。これは豪州の資料であり、日本の法令上の根拠ではありません。

An adult asking a child to keep a secret, including a relationship with an adult - for example, a staff member encouraging a child to spend time alone with them and instructing the child not to tell others about this time.
性的虐待特定の利用者に物を買い与えたり特別扱いしたりするのは

豪州ニューサウスウェールズ州の児童後見人室のガイドは、組織における贈り物の授受、とくに子どもへの贈り物について、管理職の承認・記録・監視という公式な手続に従うべきだとしています。理由として、贈り物や利益を与えることが、大人がその子と特別な関係を作ろうとしてグルーミングしている徴候となりうること、そして一人に特別扱いを与えることがその子を孤立させたり他の子に反感を抱かせたりすることを挙げています。別項では、贈り物・食べ物・たばこ・金銭・関心・愛情を差し出すことが、性的行為のためのアクセスを容易にする意図を伴う場合に許容されない行動とされています。対象は子どもであり、障害のある成人を対象とした資料は本調査では見つかっていません。これは豪州の資料であり、日本の法令上の根拠ではありません。

the giving of gifts or benefits to a child can be an indicator that an adult is grooming the child by trying to form a 'special' relationship with them.
性的虐待性的虐待には、直接の接触以外も含まれますか

令和7年8月改訂の保育所等ガイドラインは、性的虐待の具体例として、下着のままで放置する、必要の無い場面で裸や下着の状態にする、こどもの性器を触るまたはこどもに性器を触らせる、性器を見せる、本人の前でわいせつな言葉を発する、性的な話を強要する、性交・性的暴行・性的行為の強要や教唆、ポルノグラフィーの被写体などを強要するまたは見せる、わいせつな目的で裸や下着の状態を撮影する、を挙げています。直接の身体接触がない行為も類型に含まれている点が重要です。保育分野の資料であり、障害福祉分野の基準そのものではありません。

必要の無い場面で裸や下着の状態にする
経済的虐待利用者に「事業所に寄付してほしい」と頼むのは経済的虐待になりますか。

厚生労働省の手引きは、経済的虐待の具体例として、事業所・法人に金銭を寄付・贈与するよう強要すること、立場を利用して「お金を貸してほしい」と頼み借りることを挙げています。手引きは経済的虐待について、表面上は同意しているように見えても本心からの同意かどうかを見極める必要があるとしています。支援する側とされる側という関係そのものが、同意の任意性を疑わせる要素になります。

事業所、法人に金銭を寄付・贈与するよう強要する。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第5号

経済的虐待利用者が使えるお金を、事業所の判断で制限してもいいですか。

厚生労働省の手引きは、経済的虐待の具体例として、日常的に使用するお金を不当に制限すること、生活に必要なお金を渡さないことを挙げています。おつりを渡さないことも金銭の着服・窃盗等に含めて明記されています。愛知県の研修資料も同じ文言を経済的虐待の具体例として示しています。金銭管理は、本人の希望する使途を理由なく制限しないことが前提です。

日常的に使用するお金を不当に制限する、生活に必要なお金を渡さない。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第5号

経済的虐待グループホームで食費を多めに集めて、余った分を他の費用に回してもいいですか。

厚生労働省の事務連絡は、グループホームの事業者が利用者から徴収した食材料費を食事のために適切に支出しないまま他の費目に流用したり事業者の収益とすることは指定基準違反にあたるとしたうえで、経済的虐待にも該当する可能性があるので疑われる場合は事実確認の徹底を求めています。愛知県はこの事務連絡を集団指導資料に添付して周知しています。徴収額に残額が生じた場合は精算して返還するか、利用者の今後の食材料費として適切に支出する必要があります。

グループホームにおける食材料費の不適切な徴収については、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)第2条第7項に規定する「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」のうち、「経済的虐待」(同項第5号)にも該当する可能性がありますので、こうした障害者虐待が疑われる場合には事実確認の徹底をお願いします。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第5号

経済的虐待「虐待」と書かれていない行政処分でも、虐待の問題として見るべき場合がありますか。

愛知県は2024年6月26日、県所管のグループホーム13事業所に対し、利用者から食材料費を過大に徴収するという人格尊重義務違反と不正請求を理由に、1事業所の指定取消と12事業所の一部効力停止(新規利用者受入停止3〜12か月)を行いました。処分理由に虐待の語はありませんが、国の事務連絡は同じ事実が経済的虐待にも該当する可能性があるとしています。処分の理由書に虐待と書かれていなくても、虐待該当性の評価は別途行われ得ます。

事業者が利用者に対して、食材料費を過大に徴収するという法に定める人格尊重義務に違反する行為が行われた。

根拠:障害者総合支援法 第50条第1項第3号

経済的虐待利用者の預り金を職員が管理している場合、どんな問題が起きますか。

栃木県の事例集には、共同生活援助で世話人が入居者から預かった通帳を隠し持ち、不正に引き出していた事例が載っています。管理者が通帳の所在不明と口座からの出金に気づいて県に通報しました。原因は世話人の倫理観の欠如と、事業所の預り金管理体制の不備とされ、経済的虐待と認定して文書指導が行われました。札幌市の集団指導資料にも、サービス管理責任者のみが金銭管理を行っていた事業所で着服が認定された事例があります。

預かった通帳を隠し持ち、不正に引き出していた

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第5号

経済的虐待家族が本人の年金を使ってしまっています。虐待として扱えますか。

世田谷区の高齢者虐待類型の資料は、経済的虐待について、養護しない親族による経済的虐待についても「養護者による虐待」として認定すると注記し、本人の自宅等を本人に無断で売却する、年金や預貯金を無断で使用する、入院や受診、介護保険サービスなどに必要な費用を支払わない、を例に挙げています。経済的虐待の事案では、市町村長申立てによる成年後見制度の活用が実務上の対応になります。

養護しない親族による経済的虐待についても「養護者による虐待」として認定する

根拠:障害者虐待防止法 第2条第6項第5号

経済的虐待職場での障害者虐待は、どんな種類が多いのですか。

厚生労働省が令和7年9月3日に公表した令和6年度の使用者による障害者虐待の状況では、通報・届出のあった事業所は1,593事業所、虐待が認められた事業所は434事業所、虐待が認められた障害者は652人でした。認められた虐待の種別は経済的虐待が584人(85.0%)で最多です。使用者による虐待は他の場面と類型分布が大きく異なり、賃金不払や最低賃金割れ等が中心になります。

認められた虐待の種別は経済的虐待が584人(85.0%)で最多

根拠:障害者虐待防止法 第28条

経済的虐待本人のためにお金を預かっています。これは問題ありませんか。

「本人のために預かっている」という説明は、同意と使途の記録があって初めて成り立ちます。預かった経緯、本人の同意の取り方、出納の記録、残高の確認方法を文書化してください。高齢者虐待対応マニュアルの経済的虐待の類型には、事業所に金銭を寄付・贈与するよう強要すること、金銭・財産等の着服・窃盗(おつりを渡さないことを含む)、立場を利用して「お金を貸してほしい」と頼み借りることが挙げられています。少額でも、立場の差がある関係での金銭のやり取りは避けてください。

・立場を利用して「お金を貸してほしい」と頼み、借りる
経済的虐待食材料費の徴収の仕方が問題になることはありますか。

厚生労働省は令和6年6月26日、障害者グループホームを全国展開する事業者について、食材料費の過大徴収および報酬の不正請求を理由に、愛知県および名古屋市が5事業所の指定取消処分を行ったと発表しました。厚生労働省は本社等による組織的な関与が認められると認定し、業務管理体制が十分に機能していなかったことの証左と明記しています。障害者総合支援法に基づく連座制が適用され、指定取消処分の効力発生日から5年間、同社および役員等は同一サービス等類型内の他事業所の指定更新・新規指定を受けられません。現場の一部の不正ではなく法人として止めなかったと判断されると、処分は事業所単位から法人・役員単位に広がります。

経済的虐待本人のお金や私物を、行動と引き換えに渡す運用はどうですか

米国ペンシルベニア州の知的障害者グループホームに関する州規則は「制限的手続」の節で、本人の私的な金銭または所有物へのアクセスやその使用を、報酬または罰として用いてはならないと定めています。損害賠償として本人の金品を充てることも本人の同意なしには認められず、ホームは同意を強要してはならないとも規定されています。報酬と罰の両方向が明示されている点で、最も直接的な条文です。これは米国の州規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、本人のお金を職員が管理し行動と引き換えに渡す運用を正面から扱っています。

Access to or the use of an individual's personal funds or property may not be used as a reward or punishment.

根拠:55 Pa. Code 6400.210(a)(米国ペンシルベニア州規則)

意思決定支援行動の背景を考えずに、その場で止めるだけの対応をしています。

児童養護施設等の手引きは、「不適切なかかわり」の区分の筆頭に「子どもの問題行動の背景を考慮しない一方的な対応」を置いています。愛知県の研修資料も、利用者の課題行動の意味の理解と意思決定支援を正しく理解できないと、意思表出行動を課題行動と認識して無視や行動制限に至ると説明しています。背景の理解を飛ばした対応が、権利侵害の入り口として整理されています。

子どもの問題行動の背景を考慮しない一方的な対応
意思決定支援本人の意思の表れを、問題行動として止めてしまっていないか心配です。

愛知県の新規入職者向け研修資料は、利用者の課題行動の意味の理解と、意思形成から意思決定、意思表出、意思実現に至る一連の意思決定支援を正しく理解できないと、意思表出行動を課題行動と認識して無視や行動制限をしてしまう、と説明しています。同資料は、標準化された支援を学ばないと主観的な支援に没頭すること、予防的介入や危機回避的介入の計画がないと想定外のリスクが生じた際に根拠のない不適切な対応に発展することも挙げています。

利用者の課題行動の意味の理解と、意思決定支援(意思形成⇨意思決定⇨意思表出⇨意思実現の一連の支援)を正しく理解できないと、意思表出行動を課題行動と認識し無視・行動制限

根拠:障害者総合支援法 第42条第1項

意思決定支援事業者には、意思決定支援について法律上どんな義務がありますか。

障害者総合支援法第42条第1項は、指定事業者等に対し、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、関係機関との緊密な連携を図りつつ、常に障害者等の立場に立って効果的に行うよう努めなければならない、と定めています。同条第3項が人格尊重義務で、これに違反すると第50条第1項により指定の取消しや効力停止の対象になります。

障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに

根拠:障害者総合支援法 第42条第1項

意思決定支援支援計画をつくるとき、意思決定支援はどこまで求められますか。

愛知県の運営指導事前提出資料は、サービス管理責任者が計画作成にあたり、利用者の自己決定の尊重及び意思決定の支援に配慮しつつ適切な支援内容を検討しているかを点検項目にしています。さらに、アセスメントに当たっては、利用者自ら意思を決定することに困難を抱える場合には、適切に意思決定の支援を行うため、当該利用者の意思及び選好並びに判断能力等について丁寧に把握しているか、を確認するとしています。意思決定支援は運営指導の対象です。

利用者自ら意思を決定することに困難を抱える場合には、適切に意思決定の支援を行うため、当該利用者の意思及び選好並びに判断能力等について丁寧に把握しているか。

根拠:障害者総合支援法 第42条第1項

意思決定支援どこで暮らすかは、本人の希望をどこまで聞くべきですか。

瀬戸市障害者福祉基本計画【第7次】は、住まいや暮らしについて、身体障害・知的障害・精神障害のいずれにおいても「家族と暮らしている」「家族で暮らしたい」が最も多かったことから、障害者が住み慣れた地域で安心して暮らしていくための体制の整備が求められるとし、知的障害では「グループホームで暮らしたい」、精神障害では「一人で暮らしたい」の回答も多かったと記しています。住まいの選択は、本人の希望から出発するものとして計画に位置づけられています。

知的障害では「グループホームで暮らしたい」、精神障害では「一人で暮らしたい」の回答も多かった。
意思決定支援権利擁護支援とは、そもそも何を指すのですか。

尾張東部圏域の第二期成年後見制度利用促進計画は、権利擁護支援を「本人を中心にした支援・活動の共通基盤であり、意思決定支援等による権利行使の支援や、虐待対応や財産上の不当取引への対応における権利侵害からの回復支援を主要な手段として、判断能力が不十分な人が、地域社会に参加し、共に自立した生活を送るという目的を実現するための支援活動」と定義しています。虐待対応は、権利擁護支援の一部として位置づけられています。

意思決定支援等による権利行使の支援や、虐待対応や財産上の不当取引への対応における権利侵害からの回復支援を主要な手段として
意思決定支援安全や健康を優先していれば、支援として問題ないのではないですか。

愛知県の研修資料は、サービス提供に際し安全や健康は重要だが、そこで思考停止せず、本人の意思や尊厳を大切にするよう求めています。あわせて、本人主体、本人の意思・希望に添った支援、意思決定支援、QOLの意識、常にチームで点検し説明できる支援をしよう、という到達点を示しています。安全を理由に本人の意思を検討しないことは、県の示す支援のあり方から外れます。

サービス提供に際し「安全」や「健康」は重要だが、そこで思考停止せず、本人の意思や尊厳を大切に
意思決定支援事業所の都合で利用者を別の住居へ移すことは、制度上どう評価されますか。

令和8年2月の共同生活援助ガイドライン(第1版)は、意思決定支援の配慮なく事業者の運営上の都合のみで処遇を決定することを否定し、「指定基準違反となり得る」と法的効果まで書いています。挙げられている例は「利用者の意思に反して自宅に帰省させること」「帰省を望む利用者に対して事業所に留まるよう強要すること」で、いずれも本人の意思に反して居場所を動かす/留めるという構造です。虐待に当たるかどうかとは別のルートで、指定権者による指導・監査の対象になり得ます。定員調整や住居の統廃合といった運営側の事情は、本人の意思を覆す理由になりません。

利用者に対しての意思決定支援の配慮がなされず、事業者の運営上の都合のみで利用者の処遇を決定することがあってはならず、例えば、利用者の意思に反して自宅に帰省させることや、帰省を望む利用者に対して事業所に留まるよう強要することなどは、指定基準違反となり得ることを認識しておく必要がある。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第210条の5第2項

意思決定支援退居は誰が決めるものですか。事業所の判断で決めてよいのですか。

共同生活援助ガイドラインは「(6)退居」の項で、同じ趣旨の文を2回繰り返して書いています。想定されている退居の背景として挙がっているのは、一人暮らしや結婚、病気や障害の重度化、他の入居者とのトラブルであり、事業所の都合は一切含まれていません。ガイドラインは退居を本人発意のものとしてのみ設計しています。事業者や他の関係者の判断で退居を決めることは、この記述に正面から反します。

退居に当たっては、共同生活援助事業者や他の関係者等、利用者以外の者の判断によるものではなく、利用者本人の希望と同意があることが必要である。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第210条の2第3項

意思決定支援本人が嫌がっているのに退居を迫ることは、はっきり禁じられていますか。

「強制的に退居を迫り」という表現は、物理的な強制に限らず、迫る行為そのものを対象にしています。理由として挙げられているのは、それが利用者の安定した生活基盤の確保を阻害するからです。本人が嫌がっているのに「引っ越しする」と言い続ける行為は、この「迫る」に当たると読めます。意思を伝えることが難しい場合の処方箋として示されているのは説得ではなく、市町村・相談支援事業者等との連携です。

事業所が利用者の意思に反して強制的に退居を迫り、一方的に解約を行うことは、利用者の安定した生活基盤の確保を阻害するものであり、避けなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第210条の2第3項

意思決定支援利用者から退居の希望が出たとき、事業所だけで話を進めてよいですか。

障害特性や退居を希望する背景により、本人が自分の意思を従業者へ適切に伝えられないことがあるため、ガイドラインは第三者を入れることを求めています。連携先として名指しされているのは、家族、支給決定者である市町村、相談支援事業者、利用する他の障害福祉サービス事業者等です。確認すべき事項として書かれているのは「退居の意向が利用者本人の同意に基づくものであること」です。事業所内だけで意思確認を完結させる進め方は、この記述の想定と異なります。

共同生活援助事業者は、利用者から退居の希望があった際には、当該利用者の家族や支給決定者である市町村、相談支援事業者及び利用する他の障害福祉サービス事業者等と密に連携を図り、利用者の希望を丁寧に汲み取った上で、退居の意向が利用者本人の同意に基づくものであることを確認する必要がある。
意思決定支援「本人の言うことは不合理だから」と職員が判断して押し切ってよいですか。

これは意思決定支援ガイドラインの基本的原則(2)であり、共同生活援助ガイドラインを通じて指定基準の解釈内容にも取り込まれています。唯一の例外として書かれているのは「他者への権利を侵害する」場合のみです。「引っ越したほうが本人のためだ」「新しい住居のほうが設備がいい」という職員側の合理性判断は、本人の意思を覆す理由になりません。同ガイドラインは、リスク管理を強調するあまり本人の意思決定に対して制約的になり過ぎないよう注意することも求めています。

職員等の価値観においては不合理と思われる決定でも、他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重するよう努める姿勢が求められる。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第210条の5第2項

意思決定支援意思決定支援の出発点は何ですか。本人の意思がはっきりしていても使う仕組みですか。

ガイドラインの定義は、可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、意思の確認や推定を尽くし、それでも困難な場合に最後の手段として最善の利益を検討する、という順序で書かれています。つまり意思決定支援は、支援者が代わりに決めてよい仕組みではなく、本人の決定に到達させるための仕組みです。本人が「引っ越したくない」と明確に意思表明している場面は、そもそも自己決定の尊重がそのまま適用される場面です。「本人は判断できないから我々が決めた」と言うには、推定意思、最善の利益という段階をすべて踏む必要があります。

本ガイドラインにおける意思決定支援は、障害者への支援の原則は自己決定の尊重であることを前提として、自ら意思を決定することが困難な障害者に対する支援を意思決定支援として次のように定義する。
意思決定支援住まいを移す場面は、意思決定支援の対象として国の資料に書かれていますか。

自宅からグループホームや入所施設等に移る場面、入所施設から地域移行してグループホームに移る場面、グループホームから一人暮らしを選ぶ場面が例示されています。求められている要件は3つで、体験の機会の活用を含め本人の意思確認を最大限の努力で行うこと、関係者が集まって判断の根拠を明確にすること、より制限の少ない生活への移行を原則とすることです。同ガイドラインは、日常の食事や衣服は自分で決められても、住まいの場の選択については意思決定に支援が必要な場合があるとも述べています。

自宅からグループホームや入所施設等に住まいの場を移す場面や、入所施設から地域移行してグループホームに住まいを替えたり、グループホームの生活から一人暮らしを選ぶ場面等が、意思決定支援の重要な場面として考えられる。
意思決定支援住まいを選ぶとき、どちらを選ぶべきかの基準はありますか。

これは「最善の利益の判断」の項に置かれた記述で、最善の利益の判断そのものが「最後の手段」と位置づけられています。したがって、本人の意思確認も推定も尽くさないまま、この段階に飛び込むことは想定されていません。転居先が現住居より制限的(外出制限が強い、より大規模、地域から遠い等)であれば、最善の利益の判断としても要件を満たしません。やむを得ず自由を制限する場合でも、本人が理解できるように説明し、納得と同意が得られるよう最大限の努力をすることが求められています。

住まいの場を選択する場合、選択可能な中から、障害者にとって自由の制限がより少ない方を選択する。
意思決定支援意思決定支援会議は本人抜きで開いてよいのですか。

会議は、アセスメントで得られた情報や参加者が持つ情報を持ち寄り、本人の意思を確認したり、意思及び選好を推定したり、最善の利益を検討する場とされています。事業者だけで検討するのではなく、家族や成年後見人等、必要に応じて関係者等の参加を得ることが望ましいとされています。本人抜きで方針を決めて後から通告する運用は、そもそも意思決定支援会議を開いていないことになります。相談支援専門員が行うサービス担当者会議やサービス管理責任者が行う個別支援会議と一体的に実施することも考えられるとされています。

意思決定支援会議は、本人参加の下で、アセスメントで得られた意思決定が必要な事項に関する情報や意思決定支援会議の参加者が得ている情報を持ち寄り、本人の意思を確認したり、意思及び選好を推定したり、最善の利益を検討する仕組みである。
意思決定支援事業所の都合が意思決定支援を歪めることについて、国は何か書いていますか。

国自身が、事業者の側の事情が意思決定支援に影響を与えうると想定して置いた条項です。第三者の例として、本人の家族や知人、成年後見人等のほか、ピアサポーターや基幹相談支援センターの相談員が挙げられています。本人に直接サービスを提供する立場とは別の第三者が意見を述べることに意味がある、という組み立てです。相談支援専門員・基幹相談支援センター・成年後見人・市町村を関与させずに事業所内だけで進めることは、この条項の想定と逆になります。

事業者はサービスを提供する上で、制度や組織体制による制約もあるため、それらが意思決定支援に影響を与える場合も考えられることから、そのような制約を受けない事業者以外の関係者も交えて意思決定支援を進めることが望ましい。
意思決定支援言葉での意思表示が難しい人の住まいを決めるとき、どうすればよいですか。

事例では、施設入所支援を15年利用し言葉によるコミュニケーションが難しい方について、相談支援専門員が意思決定支援責任者となり、本人・成年後見人・両事業所のサービス管理責任者等が参加する会議を開きました。経験したことがないグループホームの生活と今の施設の生活を比べて選ぶことは難しかったため、空き部屋のあるグループホームで体験利用をしてみて、その様子から意思を確認する提案がなされています。1か月後に再度会議を開き、体験の様子から本人の意思が誰にとっても明らかになった、と結ばれています。本人が言葉で意思表示しにくいことは、説得を正当化する理由になりません。

経験したことがないグループホームの生活と今の施設の生活を比べて選ぶことは難しかった。そこで、グループホームのサービス管理責任者は、空き部屋のあるグループホームがあるので、体験利用をしてみて、その様子からB さんの意思を確認してはどうかと提案した。
意思決定支援熱心に説明を重ねれば意思決定支援になりますか。

精神科病院からの退院に関する事例で、本人は「もう自宅へは帰れない」と退院をあきらめており、退院後生活環境相談員が熱心に働きかけても黙り込むだけでした。ガイドラインはその後、説得を強めるのではなく、相談員が本人を伴って自宅に行き背景を聞くという方向へ切り替えています。背景には住居の老朽化、和式トイレが使えないこと、資金がないことがあり、それが分かった時点で生活保護の申請やアパート探しの説明という具体的な情報提供に変わりました。説得と意思決定支援の分岐点が、国の事例の中に描かれています。

病院のソーシャルワーカーが「退院後生活環境相談員」となり、熱心に退院に向けた働きかけを行ったが、C さんは黙り込んでしまうだけだった。
意思決定支援説得を繰り返して得た「同意」は、本人の意思として扱ってよいですか。

この記述は、最高裁判所・厚生労働省・日本弁護士連合会等で構成される意思決定支援ワーキング・グループが策定した後見事務ガイドラインの脚注24にあります。同ガイドライン本文は、そうした場合には「再度意思決定支援を行う必要がある」としています。つまり、そこで得られた「同意」は本人の意思決定として扱ってはならない、という組み立てです。あわせて、本人の意思に揺らぎがある場合は、一旦意思を表明しても直ちに実現に移らず一定期間見守るべきだとも書かれています。

例えば、過剰な誘導や、周りの思惑に基づき本人を説得するようなアプローチを繰り返し、本人が「同意」せざるを得ないような状況に追い込んだ上で、それが本人の意思決定と取り扱われているような場面などが考えられる。
意思決定支援あらかじめ結論を決めて本人を呼ぶ会議は、どう評価されますか。

同ガイドラインは、ミーティングの呼びかけ方によって参加者が抱くイメージが変わってしまう危険があるとして、この点を予め留意事項として認識させることが重要だとしています。続く項目では、参加者がすることは「本人の意見、考えを引き出す」こと、「支援者らの価値観を押し付けない」ことであり、望ましいと考えることを押しつけたり、その方向に誘導・説得したりしないことが避けるべきことだと書かれています。方針を先に決めて本人を呼び、説明・説得する会議は、この文書が名指しで否定する会議の形です。

支援者らの価値観に基づく結論が先にありき(いわゆる「落としどころ」を決めて臨む)での本人を説得するために集まる場では決してないことを予め留意事項として認識させることが重要である。
意思決定支援「強く言ったわけではない、聞いただけだ」という説明は通りますか。

脚注18は、本人の状況によっては支援メンバーの些細な言葉や態度に敏感に反応し影響されることがあるため、何気ない感想やコメントにも気を遣う必要があるとしています。例として「○○だと大変そうだね」という言葉で当該選択肢は避けるべきと考えてしまうことが挙げられています。そのうえで、質問の仕方によっては本人へのプレッシャーになることもあるとして「どうして〇〇しないの?」「〇〇したいと思わない?」が示されています。強い言葉を使っていないことは、誘導していないことの証明になりません。

質問の仕方によっては、本人へのプレッシャーになることもあるかもしれない(例えば「どうして〇〇しないの?」「〇〇したいと思わない?」など)。
意思決定支援「この人には判断能力がない」と職員が決めてよいのですか。

第3原則は「一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない」と定めています。「引っ越したくないと言うのは状況を理解していないからだ」という推論は、この原則が名指しで禁じる推論です。第2原則は、本人が自ら意思決定できるよう実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ代行決定に移ってはならないとしています。第7原則により、一度代行決定が行われても、次の場面では第1原則に戻って能力の推定から始めなければなりません。

第1 全ての人は意思決定能力があることが推定される。 第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならない。 第3 一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない。
意思決定支援ずっと嫌がっていた人が急に「いい」と言い出したとき、どうすればよいですか。

同じ項目には「表面上の言葉にとらわれず、本人の心からの希望を探求する」も並んでいます。意思表明支援のポイントとしては「決断を迫るあまり、本人を焦らせていないか」「重要な意思決定の場合には、時間をおいて、再度、意思を確認する」も挙げられています。さらに「時には、いつものメンバーとは異なる支援者が意思を確認してみることも必要」とされており、日頃転居を勧めている職員が意思確認を担うことの問題が実質的に示されています。急に意思が変わったことは、直ちに手続を進める理由ではなく、より慎重に確かめる理由です。

□本人の表明した意思が、これまでの本人の生活歴や価値観等から見て整合性があるか?  ▶ これまでと異なる判断の場合には、より慎重に本人の意思を吟味する。  ▶ 表面上の言葉にとらわれず、本人の心からの希望を探求する。
意思決定支援本人が意思を表明したら、すぐ手続を進めてよいですか。

後見事務ガイドラインは、まず第1原則により意思決定能力が推定されるため、通常は本人の意思決定に沿った支援を展開するとしています。もっとも、表明された意思が本人の意思であるかは慎重に確認する必要があり、意思決定支援が適切にされていないおそれがある場合や、支援者らの評価・解釈に齟齬や対立がみられる場合には、再度意思決定支援を行う必要があるとしています。「本人が『引っ越す』と言ったその日に転居手続を進める」運用に対する直接の戒めになっています。

また、本人の意思に揺らぎがみられるような場合には、一旦本人が意思を表明した場合であっても、直ちにその実現に移るのではなく、一定期間見守り、表明された意思が最終的なものであるかを確認する必要がある。
意思決定支援「本人のためだから」と施設利用を選ばせることは、以前から問題視されていましたか。

同ガイドラインは、実務において、本人の判断能力が低下していることを理由に、本人の意思や希望への配慮や支援者等との接触のないまま後見人等自身の価値観に基づき権限を行使するなどの反省すべき実例があったことは否定できない、と述べています。その注記として、この「説得をしてしまう例」が示されています。ガイドラインが目指すのは「意思決定の中心に本人を置く」という本人中心主義の実現です。保護という名目が、本人の意思を飛び越える理由にならないことが、策定の出発点に書かれています。

典型的には、本人が在宅での地域生活を希望しているのに十分な検討をせずに施設等の利用を支援者らが選択し、本人の保護という名目の下、本人に説得をしてしまう例などが挙げられる。
意思決定支援後見人が同意していれば、本人の意思は無視してよいのですか。

条文は「生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては」としており、財産管理の場面に限定されていません。したがって「後見人が転居に同意しているから問題ない」という説明は、後見人がこの義務を果たしているかという問いに置き換わるだけです。保佐人には第876条の5第1項、補助人には第876条の10第1項による準用で同旨の義務があります。意思決定支援ガイドラインも、成年後見人等を意思決定支援プロセスの参加者として位置づけています。

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮) 第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

根拠:民法第858条

意思決定支援後見人が関わるべき場面として、住まいの決定は挙がっていますか。

同ガイドラインは、後見人等が直接関与する場面は原則として本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随した事実行為の場面に限られるとしたうえで、一般的な例を3つ示しています。第一が居所に関する重要な決定、第二が自宅の売却等の法的に重要な決定、第三が特定の親族への贈与等です。住まいの変更はこの第一例に当たります。意思決定支援ガイドラインも、住まいの場の選択が成年後見人等の身上配慮義務と重複する場面であるとして、プロセスへの参画を促すことが望ましいとしています。

一般的な例としては、①施設への入所契約など本人の居所に関する重要な決定を行う場合、②自宅の売却、高額な資産の売却等、法的に重要な決定をする場合、③特定の親族に対する贈与・経済的援助を行う場合など、直接的には本人のためとは言い難い支出をする場合などが挙げられる。

根拠:民法第858条

意思決定支援住まいのことで迷っている人のモニタリングは、どのくらいの頻度が望ましいですか。

Q&A問29は、頻回なモニタリングを行うことでより効果的に支援の質を高めることにつながると考えられる状態像を列挙しています。その中に「重度の障害を有する等により、意思決定支援のために頻回な関わりが必要となる者」と、施設又はグループホームを利用していて居住の場の選択について丁寧な意思決定支援を行う必要がある者が挙がっています。また「被虐待者又は、その恐れのある者」は、モニタリング期間の設定に当たって特に留意して検討することとされています。解釈通知も、モニタリング期間をサービスの種類のみで一律に設定しないよう求めています。

・ 障害者支援施設又はグループホームを利用している者で、地域移行や一人暮らし等に係る意思が明確化する前の段階にあって、居住の場の選択について丁寧な意思決定支援を行う必要がある者

根拠:障害者総合支援法施行規則第6条の16

意思決定支援グループホーム事業者に意思決定支援の義務はありますか。

文末は「配慮しなければならない」であり、努力義務ではありません。共同生活援助ガイドラインは、この「配慮」の中身が解釈通知により意思決定支援ガイドラインの3基本原則に拘束されることを明示しています。同条第1項は、支援の提供が「漫然かつ画一的なものとならないよう配慮しなければならない」とし、「他の入居者もこうしているから」という一律処遇を戒めています。第4項の「理解しやすいように説明を行わなければならない」は説明義務であって、説得の許可ではありません。

2 指定共同生活援助事業者は、利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、利用者の意思決定の支援に配慮しなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第210条の5第2項

意思決定支援サービス管理責任者の責務に、自己決定の尊重は書かれていますか。

意思決定支援は自己決定の尊重の次段階であることが、ガイドラインではなく省令のレベルで確定しています。条文は、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合に適切に意思決定支援が行われるよう努めなければならない、と続きます。転居を推進したサービス管理責任者は、本項違反を直接問われる立場になります。同条第1号は、利用申込者について他事業所での利用状況等を照会等により把握する業務を定めています。

2 サービス管理責任者は、業務を行うに当たっては、利用者の自己決定の尊重を原則とした上で、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合には、適切に利用者への意思決定支援が行われるよう努めなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第210条の6第2項

意思決定支援「本人は判断できないから」と手続を省いてよいですか。

この規定は、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合に適切に意思決定の支援を行うために置かれたものです。つまり「判断できない」ことは手続を省く理由ではなく、より丁寧に把握する理由として条文が組み立てられています。同条第2項は、計画作成に当たり利用者の自己決定の尊重及び意思決定の支援に配慮しつつ支援内容を検討しなければならないとしています。第4項は、アセスメントに当たっては利用者に面接して行わなければならないとしています。

3 アセスメントに当たっては、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合には、適切に意思決定の支援を行うため、当該利用者の意思及び選好並びに判断能力等について丁寧に把握しなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第58条第3項(第213条により共同生活援助に準用)

意思決定支援本人が繰り返し「ここがいい」と言っていることは、記録に残す意味がありますか。

ガイドラインは、客観的に整理や説明ができないような「様子」を記録に残し積み上げていくことが、意思決定を支援する上で重要な参考資料になると述べています。また、意思決定支援の内容と結果における判断の根拠や、それに基づく支援を行った結果がどうだったかを記録しておくことも求めています。事後に「本人は納得した」と主張しても、どのような説明をし本人がどう反応したかの記録がなければ根拠を欠きます。逆に記録が残っていれば、嫌がっていたのに言い続けた経過そのものが資料になります。

本人の日常生活における意思表示の方法や表情、感情、行動から読み取れる意思について記録・蓄積し、本人の意思を読み取ったり推定したりする際に根拠を持って行うことが重要である。
意思決定支援選択肢を一つしか示さない進め方は問題ですか。

あわせて、絵カードや具体物を手がかりに選べるようにするなど、本人の意思確認ができるようあらゆる工夫を行い、本人が安心して自信を持ち自由に意思表示できるよう支援することが必要だとしています。「引っ越し先はここしかない」と単一の選択肢を突きつける進め方は、この原則に反します。後見事務ガイドラインも、選択肢を示す際に「殊更誘導や本人の選択を意図的に狭めるような説明、プレッシャーを与える言動のないよう配慮する必要がある」としています。虐待手引きの身体的虐待②が「代替方法を検討せずに」を類型名に含めていることとも符合します。

また、幅広い選択肢から選ぶことが難しい場合は、選択肢を絞った中から選べるようにしたり、絵カードや具体物を手がかりに選べるようにしたりするなど、本人の意思確認ができるようなあらゆる工夫を行い、本人が安心して自信を持ち自由に意思表示できるよう支援することが必要である。
意思決定支援体験利用をさせること自体が誘導になることはありますか。

第2版案は、本人が実際の経験をすると意思が変化することがあるため体験を提案することも有効な場合があるとしつつ、本人の選択肢が不当に狭められることのないよう配慮する必要があるとしています。転居先だけを体験させて現住居継続の選択肢を消すような使い方は、この記述が想定する誘導にあたります。第2版案は「他者の権利を侵害しないこと」が「他者に迷惑をかけないこと」と拡大解釈されることへの警告も加えています。ただしこれは審議会に提示された「案」であり、現行の効力ある通知は平成29年3月31日の第1版です。

他方で、体験の提供が支援者の望む方向への誘導とならないよう留意し、本人の選択肢が不当に狭められることのないよう配慮する必要がある。
意思決定支援「他の入居者に迷惑がかかるから」という理由は通りますか。

第2版案は、その拡大解釈が結果として障害のある人の生活や社会参加を過度に制約してしまうことがないよう、意思決定支援を本人の自己決定の問題にとどめず、環境や関係性への働きかけの視点を持つことが重要だとしています。第1版の原則(2)が定める例外は「他者への権利を侵害する」場合のみであり、「迷惑」はそれと同義ではありません。第2版案では、第1版の「より制限の少ない生活への移行を原則として」が「本人の希望する生活への移行を原則として」に書き換わっています。ただしこれは「案」であり、現行の効力ある通知は第1版です。

「他者の権利を侵害しないこと」は、しばしば「他者に迷惑をかけないこと」と拡大解釈される場合がある。そのことが、結果として障害のある人の生活や社会参加を過度に制約してしまうことがないよう、意思決定支援を本人の自己決定の問題にとどめず、環境や関係性への働きかけの視点を持つことが重要である。
意思決定支援認知症の分野では、本人の意思をどう扱うことになっていますか。

同ガイドラインは、まず本人の表明した意思・選好、あるいは確認が難しい場合には推定意思・選好を確認し、それを尊重することから始まるとしています。本人の示した意思は、他者を害する場合や本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合でない限り尊重されるとしています。日常生活については、これまで本人が過ごしてきた生活が確保されることを尊重することが原則になる、とも書かれています。社会生活の意思決定支援の場面として、住まいの場を移動する場合が明示されています。

○ 意思決定支援は、本人の意思(意向・選好あるいは好み)の内容を支援者の視点で評価し、支援すべきだと判断した場合にだけ支援するのではなく、まずは、本人の表明した意思・選好、あるいは、その確認が難しい場合には推定意思・選好を確認し、それを尊重することから始まる。
意思決定支援職員の都合で部屋を替えてもらうのは、海外では問題になりますか

米国の長期ケア施設に適用される連邦規則は、移動の目的が「もっぱら職員の都合」である場合、入居者は施設内の別の部屋への移動を拒否できると定めています。さらに、拒否したことによって給付の資格や受給権が損なわれることはない、とも明記されています。断ったら本人が困る、という圧力そのものを封じる設計です。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、事業所都合の転居を条文が名指しで禁じている例として参照できます。

The right to refuse to transfer to another room in the facility, if the purpose of the transfer is: ... solely for the convenience of staff.

根拠:42 CFR 483.10(e)(7)(iii)・(e)(8)(米国連邦規則)

意思決定支援部屋や同居人を変えるとき、事前に何か伝える義務はありますか

米国の連邦規則は、入居者の部屋または同居人が変更される前に、理由を含む書面による通知を受ける権利を定めています。あわせて、可能な場合には同居人を選ぶ権利、そして「その入居者にとって重要な」生活の諸側面について選択を行う権利も規定されています。重要かどうかを判定するのは事業者ではなく本人だと条文が定めている点が要です。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、口頭のやりとりだけで転居を決めない運用の根拠として使えます。

The right to receive written notice, including the reason for the change, before the resident's room or roommate in the facility is changed.

根拠:42 CFR 483.10(e)(5)(6)・(f)(2)(米国連邦規則)

意思決定支援事業者の都合で利用者に出ていってもらうことはできますか

米国の連邦規則は「施設は各入居者が施設に留まることを許さなければならず、次の場合を除いて移送または退所させてはならない」という形で、認められる理由を6つに限定しています。列挙されているのは、本人の福祉のために必要で施設ではニーズを満たせない場合、健康が回復して不要になった場合、他者の安全や健康が危険にさらされる場合、相当の予告後も費用が未払いの場合、施設が運営を停止する場合です。「事業者の都合」「職員配置の都合」「入居者構成を整えたい」はどこにも含まれていません。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、退去理由を書き出して照合する枠組みとして参考になります。

The facility must permit each resident to remain in the facility, and not transfer or discharge the resident from the facility unless—

根拠:42 CFR 483.15(c)(1)(i)(米国連邦規則)

意思決定支援退所を伝えるのに、どれくらい前に言うべきでしょうか

米国の連邦規則は、移送・退所の通知を原則として30日以上前に、本人が理解できる言語と方法で書面により行うことを求めています。通知には理由・発効日・移送先・不服申立の方法・州長期ケアオンブズマン室の連絡先を記載しなければならず、知的発達障害や精神障害のある入居者には権利擁護機関の連絡先も記載します。そして本人が不服申立をしている間は移送できません。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、本人の「嫌だ」を感情ではなく手続を起動させる行為として扱う設計例です。

The facility may not transfer or discharge the resident while the appeal is pending

根拠:42 CFR 483.15(c)(3)〜(5)・(c)(1)(ii)(米国連邦規則)

意思決定支援グループホームの居室は、事業者が自由に割り振ってよいものですか

米国メディケイドの在宅・地域基盤サービス(HCBS)セッティング規則は、事業者が所有・管理する居住系サービスであっても、居室は本人が法的に強制力のある契約に基づいて占有する特定の物理的場所でなければならないと定めています。そして本人は、最低限、その地域の借家法において賃借人が持つのと同じ立ち退きからの保護を持たなければなりません。つまり居室は事業者の設備ではなく本人の家であり、動かすには手続が要ります。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、日本のグループホームと設定が一致する条文です。

the individual has, at a minimum, the same responsibilities and protections from eviction that tenants have under the landlord/tenant law of the State, county, city, or other designated entity.

根拠:42 CFR 441.301(c)(4)(vi)(A)(米国連邦規則・HCBSセッティング規則)

意思決定支援誰と同室にするかは、事業者が決めてよいのでしょうか

米国の HCBS セッティング規則は、居室を共有する場合、その環境において本人が同居人を選ぶ権利を持つと定めています。また、寝室や居室を自分で家具でしつらえ装飾する自由も規定されています。長期ケア施設の規則にも、双方が同意する場合に選んだ同居人と同室になる権利があります。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、転居先の同居人構成を本人の同意なく決められないという発想の実例です。

Individuals sharing units have a choice of roommates in that setting.

根拠:42 CFR 441.301(c)(4)(vi)(B)(2)(米国連邦規則)

意思決定支援事業所を閉じるときの転居は、どこまで手続が要りますか

米国の連邦規則は、施設閉鎖の場合、法人ではなく管理者である個人が名指しで、州監査機関・州長期ケアオンブズマン・入居者本人・その代理人へ、閉鎖の60日以上前に書面通知する義務を負うと定めています。通知には州の承認を受けた入居者の移送・再定住計画を含めなければならず、通知後は新規入居を受け入れてはなりません。移さざるを得ない最も正当性の高い場面ですら、この重さです。これは米国の規則であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、閉鎖ですらないのに押し切る転居との対比材料になります。

At least 60 days prior to the date of closure

根拠:42 CFR 483.70(k)(米国連邦規則)

意思決定支援嫌がる人に言い続けて納得させるのは、法律上どう呼ばれますか

米国カリフォルニア州の高齢者・依存成人虐待防止法は、不当な影響力を「過度の説得によって他人の自由意思を打ち負かし、その人を行為させ、または行為を控えさせ、不公平な結果をもたらすこと」と定義しています。判断では、被害者の脆弱性、加害者の見かけの権威、用いられた戦術、結果の公平さの4要素を考慮します。戦術の列挙には、生活必需品・薬・本人と他者との交流・情報へのアクセス・睡眠の支配、愛情や威嚇や強要の利用、拙速や秘密裏の実行が明記されています。これは米国の州法であり、日本の法令上の根拠ではありません。

'Undue influence' means excessive persuasion that causes another person to act or refrain from acting by overcoming that person's free will and results in inequity.

根拠:California Welfare and Institutions Code 15610.70(米国カリフォルニア州法)

意思決定支援支援する側の立場そのものが、影響力として見られることはありますか

米国カリフォルニア州法は、不当な影響力を判断する4要素のひとつとして加害者の見かけの権威を挙げ、その証拠になりうる立場として受託者・家族・ケア提供者・医療専門職・法律専門職・宗教的助言者・専門家などを列挙しています。ケアを提供している立場そのものが、影響力の源として法文に書き込まれているということです。もうひとつの要素である脆弱性には、無能力・疾病・障害・年齢・教育・認知機能低下・情緒的苦痛・孤立・依存が含まれ、加害者がそれを知っていたか知るべきだったかも見られます。これは米国の州法であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Evidence of apparent authority may include, but is not limited to, status as a fiduciary, family member, care provider, health care professional, legal professional, spiritual adviser, expert, or other qualification.

根拠:California Welfare and Institutions Code 15610.70(a)(2)(米国カリフォルニア州法)

意思決定支援本人のためになる転居なら、多少押してもよいのでは

米国連邦最高裁は1999年の Olmstead 判決で、正当化されない隔離は障害に基づく差別に当たると判示しました。ただし地域移行が求められる要件として、専門職が地域での処遇を適切と判断していること、その移行が当該本人によって反対されていないこと、州の資源等に照らして合理的に対応できることの3つを挙げています。判決は「望まない患者に地域基盤の処遇を課すという連邦法上の要請は存在しない」とも明言しています。これは米国の判例であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、最も正当性の高い目的の転居でさえ本人の反対がないことを要件にしている例です。

Nor is there any federal requirement that community-based treatment be imposed on patients who do not desire it.
意思決定支援退所や立ち退きをめぐる苦情は、海外でも多いのですか

米国保健福祉省監察総監室の報告によれば、州オンブズマンは discharge/eviction を2013年から2019年まで7年間連続で苦情の第1位として報告しています。連邦会計検査院の2024年の報告でも、2022会計年度に最も多く扱われた苦情類型は退所と立ち退きに関するものでした。監察総監室は、規則に適合しない施設主導の退所は入居者にとって安全でなくトラウマ的な経験になりうるとしつつ、その件数を把握する仕組みが存在しないとも指摘しています。これは米国の監査報告であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、詳細な規則を持つ国でも起きやすい侵害であることを示します。

Facility-initiated discharges that do not comply with regulations (i.e., inappropriate facility-initiated discharges) can be unsafe and a traumatic experience for the resident.
  • OEI-01-18-00250(米国 保健福祉省 監察総監室(HHS OIG)・2021年11月)
  • GAO-24-107209(米国 政府監査院(GAO)・2024年5月)
意思決定支援引っ越しで本当に体調は崩れるのですか

米国の公式データセットを用いた査読論文は、2018年に施設間移転を経験した794人のうち242人(30.5%)が移転外傷の基準を満たしたと報告しています。2019年のコホートでは30.7%、2020年では21.9%でした。複合尺度は機能低下・認知機能低下・抑うつの悪化・行動変化・新規転倒の5領域で構成されています。ただしこれは施設間移転一般の数字で、準備された移転も含んだ平均値である点に注意が必要です。これは米国の学術研究であり、日本の法令上の根拠ではありません。

In 2018, 794 residents were transferred; 242 (30.5%) met the criteria for transfer trauma.
意思決定支援どうしても移らなければならないとき、何に気をつけるべきですか

英国の学術誌に掲載された系統的レビューは、高齢者を施設間で移すことが幸福・健康・生存に有害であるという報告が50年前から続いていることを指摘したうえで、移転後の死亡率・身体的健康・心理的健康の報告が「準備なき移転は、秩序立って準備を含む移転よりも、転帰が悪くなるリスクが高い」ことを示唆し、かつ確認したと述べています。嫌がる本人を言葉で押し切ることは、定義上この準備なき移転に当たります。押し切ることの代替は「移さない」だけでなく「急がない」でもあるという読み方ができます。これは海外の学術研究であり、日本の法令上の根拠ではありません。

Reports of post-move mortality, physical or psychological health suggest and confirm that relocation without preparation carries higher risk of poor outcomes than moves that are orderly and include preparation.
意思決定支援近い場所への転居なら影響は小さいのでは

福島原発事故後に避難した高齢者施設入居者を対象とした査読研究は、震災前後の相対死亡リスクを2.68倍と算出しました。注目すべきは、避難距離が死亡率に意味のある影響を与えなかった一方で、元の施設からの最初の避難がその後の避難よりも有意に高い死亡をもたらしたことです。距離ではなく、住み慣れた場所から引き剥がされること自体が効いているという所見になります。「近いから大丈夫」「同じ法人内だから大丈夫」という説明は、この研究が否定した仮説そのものです。日本国内のデータですが、これは学術研究であり法令上の根拠ではありません。

No meaningful influence of evacuation distance on mortality was observed
意思決定支援自己決定の尊重は、法人だけの責任ですか

豪州の NDIS 行動規範を定める規則は、規範の対象者を事業者法人だけでなく、その被用者・関与者・主要職員の全員としています。対象者は「適用される法律および条約に従って、表現の自由、自己決定および意思決定に関する個人の権利を尊重して行動しなければならない」と定められ、誠実性・透明性、あらゆる形態の暴力・搾取・ネグレクト・虐待の防止と対応も義務です。違反に対して規制当局は業務禁止命令および民事罰を科しえます。責任が個々の職員にも及び、規制当局が直接の処分権限を持つ点が要です。これは豪州の規則であり、日本の法令上の根拠ではありません。

act with respect for individual rights to freedom of expression, self-determination and decision-making in accordance with applicable laws and conventions

根拠:National Disability Insurance Scheme (Code of Conduct) Rules 2018 s.6(1)(a)(豪州)

意思決定支援「本人のためを思って」という判断は、どこまで通りますか

豪州の NDIS 法は、障害のある人が豪州社会の他の構成員と同一の権利として、自らの最善の利益を自ら決定する権利を有し、選択と統制を行使する権利、自らの生活に影響する決定に対等な当事者として関与する権利を有すると定めています。また、合理的なリスクを取ることを含めて選択の行使を支援されるべきだとも規定しています。最善の利益を判断するのは本人であると法律が書いている以上、事業者側の「本人のため」という判断は権限の源泉になりません。「リスクがあるから移した」という論法も、この条文の下では通りません。これは豪州の法律であり、日本の法令上の根拠ではありません。

People with disability have the same right as other members of Australian society to be able to determine their own best interests, including the right to exercise choice and control, and to engage as equal partners in decisions that will affect their lives.

根拠:National Disability Insurance Scheme Act 2013 s.4(8)(豪州連邦法)

意思決定支援一時的に移ってもらって、そのまま戻さないのは

豪州ヴィクトリア州の住宅賃貸借法は、専門障害者住居の事業者が入居者を一時的に別の場所へ移せる場合を法定事由に限り、書面通知を要し、移転期間を最長90日としています。そのうえで、一時移転通知の期間が満了したとき、入居者は当該住居へ戻る権利を有すると定めています(別途の退去通知が出ていない限り)。事業者は一時移転の期間中に適切な代替住居を提供する責任を負い、原因となった事柄を合理的に可能な限り速やかに解決するための措置を取らなければなりません。まず一時的に移して既成事実化しそのまま戻さない、という手口を法が正面から封じています。これは豪州の州法であり、日本の法令上の根拠ではありません。

At the expiry of a notice of temporary relocation, an SDA resident is entitled to return to the SDA dwelling unless a notice to vacate has been given under section 498ZX.

根拠:Residential Tenancies Act 1997 (Vic) s.498ZV(10)(豪州ヴィクトリア州法)

意思決定支援嫌がる人を説得し続けることは、英国ではどう扱われますか

英国の意思能力法2005に基づく法定行動綱領2.8項は、判断能力を欠く可能性のある人を支援する者は、過度の説得や不当な圧力を用いてはならないと定めています。そこには、高圧的または支配的にふるまうこと、本人の決定に影響を及ぼそうとすることが含まれ、本人が本来ならしなかったであろう決定へ押しやってしまいうるとされています。ただし適切な助言と情報の提供は重要だとも書かれています。英国ではこれは支援者の法定行動綱領違反であり、専門職には従う法的義務があります。これは英国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありません。

Anyone supporting a person who may lack capacity should not use excessive persuasion or 'undue pressure'.

根拠:Mental Capacity Act 2005 Code of Practice 2.8(英国)

意思決定支援本人の言い分が合理的でないとき、決定を覆せますか

英国の意思能力法2005第1条は、能力があると推定すること、決定を助けるあらゆる実行可能な手段を尽くさない限り決定できないとみなさないこと、不合理な決定をしたというだけで決定できないとみなさないこと、そしてより制限の少ない方法で同じ目的を達成できないか検討することを原則としています。判断能力がある本人の居住の決定を、合理的でないという理由で他者が覆すことはできません。同法は能力を欠く者についてのみ代行を認める法だからです。これは英国の法律であり、日本の法令上の根拠ではありません。

A person is not to be treated as unable to make a decision merely because he makes an unwise decision.

根拠:Mental Capacity Act 2005 s.1(4)(英国)

意思決定支援判断能力を欠くとされた人の「嫌だ」は考慮しなくてよいのですか

英国の意思能力法2005第4条は、本人に影響する行為や決定に、可能な限り十分に参加させ参加を促さなければならないと定めています。そして、合理的に確認できる限り、本人の過去および現在の意思と感情、能力があれば決定に影響したであろう信念および価値観、その他本人が考慮したであろう要素を考慮しなければならないとしています。仮に判断能力を欠くとされる場合でも、本人が嫌がっているという現在の意思は法定の考慮義務の対象です。能力があってもなくても、事業所都合を優先する余地は法文上ありません。これは英国の法律であり、日本の法令上の根拠ではありません。

the person's past and present wishes and feelings (and, in particular, any relevant written statement made by him when he had capacity)

根拠:Mental Capacity Act 2005 s.4(6)(英国)

意思決定支援介入は「必要でなければしない」という原則はありますか

アイルランドの意思決定支援法2015第8条は、指導原則として、能力があると推定すること、本人を助けるあらゆる実行可能な手段を尽くさない限り決定できないとみなさないこと、不合理な決定をしたというだけの理由で決定できないとみなさないこと、そして個別の状況に照らして必要でない限り介入してはならないことを定めています。介入は権利の制限を最小限にし、尊厳と自律を尊重し、比例的であること、本人の過去および現在の意思と選好に効果を与えることも求められます。事業所の都合は必要性に当たらないため、介入自体が許されないという読み方になります。これはアイルランドの法律であり、日本の法令上の根拠ではありません。

There shall be no intervention in respect of a relevant person unless it is necessary to do so having regard to the individual circumstances

根拠:Assisted Decision-Making (Capacity) Act 2015 s.8(アイルランド)

意思決定支援どこで誰と暮らすかを選ぶ権利は、条約に書かれていますか

障害者権利条約第19条は、障害のある人が他の者との平等を基礎として地域社会で生活する権利を認め、その享受のための効果的かつ適当な措置をとることを締約国に求めています。とくに(a)は、障害のある人が居住地を選択し、どこで誰と生活するかを他の者との平等を基礎として選択する機会を有し、特定の生活様式で生活するよう義務づけられないことを確保するとしています。事業所が本人の意思に反して住まいを決めることは、この選択の機会の否定に当たります。日本は2014年にこの条約を批准した締約国です。

Persons with disabilities have the opportunity to choose their place of residence and where and with whom they live on an equal basis with others and are not obliged to live in a particular living arrangement;

根拠:障害者権利条約 第19条(a)

意思決定支援日本のグループホームについて、国連から何か言われていますか

国連障害者権利委員会は2022年9月に採択した日本への総括所見で、障害のある人が居住地およびどこで誰と暮らすかを選ぶ機会が限られていることを懸念事項に挙げ、その対象として障害者総合支援法に基づくグループホームといった特定の形態に置かれている者を明示的に名指ししました。そのうえで日本国に対し、障害のある人が居住地およびどこで誰と暮らすかを選ぶ機会を有し、グループホームを含む特定の生活様式で生活するよう義務づけられないことを確保し、自らの生活について選択と統制を行使できるようにすることを強く求めています。この文書の英語原文は厚生労働省のサイトに掲載されています。海外の話ではなく、日本が是正を求められている事項です。

Limited opportunities for persons with disabilities to choose their place of residence and where and with whom to live, including for those, dependent on parents and living in their homes, and those, placed in particular arrangements such as group homes under the Act on the Comprehensive Support for the Daily and Social Life of Persons with Disabilities;

根拠:障害者権利条約 対日総括所見(CRPD/C/JPN/CO/1)

意思決定支援事業者の都合を理由に支援内容を決めてよいのですか

国連障害者権利委員会の一般的意見第5号第52項は、支援は常に個人の要求に基づくべきであり、サービス提供者の利益に基づいてはならないと明記しています。あわせて締約国に対し、サービス提供者を監視する仕組みを設け、障害のある人が家庭に隠され、または施設に孤立させられることから保護する措置を採るべきだとしています。事業所の都合で転居させることは、この一文が禁ずるところそのものです。一般的意見は条約解釈の権威的指針であり、日本の法令そのものではありませんが、日本も締約国である条約の解釈として参照されます。

Support should always be based on individual requirements, not on the interests of the service provider.

根拠:障害者権利条約 一般的意見第5号(CRPD/C/GC/5)第52項

意思決定支援小規模のグループホームなら、施設ではないと言えますか

国連障害者権利委員会の一般的意見第5号第16項(c)は、自立生活の可否が建物の種類の問題ではなく、まず第一に、特定の生活様式の押しつけによって個人の選択と自律を失わないことの問題だと述べています。100人超の大規模施設も、5〜8人の小規模グループホームも、個人の住まいですら、施設や施設収容の他の判定要素を持つなら自立生活とは呼べないとしています。判定要素には、日々の決定に対する統制の欠如、誰と住むかの選択の欠如、本人の意思と選好にかかわらない硬直した日課、サービス提供における父権主義的アプローチなどが挙げられています。これは条約機関の解釈であり、日本の法令そのものではありませんが、日本も締約国です。

Neither large-scale institutions with more than a hundred residents nor smaller group homes with five to eight individuals, nor even individual homes can be called independent living arrangements if they have other defining elements of institutions or institutionalization.

根拠:障害者権利条約 一般的意見第5号(CRPD/C/GC/5)第16項(c)

意思決定支援住まいの選択は、生活の周辺的な話ではないのですか

国連障害者権利委員会の一般的意見第5号第24項は、どのように、どこで、誰と暮らすかを選び決めることが、自立して生活し地域社会に包容される権利の中核的な考え方であると述べています。個人の選択は居住地に限られず、日々の予定や日課、生き方や生活様式を含む生活全般の側面に及び、私的領域と公的領域の双方を、毎日そして長期にわたって覆うとされています。転居の可否は周辺的な生活上の都合ではなく、権利の中核だと委員会が明言していることになります。これは条約機関の解釈であり、日本の法令そのものではありません。

To choose and decide how, where and with whom to live is the central idea of the right to live independently and be included in the community.

根拠:障害者権利条約 一般的意見第5号(CRPD/C/GC/5)第24項

意思決定支援後見人がついていなければ、代行決定の問題は起きませんか

国連障害者権利委員会の一般的意見第5号第26項は、正式な法律が無い場合でさえ、家族・介護者・地方当局といった他者が代行決定者としてふるまうことで支配を及ぼし、本人の選択を制限することがあると述べています。つまり法的な後見等が無くとも、事実上「本人の代わりに決めている」状態それ自体が、第19条の実装ギャップとして名指しされています。書類上の権限の有無ではなく、実際に誰が決めているかが問われるという整理です。これは条約機関の解釈であり、日本の法令そのものではありません。

Even if no formal laws are in place, other persons, such as families, caregivers or local authorities, sometimes exercise control and restrict an individual's choices by acting as substitute decision makers.

根拠:障害者権利条約 一般的意見第5号(CRPD/C/GC/5)第26項

意思決定支援住まいと支援をセットで提供することに、問題はありますか

国連障害者権利委員会が2022年に採択した脱施設化ガイドライン第32項は、施設を出る人々を共同住居や指定された地域に集約すること、住居を医療・支援パッケージと抱き合わせにすることが条約第19条および第18条(1)と両立しないとしています。施設を出る人は法的拘束力のある賃貸借または所有の契約を結ぶ権利を享受すべきであり、住居は施設を運営してきたサービス提供者の管理下に置かれてはならず、特定の医療や支援サービスの受入れを条件としてもならないと明記されています。支援を受け続けるにはこちらの住居へ移ってもらう、という構造そのものが対象になります。これは条約機関のガイドラインであり、日本の法令そのものではありません。

Housing should be neither under the control of the mental health system or other service providers that have managed institutions, nor conditioned on the acceptance of medical treatment or specific support services.

根拠:脱施設化に関するガイドライン(CRPD/C/5)第32項

意思決定支援支援者を誰にするかは、誰が決めるのですか

国連の脱施設化ガイドライン第72項は、支援者・支援の輪・支援ネットワークは障害のある本人のみが選ぶことができ、司法・医療当局、家族、サービス提供者といった第三者が選ぶことはできないと定めています。支援者は本人の意思と選好を尊重しなければならず、決して本人の意思に反して任命されてはなりません。第80項は、支援が本人の選択と統制の下にとどまるべきで、非自発的に押しつけられてはならず、本人の自律・自由・プライバシーを侵害する方法で提供されてはならないとしています。これは条約機関のガイドラインであり、日本の法令そのものではありません。

Support should remain subject to the choice and control of persons with disabilities and should not be imposed involuntarily or delivered in a way that infringes upon the person's autonomy, liberty or privacy.

根拠:脱施設化に関するガイドライン(CRPD/C/5)第72項・第80項

意思決定支援「本人の最善の利益を考えて」という説明は成人にも使えますか

国連障害者権利委員会の一般的意見第1号第21項は、最善の利益原則が成人に関して条約第12条に適合する保障ではないと明言し、障害のある人が他の者との平等を基礎として法的能力の権利を享受することを確保するため、意思と選好パラダイムが最善の利益パラダイムに取って代わらなければならないと述べています。「本人のためを思って転居させた」という弁明は、まさに委員会が明示的に否定した論法にあたります。これは条約機関の解釈であり、日本の法令そのものではありませんが、日本も締約国です。

The 'best interests' principle is not a safeguard which complies with article 12 in relation to adults. The 'will and preferences' paradigm must replace the 'best interests' paradigm

根拠:障害者権利条約 一般的意見第1号(CRPD/C/GC/1)第21項

意思決定支援支援関係のなかで、不当な影響力はどう見分けますか

国連障害者権利委員会の一般的意見第1号第22項は、すべての人が不当な影響力を受ける危険を負うが、意思決定を他者の支援に頼る人ではそのリスクが増大しうると述べています。そして不当な影響力を、支援者と被支援者の相互作用の質に、恐れ・攻撃性・脅し・欺瞞・操作の徴候が含まれる場合に生じるものと特徴づけています。あわせて、法的能力の行使に対する保障には不当な影響力からの保護を含めなければならないが、その保護は本人の権利・意思・選好、すなわちリスクを取り誤りを犯す権利を含むものを尊重しなければならないとしています。「本人の選択は間違っているから正した」という言い方への直接の反論になります。これは条約機関の解釈であり、日本の法令そのものではありません。

Undue influence is characterized as occurring, where the quality of the interaction between the support person and the person being supported includes signs of fear, aggression, threat, deception or manipulation.

根拠:障害者権利条約 一般的意見第1号(CRPD/C/GC/1)第22項

意思決定支援瀬戸市の権利擁護に関する相談は、どんな内容が多いのですか

令和6年度第1回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和6年7月1日)の議事録で、権利擁護に関する支援とは具体的にどんな相談かと問われた瀬戸市障がい者相談支援センターの職員は、成年後見制度の概要説明を行い権利擁護センターにつなぐこと、日常生活自立支援事業の説明を行い社会福祉協議会につなぐこと、この2点が大きなところだと答えています。なお尾張東部圏域では、瀬戸市を含む5市1町から委託を受けた権利擁護支援センターが成年後見制度の相談や家庭裁判所への申立て支援等を担っていますが、同センターのサイトに虐待対応マニュアルや虐待防止部会に関する記述は見当たりませんでした。

成年後見制度の概要説明を行い権利擁護センターにつなぐこと、日常生活自立支援事業の説明を行い社会福祉協議会につなぐ
通報・対応他の職員のやり方が気になりますが、言い出せません。これも虐待防止の問題ですか。

東京都福祉保健財団の「虐待の芽チェックリスト」(入所施設版)は、第14項目で他の職員に仕事に関わる相談ができない等、職場でのコミュニケーションがとりにくくなっていないかを、第15項目で他の職員が行っているサービス提供・ケアに問題があると感じることがないかを問うています。全国社会福祉協議会のチェックリストにも、他の職員の虐待と思われる行為を容認したこと(注意できなかったこと)があるか、という項目があります。気づきを言える職場かどうかが、虐待防止の一部として扱われています。

他の職員が行っているサービス提供・ケアに問題があると感じることがありませんか?
通報・対応他の職員が利用者に手を上げるのを見ましたが、注意できませんでした。私にも責任がありますか。

厚木市高齢者・障害者虐待防止ネットワーク会議の自己チェックリストは、「利用者への体罰など」の区分に、利用者に対する他の職員の体罰を容認したことがあるか、という項目を置いています。全国社会福祉協議会の職員セルフチェックリストにも、他の職員が虐待と思われる行為を行っている場面を容認したこと(注意できなかったこと)があるか、という項目があります。見て見ぬふりが点検対象として明示されています。

他の職員が、利用者に対してあなたが虐待と思われる行為を行っている場面を容認したこと(注意できなかったこと)がある。
通報・対応虐待かどうか自信がありません。それでも通報しなければいけませんか。

愛知県の研修資料は、虐待のおそれ、虐待の疑いであっても報告・通報する必要があり、虐待であるかどうかの判断は行政が行うと明記しています。令和5年度の研修資料でも、虐待を受けたのではないかという疑いをもった場合、事実の確認ができなくても法律上、速やかな通報義務が生じる、としています。判断を自分で完結させてから通報するという順序ではありません。

虐待のおそれ、虐待の疑いであっても報告・通報する必要があります。虐待であるかどうかの判断は、行政が行います。

根拠:障害者虐待防止法 第16条第1項

通報・対応虐待防止委員会で話し合ってから通報するかどうか決めればいいですか。

愛知県の研修資料は、虐待防止委員会は「通報をする・しない」の判断をするための組織ではありません、と明記し、発見者やその上司から委員会に報告があった場合も含め、直ちに行政への報告・通報をする必要があると述べています。委員会の役割は、計画づくり、チェックとモニタリング、そして行政の事実確認を踏まえた事後の検証と再発防止策の検討です。通報の前に委員会の結論を待つ運用は、県の指導内容と食い違います。

虐待防止委員会は「通報をする・しない」の判断をするための組織ではありません。

根拠:障害者虐待防止法 第16条第1項

通報・対応上司に報告しましたが、通報されませんでした。私はどうすればいいですか。

愛知県の研修資料は、通報の手順として、まず直属の上司や管理責任者に報告して通報してもらうことでも構わないとしたうえで、上司や管理責任者に報告したにもかかわらず通報がされなかったときにはうやむやにせず自ら通報すべきであり、期間を長くおかずに通報しないと機会を逸することがある、としています。あわせて、通報をしたことによってその人に不利益が生じないようにされるべきである、とも述べています。

上司や管理責任者に報告したにもかかわらず、通報がされなかったときにはうやむやにせず自ら通報すべきです。

根拠:障害者虐待防止法 第16条第4項

通報・対応通報したことで解雇されたりしませんか。

障害者虐待防止法第16条第4項は、障害者福祉施設従事者等は通報をしたことを理由として解雇その他不利益な取扱いを受けない、と定めています。同条第3項は、刑法の秘密漏示罪その他の守秘義務に関する法律の規定は通報を妨げるものと解釈してはならない、としています。また第18条により、通報を受けた市町村の職員も、報告を受けた都道府県の職員も、通報者を特定させる事項を漏らしてはなりません。通報は匿名でも可能です。

障害者福祉施設従事者等は、第一項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

根拠:障害者虐待防止法 第16条第4項

通報・対応通報先は市と県のどちらですか。

障害者虐待防止法第16条は、障害者福祉施設従事者等による虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は速やかに市町村に通報しなければならない、と定めています。第17条は、通報や届出を受けた市町村は、その事項を事業所所在地の都道府県に報告しなければならない、としています。そのうえで第19条により、都道府県知事は社会福祉法や障害者総合支援法その他関係法律の規定による権限を適切に行使するものとされています。通報は市町村で完結しません。

障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

根拠:障害者虐待防止法 第16条・第17条・第19条

通報・対応事業所の中で調査して解決したので、市町村には報告していません。問題ありますか。

神戸市の集団指導資料は、市町村に通報することなく施設等の中だけで事実確認を進め、事態を収束させてしまうことは通報義務違反にあたります、と明記しています。仙台市の集団指導資料も、施設内だけで事態の収束を図ることは通報義務違反であるとしています。厚生労働省の手引きも、通報義務の規定は事案を施設等の中で抱え込んでしまうことなく早期発見・早期対応を図るために設けられたものだと説明しています。

市町村に通報することなく施設等の中だけで事実確認を進め、事態を収束させてしまうことは通報義務違反にあたります

根拠:障害者虐待防止法 第16条第1項

通報・対応「不適切な支援」として内部の指導だけで終わらせてはいけませんか。

厚生労働省の手引きは、設置者や管理者が自ら虐待行為を行っていた事例や、職員が施設内部で虐待があることを報告したにもかかわらず設置者・管理者が通報義務を果たさず、「不適切な支援」という言葉に言い換えて内部の職員指導のみで終わらせたり、事実を隠蔽しようとして通報義務を果たさなかったりした事例があると記述しています。呼び方を和らげて処理することが、隠蔽の類型として明示されています。

「不適切な支援」という言葉に言い換えて内部の職員指導のみで終わらせたり、事実を隠蔽しようとして通報義務を果たさなかったりした事例

根拠:障害者虐待防止法 第16条第1項

通報・対応虐待が起きてしまったとき、管理者として何を基本にすればいいですか。

厚生労働省の手引きは、深刻な虐待に至った事案について、虐待に気付いた段階で適切に通報できていれば、行政による事実確認と指導等を通じて再発防止に取り組むことができ、取り返しがつかない事態には至らなかったのではないかと述べています。そのうえで、虐待が起きてしまった場合の対応の基本は、「隠さない」「嘘をつかない」という誠実な対応を管理者等が日頃から行うことである、としています。愛知県の研修資料も、調査に対し虚偽の報告・答弁を行うと罰金に処されることがあると注意しています。

障害者福祉施設従事者等における障害者虐待が起きてしまった場合の対応の基本となるのは、「隠さない」「嘘をつかない」という誠実な対応を管理者等が日頃から行うことであると言えます。
通報・対応通報を受けた市町村は、事業所からの報告だけで判断してもいいのですか。

愛知県が市町村からの質疑に文書で答えた資料は、通報受理の時点では虐待の疑いが明らかにないと判断できる場合を除いて虐待通報として受理し、事実確認調査等を行うことが必要になるとし、事業所からの報告のみをもって調査不要あるいは虐待ではないと判断することは適切ではない、と述べています。通報内容が軽易もしくは対応済みであっても、繰り返し行われていることや複数の被害者がいることもあるため、必ず事実確認調査を行うことが重要である、としています。

事業所からの報告のみをもって調査不要あるいは虐待ではないと判断することは適切ではない。
通報・対応「虐待ではない」と判断できるのは、どういう場合ですか。

愛知県が市町村からの質疑に答えた資料は、虐待ではないと判断するということは、通報等に関する虐待の事実がない、または明確な根拠のもと虐待の定義に照らして虐待ではない、のいずれかであると考える、と述べています。判断に迷う事案があれば躊躇することなく愛知県障害者権利擁護センターに相談するように、とも記しています。曖昧なまま虐待ではないと処理する余地は示されていません。

虐待ではないと判断するということは、「通報等に関する虐待の事実がない」「(明確な根拠のもと)虐待の定義に照らして虐待ではない」のいずれかであると考える。
通報・対応映像などの証拠がなければ、虐待と認定できないのではないですか。

愛知県が市町村からの事前質疑に答えた資料は、客観的な証拠がなくとも目撃証言によって虐待認定ができる場合もあると考える、と述べています。目撃証言の信用性については、供述内容の具体性、客観的な証拠との整合、目撃者と虐待現場の距離・角度・状況、虚偽供述の動機の有無などを基準に考えることになる、としています。あわせて、虐待者の自白のみに頼ることも危険であるとも記しています。

客観的な証拠がなくとも、目撃証言によって虐待認定ができる場合もあると考える。
通報・対応市町村が虐待と判断しなかった場合、それで話は終わりですか。

愛知県が市町村からの事前質疑に答えた資料は、養護者虐待の事案ではあるが、市町村の行政指導を行う義務を怠ったとして国家賠償請求が認容された事例もあるとし、このことからも、虐待と判断しないことの責任を問われる可能性もあることを十分検討する必要があると考えます、と述べています。あわせて、虐待と判断されなかった事案でも、事実確認・調査の結果を通知する際等に、確認できた不適切な運営等については指導するよう求めています。

虐待と判断しないことの責任を問われる可能性もあることを十分検討する必要があると考えます。
通報・対応虐待の証拠として、相手に断らずに録音してもいいですか。

愛知県が市町村からの事前質疑に答えた資料は、秘密録音については犯罪には該当しないとし、民事訴訟法上も例外的な場合を除き原則としては証拠能力があるとしています。そのうえで、障害者虐待の証拠とするために秘密録音する場合に証拠能力なしとなることはきわめて考えにくく、民法上の損害賠償責任が発生する事態も想定しにくい、と述べています。ただし県の意見として、秘密録音が直ちに違法になるとはいえないが当事者に事前説明することが望ましく、特に市町村は目的を伝え了承を得たうえで行うべきだとしています。

障害者虐待の証拠とするために秘密録音する場合に証拠能力なしとなることは、きわめて考えにくい。
通報・対応虐待の疑いを知りながら組織として動かなかった場合、事業所は処分されますか。

愛知県が2021年10月に公表した共同生活援助への行政処分では、処分理由が2本立てで構成されていました。1つは、元職員が利用者に身体的虐待を加えたことによる人格尊重義務違反です。もう1つは、関係先からの虐待疑いの提起を関係職員間で情報共有せず、利用者の目に見える外傷や入院事案が頻繁に発生しているにもかかわらずこれを看過し、調査等必要な対応を怠ったことによる関係法令違反です。虐待の有無とは別に、疑いへの組織的対応それ自体が処分事由になり得ます。

関係先からの虐待疑いの提起を関係職員間で情報共有せず、また、利用者の目に見える外傷や入院事案が頻繁に発生しているにもかかわらず、これを看過し、調査等必要な対応を怠った。

根拠:障害者総合支援法 第50条第1項

通報・対応虐待とまでは言えない対応でも、行政から指導されることはありますか。

愛知県が市町村からの事前質疑に答えた資料は、虐待であるか否かにとらわれ過ぎると本来必要な事業所への指導の機会を逸することも考えられるとし、虐待と判断されなかった事案においても、事実確認・調査における結果を通知する際等、事業所に対して確認できた不適切な運営等については指導をお願いします、と述べています。札幌市の集団指導資料にも、客観的な証拠がなく虐待の事実は確認できなくても、不適切な関りがあったと判断すれば指導対象とし事業所に改善を求める、と記されています。

虐待と判断されなかった事案においても、事実確認・調査における結果を通知する際等、事業所に対して確認できた不適切な運営等については指導をお願いいたします。
通報・対応通報されて虐待と判断される件数は少ないので、実際にはあまり起きていないのでは。

愛知県の研修資料は、虐待判断されているのは虐待の一部ではないかとし、表面化する虐待、通報されず表面化しない隠れた虐待、通報に至らない虐待の疑い(不適切な支援)を層として図示しています。現在は隠れた虐待が多くて表に出る虐待はごく少ないのではないか、これからは隠さないで対応する事例を多くしていかなければならない、と述べ、法の規定ぶりを狭く解釈せずに手引きにあるような幅広いケースに対応していくとしています。

法の規定ぶりを狭く解釈せずに、手引きにあるような幅広いケースに対応していく
通報・対応小さな事案なら、わざわざ通報しなくてもいいのではないですか。

愛知県が事業所向け研修で示している「皆様にお願いしたいこと」には、虐待が疑われる行為を発見した場合、小さな事案であっても隠さずに通報してください、と書かれています。あわせて、法人や事業所内で虐待に係る情報が経営者や管理者に伝わりやすい環境(風通しの良い職場環境)を整えること、被虐待者及び他の利用者のアフターフォローに努め潜在的な虐待がないか注視すること、虐待者及び他の職員への助言・指導にも努めることを求めています。

虐待が疑われる行為を発見した場合、小さな事案であっても隠さずに通報してください。

根拠:障害者虐待防止法 第16条第1項

通報・対応虐待は行政の指導だけで終わりますか。警察が関わることはありますか。

愛知県の研修資料は、虐待行為は刑事罰の対象になる場合があり、これまでの事案でも職員が逮捕・送検された例が複数あるとしています。そのうえで、刑事訴訟法第239条第2項が公務員の告発義務を定めていることを示し、市町村・都道府県が事実関係を把握した段階やその後の調査の中で、警察等への被害の届出、告発の要否を適正、迅速に判断し、必要に応じて被害の届出の支援や行政としての告発を行うことが求められる、と述べています。

障害者虐待においては、市町村、都道府県が事実関係を把握した段階やその後調査を進める中で、警察等への被害の届出、告発の要否を適正、迅速に判断し、必要に応じ、被害者による被害の届出の支援や行政として告発を行うことが求められます。
通報・対応瀬戸市で障害者虐待を通報するときは、どこに連絡すればいいですか。

愛知県が公表している市町村障害者虐待防止センター等連絡先の一覧には、瀬戸市の窓口として瀬戸市障がい者相談支援センター(電話 0561-84-0606、瀬戸市追分町64番地の1、瀬戸市役所2階)が掲載されています。この一覧には、センター未設置の自治体は市役所・町村役場の虐待相談窓口を掲載しています、という注記が付いています。県内には「○○市障害者虐待防止センター」という名称の窓口を置く市もあります。

瀬戸市|瀬戸市障がい者相談支援センター|0561-84-0606|489-8701|瀬戸市追分町64番地の1(瀬戸市役所2階)

根拠:障害者虐待防止法 第40条

通報・対応瀬戸市は、虐待の通報があったときにどう対応すると言っていますか。

瀬戸市障害者福祉基本計画【第7次】は「(2)虐待防止体制の構築」の項で、障害者虐待に関する迅速・確実な対応に向け、普及啓発の充実を図ることで地域全体で見守り対応できる体制づくりを関係機関と連携し構築する、としています。推進に向けた取組には、虐待の未然防止や早期発見のため相談窓口の周知を図ること、虐待の通報があった場合は虐待を受けた人の保護や虐待者への指導・助言等、迅速に対応すること、事業所向けの虐待防止研修会を定期的に開催することが挙げられています。

◆虐待の通報があった場合は、虐待を受けた人の保護や、虐待者への指導・助言等、迅速に対応します。
通報・対応市の窓口が動いてくれないとき、他に相談できるところはありますか。

愛知県障害者権利擁護センターは、愛知県福祉局福祉部障害福祉課内に置かれ、電話052-954-6294、受付は平日午前8時45分から午後5時30分までです。受付・相談内容として、障害者虐待に関する相談及び身近な相談を行う機関の紹介、使用者による障害者虐待の通報・届出の受付、市町村に対する情報の提供、助言その他必要な援助などが挙げられています。非常勤の嘱託弁護士1名を配置し、通報・届出や市町村からの相談に法的なバックアップを行うとされています。

・障害者虐待に関する相談及び身近な相談を行う機関の紹介 ・使用者による障害者虐待の通報、届出の受付 ・市町村に対する情報の提供、助言その他必要な援助 など

根拠:障害者虐待防止法 第36条第2項

通報・対応虐待があった場合、事業所は行政から何を求められますか。

愛知県が平成31年4月から令和8年1月までに発出した主な指導改善指示事項の一覧には、虐待案件について、法人(施設)として研修や会議など再発防止に向けた具体的取り組みについて報告すること、が挙げられています。同じ一覧には、やむを得ず身体拘束等を行う場合は事前に利用者等に対して同意を得ること、実際に行った際は状況・手段・時間・緊急やむを得ない理由等を記録に残すこと、苦情・事故・ヒヤリハットの記録の様式を整備し適切に残すこと、も並んでいます。

虐待案件について、法人(施設)として研修や会議など再発防止に向けた具体的取り組みについて報告すること
通報・対応証拠がなくて虐待の事実が確認できない場合、行政は何もしないのですか。

札幌市の集団指導資料には、客観的な証拠がなく虐待の事実は確認できなくても、不適切な関りがあったと判断すれば指導対象とし、事業所に改善を求める、と明記されています。横浜市の集団指導資料も、虐待であると判断されていない案件の中には支援上の問題がある案件もある、というポイントを示しています。虐待と認定されなかったことは、問題がなかったことを意味しません。

客観的な証拠がなく虐待の事実は確認できなくても、不適切な関りがあったと判断すれば指導対象とし、事業所に改善を求める
通報・対応虐待を受けている本人が「これは虐待だ」と分かっていない場合はどうなりますか。

千葉市が事業者向けに出した通知は、養護者虐待について、虐待者が「指導・しつけ・教育」の名の下に不適切な行為を続けていることや、被虐待者が自身の障害の特性から自分のされていることが虐待だと認識していないこともある、としています。あわせて、長期間にわたって虐待を受けた場合などでは、被虐待者が無力感からあきらめてしまっていることもある、と述べています。本人が訴えないことを、虐待がない根拠にはできません。

被虐待者が無力感からあきらめてしまっていることもある
通報・対応虐待の事実が確認できなかった場合、施設は何もしなくていいですか。

神奈川県の施設職員向けの手引きは、施設内で虐待が起きた後の対応について、虐待を行った職員の資質によるものと決めつけず、なぜ起きてしまったのか、施設全体でどう取り組むかを検討することが重要だとしています。そのうえで、虐待の事実が確認出来ない場合もあるが、虐待の疑いがあることは事実である、として防止策の検討を求めています。改善が図られない場合は、勧告・命令・指定取消し処分の権限を行使することも明記しています。

虐待の事実が確認出来ない場合もあるが、虐待の疑いがあることは事実
通報・対応管理者や設置者が虐待に関わっていた場合、処分は重くなりますか。

川崎市の集団指導資料は、管理者を含む複数の職員が居室扉の外側から自転車用チェーンを掛けて中から扉を開けられないようにした事例を挙げ、監査において管理者等の関与が確認された場合には行政処分が重くなる可能性があるとしています。さらに、管理者等が直接虐待を行った場合だけでなく、虐待を認識していながら何も対応しなかった場合も含まれることがある、と述べています。

管理者等が直接虐待を行った場合だけでなく、虐待を認識していながら何も対応しなかった場合も含まれることがある
通報・対応施設の側から通報することは、実際にあるのですか。

厚生労働省の令和6年度の調査結果では、障害者福祉施設従事者等による虐待の通報者は、当該施設・事業所の職員が20.5%、同 設置者・管理者が16.5%で、施設側が自ら通報した事案が全体の37.1%を占めています。次いで本人による届出13.8%、家族・親族10.0%です。愛知県の統計でも、相談・通報・届出者は当該施設等職員が最も多く、次いで設置者・経営者、市町村行政職員、相談支援専門員となっています。

施設側が自ら通報した事案が全体の37.1%
通報・対応精神科病院での虐待も通報の対象になりますか。

令和4年の精神保健福祉法改正により、令和6年4月以降、精神科病院の業務従事者による虐待を受けたと思われる患者を発見した者は、速やかに都道府県・指定都市に通報することが義務づけられました。厚生労働省が令和8年1月に公表した資料では、通報・届出件数は全体で6,258件、虐待の事実を認定した件数は260件、被虐待者数は413人でした。認定した虐待の種別は身体的虐待158件、心理的虐待131件、性的虐待23件、放棄・放置23件、経済的虐待4件です。

通報・届出件数は全体で6,258件
通報・対応権利擁護について、瀬戸市の圏域ではどこに相談できますか。

特定非営利活動法人 尾張東部権利擁護支援センター(愛称あすライツ)は、瀬戸市・尾張旭市・豊明市・日進市・長久手市・東郷町の5市1町からの委託により運営され、各市町の成年後見制度利用促進の中核機関を受託しています。中核機関に限定されない独自事業として、虐待対応相談支援や法人後見も実施しています。所在は日進市竹の山四丁目301番地、電話0561-75-5008です。

尾張東部地区の5市1町(瀬戸市・尾張旭市・豊明市・日進市・長久手市・東郷町)から委託を受けて運営
通報・対応行政の虐待対応が不十分だと感じたとき、圏域として頼れる仕組みはありますか。

瀬戸市を含む5市1町と尾張東部権利擁護支援センターが策定した第二期成年後見制度利用促進計画は、施策13として「権利侵害からの回復のための虐待対応機関とセンターとの連携」を掲げ、虐待対応機関(行政・相談機関)に対してスーパーバイザー派遣事業の活用を促進すること、虐待防止に関する周知啓発のための研修会等を行うことを定めています。現状評価では、外部のスーパーバイザーからの個別の助言・指導を行ってきたと記されています。

13-1 虐待対応機関(行政・相談機関)に対してスーパーバイザー派遣事業の活用を促進します
通報・対応一度通報して改善しなかった場合、また通報していいのですか。

江戸川区の集団指導資料は、虐待には複数の原因があり、その全てを一度に改善することは困難であるとしたうえで、何度でも通報によって自治体及び外部の専門職の力を借りての改善を繰り返すしかない、と述べています。同資料は、人員不足のなかで職員が抱える葛藤も併記し、これは虐待になるのだろうか、仕事なんてやってられない、本来の人員で支援できるよう何度も頼んでいる、といった内心を示したうえで考えさせる構成になっています。

何度でも通報によって自治体及び外部の専門職の力を借りての改善を繰り返すしかない
通報・対応虐待防止のために、外部の目を入れる方法はありますか。

愛知県の研修資料は、虐待防止のための具体的な環境整備として、苦情解決制度の活用、サービス評価やオンブズマン、相談支援専門員等の外部の目の活用、成年後見制度や日常生活自立支援事業の活用を挙げています。愛知県が公表した改善計画の取組例にも、第三者委員会の設置、法人本部職員の定期的な巡回、別法人の運営する事業所との交流が「外部の目による監視」として挙げられています。閉鎖的な環境は、県が虐待の起こりやすい環境として名指ししているものです。

③サービス評価やオンブズマン、相談支援専門員等外部の目の活用
通報・対応虐待をした職員個人だけの問題として処理してもいいですか。

愛知県が2021年10月に公表した共同生活援助への行政処分では、事業所の元職員が2名の利用者に対して複数次にわたり身体的虐待を加え、入院等の加療を要することとなった事実について、指定障害福祉サービス事業者として果たすべき障害者の人格を尊重することをもって職務を遂行することを欠くものである、として法人が人格尊重義務違反で処分されています。神奈川県の手引きも、虐待を行った職員の資質によるものと決めつけず施設全体で検討することが重要だとしています。

この事実は、指定障害福祉サービス事業者として果たすべき障害者の人格を尊重することをもって職務を遂行することを欠くものである。

根拠:障害者総合支援法 第42条第3項

通報・対応管理者が通報しなかった場合、通報義務違反だけの問題ですか。

高齢者虐待対応マニュアルの介護・世話の放棄・放任⑤には「施設管理者や主任等が虐待の通報義務や虐待防止措置義務を怠る」が具体例として書き込まれています。つまり、通報しないことは手続違反であるだけでなく、管理者自身の虐待行為として整理されています。栃木県の事例集も、代表者などが虐待の疑いがある行為を知りながら通報しない場合は組織的な隠蔽とみなされると記述しています。管理者の不作為は、行為者本人の責任とは別に評価されます。

・施設管理者や主任等が虐待の通報義務や虐待防止措置義務を怠る。
通報・対応職員から虐待の相談を受けたとき、管理者は何をすべきですか。

栃木県の事例集は、就労移行支援事業所で管理者が相談を受けながら指導も通報もせず、結果として2回目の行為を招いた事例を挙げています。この事業所は障害者総合支援法上の人格尊重義務違反で新規受入停止6か月の処分を受け、処分の1か月後に廃止されました。1回目は行為者の問題ですが、2回目は組織の問題です。相談を受けた時点で管理者に作為義務が発生します。

1回目の行為の後、被害者が管理者に相談をしていたが、管理者は、虐待者への指導も行わず、虐待通報も行わなかった。結果、2回目の行為を招いてしまった。
通報・対応深刻な虐待事案に共通する特徴はありますか。

京都府の研修資料は「深刻な事案に共通するポイント」として、利用者の死亡・骨折など取り返しのつかない被害、複数の職員が複数の利用者に対して長期間にわたり虐待を繰り返すこと(利用者間のトラブル放置を含む)、通報義務の不履行、設置者・管理者の人権意識の低さと組織的な虐待の隠ぺい、事実確認調査に対する虚偽答弁、通報者が誰かを捜すこと、を挙げています。「気づいていたが誰も言わなかった」は、深刻化した事案の共通項目として整理されています。自分の事業所に当てはまる項目がないか、この6点で点検してください。

○ 通報義務の不履行(通報をしない体質)(内部告発による発覚)
通報・対応自分は虐待をしていませんが、やめさせる立場にありました。責任は問われますか。

神戸市は、精神科病院の虐待事件について、管理者に加え管理者以外の主治医についても違法な隔離をやめさせることができなかった点に着目し、指定医計4名の指定取消しを求める報告書を厚生労働省へ提出しました。虐待行為をした看護師・看護助手ではなく、やめさせなかった医師の資格が問われています。権限を持つ立場にある者の不作為は、直接の加害と独立して制裁の対象になります。なお令和6年4月から、精神科病院の業務従事者による虐待については発見者の都道府県等への通報が義務化されています。

管理者に加え管理者以外の主治医についても、違法な隔離をやめさせることができなかった点に着目し
通報・対応確認したけれど分からなかった場合、記録にはどう書けばよいですか。

栃木県の事例集は、聞き取りの過程で確認したが不明であったことは、その旨を記録するよう求めています。確認をしたが不明であったのか、そもそも確認をしなかったのかが不明だと、その後の対応に影響を与える場合があるためです。これは支援記録でも同じで、実施したのに書かなかった支援は、後の調査では実施していないものとして扱われます。船橋市の事案で不足回数568回が数えられたのは記録があったからであり、記録は事業所を守る側にも不利にする側にも働きます。

確認をしたが不明であったのか、そもそも確認をしなかったのかが不明であると、その後の対応に影響を与える場合があります。
通報・対応監査のときに、記録を整えてから出してもよいですか。

京都府の資料は、深刻な事案に共通するポイントとして「事実確認調査に対する虚偽答弁(うそをつく)」を挙げています。栃木県の事例集の巻末寄稿は、県内の知的障害者施設の虐待事件について、職員の証拠隠滅も刑事事件となっていると記しています。介護保険法上も、報告命令・帳簿書類提出命令・従業者への質問に対して拒否や虚偽報告をした場合は罰則の適用があり、指定を取り消されることもあります。記録の改ざんは、元の虐待より重い結果を招きます。

この事件に関連して、職員の証拠隠滅も刑事事件となっており
通報・対応虐待を見つけたら、必ず市町村に通報しなければいけませんか。

障害者虐待防止法第16条は、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に、市町村への速やかな通報を義務づけています。栃木県の事例集は、代表者などが虐待の疑いがある行為を知りながら通報しない場合は組織的な隠蔽とみなされると記述しています。令和6年度の調査では、当該施設・事業所の職員や管理者が自ら通報した事案は全体の37.1%にとどまっています。虐待かどうかの判断は市町村が行うため、確信がなくても「疑い」の段階で通報してください。

代表者などが虐待の疑いがある行為を知りながら通報しない場合、組織的な隠蔽とみなされます。

根拠:障害者虐待防止法 第16条

通報・対応通報した職員は法律で守られていますか。

日本弁護士連合会は2022年11月16日、「高齢者及び障害者虐待に係る通報をした者の保護の徹底を求める意見書」を取りまとめ、同月22日に法務大臣・厚生労働大臣へ提出しました。意見の趣旨は、両法に通報を妨げ又は萎縮させる行為の禁止規定を置くこと、通報者に対する損害賠償請求の禁止を明記すること、守秘義務の例外要件を虚偽通報に限定し従事者の免責を明確にすること、都道府県・市町村に独立した第三者たる「通報保護担当官」を置く制度を創設することの4点です。これは立法提言であり、現行法にこれらの規定があるわけではありません。提言が出るということは、現に通報した職員が法人から訴えられる事態が起きているということでもあります。

何人も、虐待に係る通報及び届出を妨げ又は萎縮させる行為をしてはならない
通報・対応市町村の障害者虐待防止センターは、施設職員による虐待の相談にも応じてくれますか。

障害者虐待防止法第32条第2項第1号は通報又は届出を受理することを、第2号は養護者による障害者虐待の防止及び保護のため障害者及び養護者に対して相談、指導及び助言を行うことを、第3号は広報その他の啓発活動を行うことを定めています。第1号は第16条第1項(障害者福祉施設従事者等による虐待の通報)を含むため、受理業務は類型を問いません。厚生労働省の手引きもこの読み方をそのまま採っています。一方で同じ手引きは、窓口の周知文例として「障害者の虐待や養護者の支援に関する相談、通報、お問い合わせは下記まで」を掲げています。センターは休日や夜間においても速やかに対応できる体制を確保することが必要とされています。

二 養護者による障害者虐待の防止及び養護者による障害者虐待を受けた障害者の保護のため、障害者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うこと。

根拠:障害者虐待防止法 第32条

通報・対応市町村で対応してもらえないとき、都道府県に相談できますか。

障害者虐待防止法第36条第2項第3号は「障害者虐待を受けた障害者に関する各般の問題及び養護者に対する支援に関し、相談に応ずること又は相談を行う機関を紹介すること」と定めており、市町村センターの第32条第2項第2号のような「養護者による」という限定がありません。第7号には「その他障害者に対する虐待の防止等のために必要な支援を行うこと」という包括的な受け皿規定も置かれています。手引きも、通報を受けた市町村に十分な経験がない場合、市町村は積極的に都道府県障害者権利擁護センターに相談し、同センターは具体的な助言や連絡調整の援助を行うことが求められると記載しています。

三 障害者虐待を受けた障害者に関する各般の問題及び養護者に対する支援に関し、相談に応ずること又は相談を行う機関を紹介すること。

根拠:障害者虐待防止法 第36条

通報・対応対応が難しい利用者について、事業所だけで抱えるしかないのでしょうか。

厚生労働省の手引きは、行動障害のある利用者支援の中で事業所が様々な問題を抱え込んでしまうことがあるとしたうえで、抱え込まないで関係する機関と連携することで様々な視点からのアドバイスや情報を得ることができると述べています。行政に相談・報告することで、支援困難な事例に取り組んでいる実態を行政も把握できることになります。さらに手引きは、強度行動障害を有する児者の支援においては特定の事業所、特定の支援者だけで支えるには限界があるとし、対応困難なケースを抱え込まずに自治体とも連携しながら支援を継続していくことが求められるとしています。

各施設・事業所においては、対応困難なケースなどを抱え込まずに、自治体とも連携しながら支援を継続していくことが求められます。
通報・対応精神科病院での虐待にも通報義務がありますか。

令和4年の精神保健福祉法改正(令和4年法律第104号、第40条の2〜第40条の8を新設)により、令和6年4月以降、精神科病院の業務従事者による虐待を受けたと思われる患者を発見した者は、速やかに都道府県・指定都市に通報することが義務づけられました。通報した業務従事者は解雇その他の不利益な取扱いを受けません。厚生労働省の集計では、通報・届出は全体で6,258件、虐待の事実を認定した件数は260件、被虐待者数は413人でした。認定された類型は身体的虐待158件、心理的虐待131件、性的虐待23件、放棄・放置23件、経済的虐待4件です。

通報・対応虐待が起きたとき、第三者委員会はどう作ればよいですか。

日本弁護士連合会の「事業者による高齢者・障害者に対する虐待検証のための第三者委員会ガイドライン」は、当該事業者から独立した委員で構成される第三者委員会を設置・運営するための指針です。委員会は虐待の有無・原因・背景を調査し、再発防止策を提言します。要点は、独立した委員構成、全ステークホルダーのための調査、調査結果と再発防止策の公表です。公表により、傷つけられた高齢者・障害者が尊厳を保持して生活できるよう改善が図られ、併せて事業者の信頼回復につながることを目指すとされています。

通報・対応「上に言っても無駄」という空気があります。何が起きますか。

神奈川県の障害者支援施設の第三者委員会中間報告書は、幹部について「虐待の疑いをうやむやにする体質」「現場に指示するだけの対応とコミュニケーションの無さ」「現場に責任を押しつける姿勢」を挙げ、管理職に立場ごとの職責・スキル要件の設定がなく問題が発生しても明確な責任を取るべき者が存在しないと指摘しています。部門間コミュニケーション不全が甚だしく、職員には「上に言っても無駄」という認識が蔓延していたとされます。結果として、職場に不満を持つ退職者が発生し、経験ある職員が減り、さらなる欠員と支援の劣化という悪循環が起きていました。

通報・対応結局、いま現場で最初にやるべきことは何ですか。

本資料で確認できた公的資料と事例に共通するのは、記録・複数人・外部との連携の3つです。記録は事業所を守る側にも不利にする側にも働きますが、記録がなければ「やっていない」と読まれます。判断は複数職員で行い、身体拘束にあたりうる行為は組織で決定し、態様・時間・理由・共有状況を書き残してください。そして手引きが繰り返し述べているとおり、事業所で抱え込まずに市町村の障害者虐待防止センター等へ相談してください。答えの出ない場面ほど、手続を踏んだ記録が唯一の防御になります。

事業所で抱え込まないで、関係する機関と連携することで支援について様々な視点からのアドバイスや情報を得ることができます。
通報・対応「本人が同意した」と言えば、それで問題は終わりますか。

この一文は経済的虐待の柱書に置かれていますが、括弧書きに「以下同様」とあり、手引き全体の同意概念に及ぶ書き方になっています。したがって「本人が最後は納得した」という事業所側の説明は、それだけで免責の根拠にはならず、見極めの対象になります。同じ経済的虐待の例に「立場を利用して、『お金を貸してほしい』と頼み、借りる」が挙がっている点も、事業所と利用者の力関係の非対称性を評価要素とする姿勢を示しています。同趣旨の括弧書きは自治体のマニュアルにも横展開されています。

○ 本人の同意(表面上は同意しているように見えても、本心からの同意かどうかを見極める必要がある。以下同様。)なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること。

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項第5号

通報・対応なぜ表面上の同意が信用できないのか、説明した資料はありますか。

この記述は千葉県の障害者虐待対応マニュアルの一節で、長野県の権利擁護研修資料に引用されています。国の手引きが「本心からの同意かどうかを見極める」とだけ書くのに対し、県版はなぜ表面上の同意が信用できないかの理由まで書いています。ただし当該記述は性的虐待の文脈で書かれたものであり、住まいや転居の文脈に直接及ぶものではありません。理由の説明として参照できる、という位置づけで扱う必要があります。

□本人が同意していない性的な行為やその強要(表面上は同意しているように見えても、判断能力のハンディに付け込んでいる場合あり、本心からの同意かどうかを見極める必要がある。) ~千葉県障害者虐待対応マニュアル
通報・対応虐待かどうか自信がないとき、通報してよいのですか。

厚生労働省の手引きは、通報の手順として、現場の職員が虐待を受けたと思われる障害者を発見した際は速やかに市町村の障害者虐待防止センターへ通報しなければならないとしています。法人内で通報の手順を定めている場合は上司や管理責任者に報告して通報してもらうことでも構いませんが、報告したのに通報がされなかったときはうやむやにせず自ら通報すべきだとされています。その際は期間を長くおかずに通報しないと機会を逸することがある、とも書かれています。通報したことによってその人に不利益が生じないようにされるべきだとも明記されています。

④ 疑いを発見した事案が虐待であったかどうかは第三者が認定することで、事実が確認できていなくても通報はできます。

根拠:障害者虐待防止法第16条第1項

通報・対応管理者は、虐待かどうか判断してから通報すればよいのですか。

あわせて、市町村・都道府県からの立入調査に協力すること、通報した者が誰であってもそのことで不利益が生じないようにすること、事案が発生した場合は時系列に記録し背景要因を探り報告書にまとめることが並んでいます。これは手引きが掲載する事業所の指針の記載例であり、法令の規定そのものではありません。愛知県の研修資料も「虐待防止委員会は『通報をする・しない』の判断をするための組織ではありません」と説明しています。判断を待つ間に通報の機会を逸することが、手引きが避けようとしている事態です。

④ 管理者は虐待であると明確に判断できない場合であっても、速やかに障害者虐待防止法に基づく通報を行い、市町村・都道府県からの立入調査に協力します。 ⑤ 通報した者が誰であっても、そのことで不利益が生じないようにします。 ⑥ 上記の事案が発生した場合は時系列に記録し、背景要因を探り、報告書にまとめます。必要な場合は家族会においても報告いたします。

根拠:障害者虐待防止法第16条第1項

通報・対応虐待かどうかを判断するのは誰ですか。

市町村・都道府県版の手引きは「虐待でないことが確認できるまでは虐待事案として対応することが必要」とし、虐待事案であることが確定するまで虐待事案としての対応を行わないという考え方は不適切だと明記しています。また、虐待をしている側の自覚も、障害者本人の自覚も問わないとしています。判断は虐待対応ケース会議等を活用して組織的に行い、事実確認の調査も客観性確保の観点から複数の職員で対応することが原則とされています。愛知県の研修資料は、これを「当事者ではなく行政(市町村、都道府県)が判断する」と言い換えて説明しています。

虐待でないことが確認できるまでは虐待事案として対応することが必要です。つまり、虐待事案であることが確定するまでは虐待事案としての対応を行わないという考え方は不適切であるということです。

根拠:障害者虐待防止法第16条・第17条

通報・対応「本人が納得している」「合意があった」と言われた場合、行政はどう見ますか。

素材集は、合意を得た行為や借用書が交わされていることは、一般の家庭や社会であればともかく、施設・事業者と利用者という関係においては適切ではないとしています。括弧書きで「無意識に誘導された意思等」にも触れています。あわせて、虐待は事実であったかが問題であり、その背景や諸事情を併せて判断されるべきものではない、職員の復職等を考慮に入れて虐待の判断が歪められることは決してあってはならない、とも書かれています。行為を行った者の認識は虐待の判断に影響を与えないとも明記されています。

上記のうち、合意を得た行為や、借用書が交わされているといったことは、一般の家庭や社会であればともかく、施設・事業者と利用者という関係においては適切ではありません。これらの環境にあっては、施設・事業者と利用者は現実には対等の立場とはなりえないということを念頭に置いたうえで、事実確認等が行われるべきです(無意識に誘導された意思等)。
通報・対応加害者とされる職員が否認している場合、虐待認定はできないのですか。

素材集のトピックスは、加害者への民事責任の追及、法人への民事責任の追及、加害者への刑事責任の追及(警察・司法)、施設・事業所への行政処分・指導(行政)を、別々の系統として図示しています。そのうえで、刑事責任の追及においては慎重な対応が必要になるかもしれないとしつつ、目撃証言や被害者の訴え等があり虐待が起きたことが明らかな場合について、この一文を置いています。行政が行う法的対応は加害者個人に対してではなく、法人や施設・事業所に対する指導・勧告や行政処分であることが理由として書かれています。

行政が行なう法的対応は加害者個人に対してではなく、法人や施設・事業所に対する指導・勧告や行政処分ですので、加害者の認否の如何に関わらず虐待認定していくことが求められます。
通報・対応自治体によって虐待と判断する割合が違うのは、認められていることですか。

令和4年8月23日の事務連絡は、事実確認調査を行った件数と虐待と判断した件数の割合に大きなばらつきがあること、必ずしも適切ではない理由により調査を実施しない又は虐待の判断を行っていない事例が認められたことを指摘しています。そのうえで、初動対応方針の協議や虐待の有無の協議には必ず管理職が参加して組織的に対応すること、事実確認を訪問等により実施することを求めています。別添資料では、虐待者が非を認めたため注意喚起に留まった、調査に入ることで事業所と利用者の関係性が損なわれる可能性があった、該当職員が退職していた、といった理由が不適切なものとして列挙されています。ばらつきは是認されているのではなく、是正すべきものとされています。

市町村に相談・通報があった場合は、事実確認を訪問等により実施するとともに、虐待ではないことが明らかになるまでは虐待の可能性を排除せずに対応すべきであること
通報・対応警察が動いている事案でも、市町村への通報は必要ですか。

通達は、虐待行為を裏付ける具体的な証拠がない場合であっても、関係者の申出内容等から障害者虐待が行われた可能性があると判断できる事案であれば通報の対象とするとしています。また、通報した事案については市町村に措置結果を連絡するよう依頼し、1か月を経過しても連絡がないときは警察から市町村に状況を確認することとされています。これは、警察が対応した事案についても市町村側で別途の措置が行われることを前提にした規定と読めます。なお本通達は厚生労働省と協議済みと明記されています。

障害者虐待事案については、市町村への通報と並行して、事件化の可否及び要否、事案の緊急性・重大性を迅速に判断した上で、事件化すべき事案については、関係機関の告発等を待つことなく、可能な限り速やかに必要な捜査を行い、捜査を契機として、障害者を救出保護すること。

根拠:障害者虐待防止法第16条第1項

通報・対応通報した職員は守られますか。

第16条第1項は「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない」と定めており、「受けたと思われる」であって確証は要件になっていません。通報者を特定させる情報については、第18条が市町村・都道府県の職員に漏らしてはならない義務を課しています。委託を受けた者にも第33条第3項が同様の義務を課しています。ある市の専門職向けチラシは「“かもしれない”時点でOK!」と説明しています。

3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。 4 障害者福祉施設従事者等は、第一項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

根拠:障害者虐待防止法第16条

通報・対応通報義務の3類型に当たらない話でも、市町村は受け付けてくれますか。

手引きは、虐待防止法第3条の「何人も障害者を虐待してはならない」の趣旨に立ち返れば、養護者・障害者福祉施設従事者等・使用者以外の者が行った虐待について任意の通報が行われる場合が考えられるとしています。そのうえで、通報・届出の内容を聞き取り、対応すべき機関に連絡し確実に引き継ぐこと、必要に応じて市町村や都道府県が対応することが求められるとしています。市町村・都道府県は、こうした通報に備えて所管部署や警察の担当部署を事前に確認し、連絡・引き継ぎ方法を確立しておく必要があるとされています。義務としての通報が成立しない場合でも、相談・情報提供の経路は制度上開かれています。

そのような場合、通報義務のある障害者虐待に該当しないことを理由に受付けないという対応は当然するべきではなく、通報・届出の内容を聞き取り、学校、保育所等、医療機関、公共交通機関等で起きた虐待事案に対応すべき機関に連絡し、確実に引き継ぐことや、必要に応じて市町村や都道府県が対応することが求められます。

根拠:障害者虐待防止法第3条

通報・対応通報や相談の前に、どんな形で記録を残しておけばよいですか。

手引きは事実確認の項で、曖昧に聞き取るのではなく、直接に見聞きしたのか、伝聞なのか、誰が何と言ったのか等の事実を確認し、加えて虐待の場所、日時、どのような虐待を何回したのか等の具体的な内容を確認するとしています。手引きが掲載する受付様式にも「実際に目撃した」「あざ等を見て、又は怒鳴り声や泣き声等を聞いて推測した」「本人から聞いた」「(   )から聞いた」という選択肢が置かれています。通報する側も、この区別ができる形で手元の記録を整理しておくと、そのまま受付様式に対応します。手引きは、重要な情報についてはできるだけ複数の関係者から情報を得るようにする、とも述べています。

また、「Ⅱ―3(1)相談、通報及び届出の受付」と同様、曖昧に聞き取るのではなく、直接に見聞きしたのか、伝聞なのか、誰が何と言ったのか等事実を確認します。加えて、虐待の場所、日時、どのような虐待を何回したのか等、具体的な内容を確認します。
通報・対応匿名でも通報できますか。

手引きは、通報者が名前を言うことを嫌がることがあるとしたうえで、「通報者の秘密」は守られることを説明し、安心して話してもらえるように伝えるとしています。また、相談者が虐待という言葉を使わない場合でも、相談の内容から虐待が推測される場合には、その後の対応を念頭に置いて相談を進める構えが必要だとしています。受付記録の記入後は、相談を聞いた担当者が単独で判断するのではなく組織として判断することが重要であり、担当部署責任者の確認を受け受付台帳に編綴して適切に保管することが必要とされています。

通報者は、名前を言うことを嫌がることがありますので、匿名による通報であっても、きちんと通報内容を聞く必要があります。「通報者の秘密」は守られることを説明し、安心して話してもらえるように伝えます。

根拠:障害者虐待防止法第18条

通報・対応事業所の対応に納得できないとき、どこに苦情を出せますか。

基準省令第39条は、事業者に苦情受付窓口の設置と内容の記録を義務づけ、市町村・都道府県が行う調査への協力と、指導・助言に従った改善を義務づけています。第7項は、運営適正化委員会が行う調査又はあっせんにできる限り協力しなければならないとしています。社会福祉法第85条は、運営適正化委員会が苦情の相談に応じ、助言し、事情を調査すること、双方の同意を得てあっせんを行えることを定めています。第86条は、利用者の処遇につき不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは、都道府県知事へ速やかに通知しなければならないと定めています。

(運営適正化委員会から都道府県知事への通知) 第八十六条 運営適正化委員会は、苦情の解決に当たり、当該苦情に係る福祉サービスの利用者の処遇につき不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは、都道府県知事に対し、速やかに、その旨を通知しなければならない。

根拠:社会福祉法第83条・第85条・第86条

通報・対応虐待防止委員会は、通報するかどうかを決める場ですか。

同資料は、発見者やその上司から虐待防止委員会に報告があった場合も含め、直ちに行政への報告・通報をする必要があると述べています。虐待のおそれ、虐待の疑いであっても報告・通報する必要があり、虐待であるかどうかの判断は行政が行うとされています。速やかな通報が、全ての人の被害と責任を最小限にし、虐待行為をエスカレートさせないための重要な行為であるとも書かれています。これは国の手引きの「第三者が認定する」を、県が「当事者ではなく行政(市町村、都道府県)が判断する」と言い換えて研修しているものです。

• 虐待のおそれ、虐待の疑いであっても報告・通報する必要があります。虐待であるかどうかの判断は、行政が行います。 • 虐待防止委員会は「通報をする・しない」の判断をするための組織ではありません。

根拠:障害者虐待防止法第16条第1項

通報・対応起きてしまった虐待を、事業所として伏せることはできますか。

同冊子は、市町村・都道府県の立入調査だけに留まらず、警察による捜査、容疑者の逮捕、送検という刑事事件にもなること、障害者総合支援法に基づく行政処分も新規利用者の受入れ停止や指定の取消し等の重いものが課せられることを挙げています。事案によっては第三者による検証委員会が設置され、事実の解明と再発防止策が検討されるとしています。そのうえで、隠さない、嘘をつかない誠実な対応をすることが最も良い道だと結んでいます。国の手引きも、通報したことによってその人に不利益が生じないようにされるべきだとしています。

一度起きた虐待の事実を「なかった」ことにすることはできません。隠さない、嘘をつかない誠実な対応をすることが最も良い道です。
通報・対応通報するかどうか迷っている段階で、相談してよいのですか。

同チラシは、専門職には虐待の早期発見に努める義務があること、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者には通報義務があること、通報をしても守秘義務違反に問われることはないことを並べて説明しています。図中には相談支援専門員やヘルパーが想定読者として描かれています。同市の一般向けリーフレットも「虐待かどうかの判断は必要ありません」と述べています。「通報で大ごとにしたくない」ではなく「大ごとになってしまう前に」通報して、必要な支援を考えることが重要だとも書かれています。

“かもしれない”時点でOK!

根拠:障害者虐待防止法第16条第1項

通報・対応虐待の通報は、どの種別の事業所から多く出ていますか。

令和5年度の調査結果では、共同生活援助338件(28.3%)が最多で、次いで障害者支援施設244件、生活介護152件、放課後等デイサービス146件の順です。養護者による虐待では、相談・通報者の内訳として警察が5,243件(52.6%)で最も多く、相談支援専門員も1,048件(10.5%)を占めています。集計は、当該年度中に虐待と判断された事例を対象としたものです。なお「何をもって虐待と判断するか」の定義は、この公表資料には示されていません。

○ 施設・事業所の種別は、共同生活援助の338 件(28.3%)が最も多く、次いで障害者支援施設244 件(20.4%)、生活介護152 件(12.7%)、放課後等デイサービス146 件(12.2%)の順に多い。
通報・対応事業所を通さずに苦情を言える先は、海外にはありますか

米国の高齢アメリカ人法は、長期ケアオンブズマンが入居者の権利に悪影響を及ぼしうる作為・不作為・決定についての苦情を特定・調査・解決する職務を持つと定め、施設と入居者への私的で妨げられないアクセスを保障しています。この制度が実効性を持つのは、移送通知の写しをオンブズマンへ送ることを施設に義務づける規則と噛み合っているためです。当事者と事業者の力の差を前提に、第三者を必ず情報の流れに入れる設計思想です。これは米国の制度であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、事業所を通さない苦情ルートの確保という論点を示します。

private and unimpeded access to long-term care facilities and residents

根拠:42 U.S.C. 3058g(Older Americans Act)

通報・対応施設からの申告以外に、虐待を見つける方法はありますか

米国保健福祉省監察総監室は2016年の高リスク診断コードを含む救急外来メディケア請求37,607件を精査し、高リスク救急外来請求の約5件に1件が介護施設入所者への虐待・ネグレクトの可能性に起因すると推計しました。約6,600件が連邦法上の通報義務があるのに未通報で、影響を受けた入所者は約6,200人と推計されています。州の調査機関の一部が、認定した虐待事案を地元法執行機関へ通報していなかったことも指摘されました。これは米国の監査報告であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、救急搬送記録と施設側申告を突き合わせる発想の実例です。

通報・対応外から見えにくい事業所を点検するとき、何を見ればよいですか

英国のケアの質委員会は、閉じた文化を「危害につながりうる劣悪な文化。虐待などの人権侵害を含みうる」と定義し、その中核的特徴に「職員および/または管理者が、サービス利用者を人として見なくなること」を挙げています。警告サインには、最小制限の選択肢でない、または正当な理由のない一律制限、個別ニーズのアセスメントなしに課された制限、正当な理由で始まったが見直しがなく時間とともに緩和される形跡がない制限が含まれます。利用者が職員の周りで居心地悪そうにしており率直に話せない様子も警告サインです。これは英国の規制当局向けガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありませんが、第三者評価や実地指導の観点として移植しやすいものです。

By a closed culture we mean a poor culture that can lead to harm, which can include human rights breaches such as abuse.
通報・対応事業所内の虐待防止委員会があれば、監視は足りていますか

障害者権利条約第16条は、家庭の内外を問わずあらゆる形態の搾取・暴力・虐待から障害のある人を保護する措置を締約国に求めています。第3項は、これらの発生を防止するため、障害のある人に役立つよう設計されたすべての施設およびプログラムが、独立した当局によって効果的に監視されることを確保するとしています。事業所内の虐待防止委員会も、指定権者による実地指導も、条約が求める独立性を満たすかという問いを立てられます。第2項が介護者への支援と教育を防止措置に含めている点も、職員支援を虐待防止の一部と位置づける根拠になります。日本は締約国です。

In order to prevent the occurrence of all forms of exploitation, violence and abuse, States Parties shall ensure that all facilities and programmes designed to serve persons with disabilities are effectively monitored by independent authorities.

根拠:障害者権利条約 第16条第3項

通報・対応施設や里親のもとでの虐待は、どのくらい認定されていますか

こども家庭庁が令和7年10月に公表した被措置児童等虐待届出等制度の実施状況によれば、令和5年度の届出・通告受理件数は541件で、事実確認が行われた事例629件のうち虐待の事実が認められたのは171件でした。施設等別では児童養護施設79件、里親・ファミリーホーム29件、障害児入所施設等29件、児童相談所一時保護所13件、児童自立支援施設10件などです。虐待種別は身体的虐待99件、心理的虐待52件、性的虐待16件、ネグレクト4件でした。届出・通告者では児童等本人が166人で最多、次いで当該施設・事業所等職員や受託里親が140人となっています。児童分野の統計であり、障害者虐待防止法に基づく統計とは枠組みが異なります。

根拠:児童福祉法第33条の10〜第33条の17

通報・対応虐待が起きたとき、どんな職場の状況だったのですか

こども家庭庁の被措置児童等虐待の実施状況は、発生時の状況として次のような記述を収録しています。不安定なこどもへの対応は複数職員での対応が基本となっているが、職員の意識が薄れており1名での対応となっていた。他職員の体調不良が重なり、加害職員は前日からの夜勤に続き長時間の連続勤務であった。加害職員は在籍年数が長く対応の難しいこどもにも熱心に向き合う職員であったことから、他の職員が意見をしにくい環境であった。夜間勤務の時間帯にケアニーズの高い複数の乳幼児を職員一人で養育しており、感情コントロールが難しい状況があった。人員配置と職場の力関係が、そのまま発生条件として記録されています。児童分野の資料ですが、職場状況の点検項目として参照できます。

加害職員は、在籍年数が長く、対応の難しいこどもに対しても熱心に向き合う職員であったことから、他の職員が加害職員に対して意見をしにくい環境であった
通報・対応再発防止として、実際にどんな手が打たれていますか

こども家庭庁の被措置児童等虐待の実施状況は、再発防止の具体的対応例として、人権擁護のためのチェックリストを用いた年4回の自己点検、職員用意見箱の設置、私物の携帯機器でこどもと連絡を取らせずホーム専用スマートフォンを配備すること、年2回のこどもからの聞き取り調査項目に職員からの暴言・暴力の有無を明記すること、管理職への報告を緊急性レベル1〜5に振り分けることなどを挙げています。加害職員への対応は、厳重注意60件、配置転換42件、けん責28件などで、研修参加66件、スーパーバイザー等による指導43件でした。検証・改善委員会は171件中73件で設置されています。児童分野の資料ですが、そのまま点検項目に写せる具体策です。

通報・対応虐待は、いつ・どこで起きやすいのですか

こども家庭庁の被措置児童等虐待の実施状況によれば、令和5年度に虐待と認定された事案の発生時間帯は「余暇時間」57件が最多で、次いで「食事時間」25件、「入浴時間」25件でした。場所は「リビング等の共用場所」78件、「居室(個室)」49件です。虐待期間は1週間以内の短期が85件(49.7%)、6か月以上の長期が19件(11.1%)、回数は1回が81件(47.4%)、10回以上が12件(7.0%)でした。人目のある共用場所で、余暇や食事という日常の時間帯に起きているという分布です。児童分野の統計ですが、見守りの重点をどこに置くかの参照になります。

通報・対応施設内虐待の具体的な事例を、詳しく読める公的資料はありますか

社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会のワーキンググループが平成28年3月にまとめた事例分析報告は、被措置児童等虐待の個別5事例を実名を伏せて詳細に分析しています。内訳は、児童養護施設(小規模グループケア)における身体的虐待、養育里親による身体的虐待2件、児童養護施設(大舎制)におけるネグレクト、同じく大舎制における性的虐待です。加えて平成21年から25年度の調査結果の分析、平成24・25年度の158事例への各都道府県市の対応の分析、課題と提言を収録しています。被措置児童等虐待の具体事例として最もまとまった公的資料です。児童分野の資料であり、障害福祉分野の資料ではありません。

通報・対応死亡事例の検証は、国としてどう行われていますか

こども家庭審議会の専門委員会は令和7年9月、こども虐待による死亡事例等の検証結果に関する第21次報告を公表しました。対象期間は令和5年4月1日から令和6年3月31日で、心中以外の虐待死44例48人、心中による虐待死12例17人、総数56例65人と報告されています。第1次から第21次の累計は、心中以外1,037例1,093人、心中469例652人です。検証テーマは「こどもの声やサインを見逃さない『こどもを中心』とした支援の充実」で、現地調査4事例の分析も収録されています。特集は心中事例とその背景で、第5次から第20次の死亡1,385人のうち心中が532人(約4割)を占めるとされます。児童分野の検証です。

通報・対応瀬戸市には、虐待かどうかを判断する基準がありますか

令和4年度第2回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和5年3月1日)の議事録で、事務局である社会福祉課が「認定の基準として、虐待認定マニュアルというものがあり、聞き取った内容に基づいて判断をしています」と述べています。つまり瀬戸市には虐待認定マニュアルが存在します。ただし本体は、市サイト・例規集・インターネット保存記録のいずれからも発見できておらず、公表されていない文書です。制定年月・改訂履歴・虐待類型の定義・フロー図の有無・様式についても、議事録に記述がありません。

認定の基準として、虐待認定マニュアルというものがあり、聞き取った内容に基づいて判断をしています。
通報・対応警察が入った案件は、瀬戸市ではどう扱われますか

令和5年3月1日の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、事務局は、認定しなかった18件のうちに警察から通報があったケースもあるが、警察が介入して一応解決済みと判断して認定はしないという本市の基準で対応していると説明しています。あわせて、自治体によって考え方にばらつきがあり、警察介入案件でも計上しているところもあると聞いている、とも述べています。同じ行為でも、自治体によって統計上の扱いが変わりうるということです。委員長からはその後のフォローについての問いが出されています。

警察介入して一応解決済と判断して、認定はしないという本市の基準で対応しています。
通報・対応認定されなかった場合、何も対応されないのですか

令和5年3月1日の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、事務局は、認定や分離の判断について、障がい者相談支援センターの相談員と情報提供者等から聞き取りをして1件ずつ判断しており、必ずしも認定しないから何も対応していないという訳ではないと述べています。また、確認が必要な案件については電話等で確認し、大抵そのような案件は再度事例が発生するので対応していく形になるとも説明しています。実際に、義理の母親からの虐待を受けたという事例で、分離させようとしたが結論が出ないでいるうちに児童相談所などの関係機関が絡む事例に発展した例が挙げられています。

認定や分離の判断についても、障がい者相談支援センターの相談員と情報提供者等から聞き取りをして、1件ずつ判断しております
通報・対応18歳未満の利用者の場合、瀬戸市ではどこが対応しますか

令和5年3月1日の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、事務局は、お子さんに関してはやはり児童相談所や子ども・若者センターが優先になるので、基本的に社会福祉課では18歳以上の方のケースを対応していると説明しています。そのうえで、気になる案件があれば共有してほしい、遠慮なく情報提供してほしいと述べています。年齢によって窓口が分かれるため、迷ったときは共有を先に行う運用が想定されています。

基本的に社会福祉課では18 歳以上の方のケースを対応しています。
通報・対応瀬戸市の虐待報告資料には、誰が虐待したかは載っていますか

令和5年3月1日の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、委員長が虐待者が誰かという記載がないことを問うたのに対し、事務局は、虐待者が誰かというところは把握しているが、個人情報の観点からこの資料への記載は割愛していると答えています。この資料は国へ年1回報告する義務があるための整理資料であるとも説明されています。なお、この報告資料そのもの(議事の【資料4】【資料5】)は市サイトに掲載されておらず、公開資料から年度別の統計表を作ることはできません。

虐待者が誰か、というところは把握しておりますが、個人情報の観点からこの資料への記載は割愛させていただいております。
通報・対応通報するかどうか迷ったとき、どう考えればよいですか

令和5年3月1日の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、尾張東部圏域地域アドバイザーは、虐待通報の増加については良い傾向にあると前向きにとらえていると述べ、東京都台東区の虐待防止センターでは年間1,000件の通報があり、通報のハードルを下げて「気になることがあれば何でも相談してほしい」というスタンスで専門の職員が対応していると聞いていると紹介しています。あわせて、養護者と施設事業者からの虐待は話に上がるが、使用者からの虐待は中々見えてこない現状であるとも述べています。また、虐待防止法の理念が養護者等への支援を中心としており、虐待者を悪い人というより知識や理解、支援が不足している人としているのではないか、という捉え方も示されています。

通報のハードルを下げて「気になることがあれば何でも相談してほしい」というスタンスで、専門の職員が対応をしている
通報・対応認定されない通報は、意味がないのでしょうか

令和3年度の瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和4年3月3日書面開催)の議事録で、事務局は「虐待認定につきましては慎重な判断が迫られるため、中には認定しないケースもありますが、虐待通報があったことを伝え、改善を依頼することで、今後の対応に改善がみられることも多いため、虐待通報は非常に重要であると把握しております」と述べています。認定という結論に至らなくても、通報自体が改善の契機になるという整理です。この回では委員から、誤報を恐れずに報告することの大切さも述べられています。

虐待通報があったことを伝え、改善を依頼することで、今後の対応に改善がみられることも多いため、虐待通報は非常に重要であると把握しております。
通報・対応認定後に「見守り」となった場合、何をしているのですか

令和3年度の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、委員から、養護者による虐待で認定後の分離をしていない事案について、養護者への助言・指導もないまま全て見守りとなっているが、見守りとは具体的にどのような対応かという質問が出されました。事務局は、虐待認定し見守りとした事案は警察署からの障害者虐待事案通報票により通報されたもので、当該通報に基づき内容を確認し、警察の十分な説明や対応があったと判断したため見守りとしたと回答しています。あわせて、必要な都度、瀬戸市障がい者相談支援センターと情報共有し、その後の様子を訪問等で確認している事例もあると述べています。

虐待認定し見守りとした事案につきましては、警察署からの障害者虐待事案通報票により通報されたものとなっております。
通報・対応虐待をした側への支援は、どうなっていますか

令和3年度の瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録で、委員から、被虐待障害児・者への対応だけでなく虐待者へのカウンセリングはどうなっているのか、分離して落ち着いたように見えても再発の可能性が高いままでは被害者の心理的負担は大きいままである、という意見が出されました。事務局は「虐待者へのカウンセリングにつきましては、関係者・関係機関などに依頼するにとどまっており、十分な支援までは至っておりません」と回答し、今後はできることから検討していきたいと述べています。別の箇所では、関係機関等に対応依頼はしているがその後の把握まではなかなかできていないとも述べられています。

虐待者へのカウンセリングにつきましては、関係者・関係機関などに依頼するにとどまっており、十分な支援までは至っておりません。
通報・対応通報をためらう気持ちについて、市の会議で語られたことはありますか

令和6年度第1回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和6年7月1日)の議事録で、委員から、啓発事業のなかで権利擁護に触れてほしいとして次の発言がありました。多くの市民や事業者が虐待通報を迷い、通報することを躊躇することがある、まずは通報義務があること、通報しなければ声なき声を拾えない、障害を持ち虐待されている方は自ら声を上げることはできない、という趣旨です。事務局はぜひ生かしていきたいと回答しています。通報の心理的な壁が、市の公開の場で言語化された記録です。

多くの市民の方や事業者の方も、虐待通報を迷い、通報することを躊躇することがあります。まずは、通報義務があること、通報しなければ声なき声を拾えない、障害を持ち虐待されている方は自ら声を上げることはできません。
通報・対応匿名でも通報できますか

令和5年度第3回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和6年2月29日)の議事録で、委員から虐待の通報は匿名ばかりなのかと問われ、事務局は「そうとも限りませんが、匿名の通報もあります」と答えています。同じ回で委員長は、虐待に該当するかどうかの判断は慎重であるべきだと改めて思うと述べ、あわせて職員の日々の努力があってこそ支援が成り立っており、もっと評価されるべきだとも述べています。なお、こども家庭課が作成した児童分野の虐待対応マニュアルには匿名でも通告できることが明記されていると、市議会で答弁されています。

そうとも限りませんが、匿名の通報もあります。
通報・対応瀬戸市に虐待対応のフロー図はありますか

『瀬戸市高齢者福祉計画・介護保険事業計画(やすらぎプラン)』の77ページには、虐待の発見から相談・通報窓口、対応の検討、訪問・立入調査、個別ケース会議、緊急性の有無による分離・措置または関係機関の支援、そして支援に対するモニタリングまでを示すフロー図が掲載されています。対応検討の構成機関として、地域包括支援センター、権利擁護支援センター、介護サービス事業所、生活保護ケースワーカー、市高齢者福祉課、ケアマネジャー、民生委員、社会福祉協議会、警察、法曹関係、医療機関、本人・家族が挙げられています。障害分野には同種の図が、今回の調査手段では確認できませんでした。

通報・対応近隣で、事業所の指定取消しにつながった事例はありますか

令和6年度第1回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和6年7月1日)の議事録で、尾張東部圏域地域アドバイザーは、今回取り消しになるのが人員配置の基準違反であり、法人自体の方針で組織として指示し組織ぐるみでやっていたという意味で連座制が適用になっていると説明しています。施設を急ピッチで作ったが運営や人員を整えずに不正受給や人員基準違反をし、また一部に虐待報告を受けながら起きてしまったのが今回の問題だと述べ、県内5か所が指定取り消しになり、100名近くの方が行き場を失う可能性があるとしています。令和5年12月の委員会でも、同じ法人が運営するグループホームでそこかしこで虐待ケースが発生していると報告されています。

一部に虐待報告を受けながら、起きてしまったのが今回の問題
通報・対応精神科病院の虐待通報は、どこが受けるのですか

令和6年度第1回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和6年7月1日)の議事録で、瀬戸保健所の委員から、4月からの精神保健福祉法の全面改正法の施行に伴い障害者虐待通報事務が始まったこと、愛知県精神保健福祉センターに事務局の窓口を設けそこで通報を一極集中して受け付けること、虐待の疑いがある場合には速やかに検討会を開きその後立ち入り調査に入ることが説明されています。4月末現在ではまだ認定された事案はなく、処遇に関する相談など虐待までいかない内容の相談が届いていると聞いているとも述べられています。

障害者虐待通報事務というものが4月から始まりました。愛知県精神保健福祉センターに事務局の窓口を設け、そこで通報を一極集中して受付します。
通報・対応瀬戸市の児童分野には、虐待対応マニュアルはありますか

平成28年9月5日の瀬戸市議会9月定例会で、健康福祉部次長兼こども家庭課長は、虐待通告についての周知・対策として「虐待対応マニュアルを昨年度末に作成しまして、その中に、匿名でも通告できるように明記しております」と答弁しています。これは児童分野のマニュアルであり、社会福祉課障害福祉係の「虐待認定マニュアル」とは別物です。混同しないよう注意が必要です。また瀬戸市には、子どもの権利条例とその施行規則、こども若者家庭センター条例が例規として存在しますが、障害分野には虐待・権利擁護を冠する例規がありません。

虐待対応マニュアルを昨年度末に作成しまして、その中に、匿名でも通告できるように明記しております。
制度「不適切な保育」という言い方はもう使わないと聞きました。本当ですか。

こども家庭庁と文部科学省のガイドラインは、令和7年8月改訂で概念整理を変えました。「不適切な保育」や「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」という概念は用いず、「虐待」の概念を軸に講ずるべき対応等を再整理するとしています。あわせて、日々の行為の延長に虐待があると解するべきである、とも述べています。呼び方を和らげることで対応が先送りされる構造を、国が正面から絶ったものです。

本ガイドラインにおいては、「不適切な保育」や「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」という概念は用いず、「虐待」の概念を軸に講ずるべき対応等を再整理することとする。
制度身体拘束の記録や委員会をやっていないと、報酬に影響しますか。

令和6年度の障害福祉サービス等報酬改定では、障害者虐待防止措置を未実施の事業所に所定単位数の1%を減算する虐待防止措置未実施減算が新設されました。あわせて身体拘束廃止未実施減算が見直され、障害者支援施設・療養介護・障害児入所施設・共同生活援助・宿泊型自立訓練といった施設・居住系サービスは5単位から所定単位数の10%へ、訪問・通所系は5単位から1%へ変更されました。記録・委員会・指針・研修の4点が要件です。

身体拘束廃止未実施減算
制度虐待と不適切な支援は、はっきり線が引けるものですか。

愛知県の研修資料は、虐待/虐待であるとも言える不適切な対応/適切な支援を並べ、その間にある「ちょっと気になる対応」を虐待の芽・グレーゾーンとして図示しています。『どこまでなら虐待にならないか?』『ちょっと気になる対応だけど、まぁいいか!』という意識を改めることが必要だとし、虐待防止の近道は虐待の芽を摘むことだと述べています。国の素材集も、真剣なケアや支援・指導・不適切な対応・虐待・犯罪は地続きの連続体だと説いています。

虐待防止の近道は「虐待の芽」を摘むこと!
制度「障害があるからこれくらいいい」と思ってしまうことがあります。

愛知県の研修資料は、障害福祉の支援現場では「障害があるからこれくらいいいのではないか」と無意識に思い込んで行う言動が人権を侵害している場合があるとし、無意識の思い込みが虐待の芽につながっている可能性があると述べています。例として、公用車で利用者と自分だけのときに自分のスマホを操作する、必要以上に身体を触る、他の利用者がいる前で利用者を注意する、利用者のいる所で他職員の噂や悪口を言う、が挙げられています。

障害福祉の支援現場では、「障害があるからこれくらいいいのではないか」と無意識に思い込んで行う言動が、人権を侵害している場合がある
制度支援がうまくいかず、結果的に押さえつけてしまいました。他に方法がなかったのですが。

愛知県の研修資料は、虐待に至る背景を3つに分けています。1つ目は、対応の難しい利用者に対し適切な支援の方法が見つからず結果的に不適切な対応をしてしまう場合(例として、落ち着かない利用者を押さえつける)。2つ目は、不適切であるという認識がない状態で行ってしまう場合(例として、大人へのちゃん付けやからかい)。3つ目は、そもそも障害者を一つの人格として見ていない場合です。他に方法がないという事情は、背景の説明であって正当化ではありません。

① 対応の難しい利用者に対し、適切な支援の方法が見つからず結果的に不適切な対応をしてしまう。他に方法がない 例:落ち着かない利用者を押さえつける
制度「虐待かどうか」を突き詰めることが、いちばん大事なのでしょうか。

愛知県の新規入職者向け研修資料は、そもそも大切なことは何かとして、虐待か虐待ではないかの問題ではない、不適切な支援も権利侵害である、虐待の防止は不適切な支援を減らし適切な支援を積み重ねることが重要である、悪意なき権利侵害の自覚が必要である、と述べています。別の研修資料も「虐待 = 不適切な支援」とし、不適切な支援が改善されたことで利用者は安定した生活を得られ、事業所も適切な施設として生まれ変わった事例を紹介しています。

虐待か虐待ではないかの問題ではない/不適切な支援も権利侵害
制度愛知県では、どのサービスで虐待が多く起きていますか。

愛知県が法に基づき公表している統計では、2024年度に虐待があった施設の種別は共同生活援助が最も多く、全体の約半数を占めています。実数では共同生活援助57件(47.5%)で、施設従事者等による虐待120件のうち最多です。2023年度は67件(57.8%)でした。全国でも令和6年度は共同生活援助が401件(31.6%)で最多となっています。

虐待があった施設の種別は、2024年度は共同生活援助が最も多く、全体の約半数を占めている。
制度グループホームで虐待が起きた事案について、愛知県はどう見ていますか。

愛知県が公表した2023年度の障害者虐待の状況についてでは、共同生活援助で虐待があった事案について、設置者・経営者が事業所の実態を適切に把握し運営がなされているのか疑問の生じるものも認められるとし、従業者はもちろん設置者・経営者への働きかけを行っていく必要がある、と述べています。県は発生要因として、教育・知識・介護技術等に関する問題、倫理観や理念の欠如の割合が高いことも示しています。

特に、共同生活援助で虐待があった事案では、設置者・経営者が事業所の実態を適切に把握し、運営がなされているのか疑問の生じるものも認められる。
制度心理的虐待は、刑法ではどの罪にあたる可能性がありますか。

厚生労働省の手引きは、虐待行為に対する刑事罰の対応表を掲げています。心理的虐待については刑法第222条脅迫罪、第223条強要罪、第230条名誉毀損罪、第231条侮辱罪が挙げられています。身体的虐待は殺人罪・傷害罪・暴行罪・逮捕監禁罪、性的虐待は不同意わいせつ罪・不同意性交等罪、放棄放置は保護責任者遺棄罪、経済的虐待は窃盗罪・詐欺罪・恐喝罪・横領罪が対応するとされています。

③心理的虐待 刑法第222条脅迫罪、第223条強要罪、第230条名誉毀損罪、第231条侮辱罪
制度グループホームの指導や処分をするのは市ですか、県ですか。

愛知県のグループホーム指定申請マニュアルは、グループホームを運営しようとする事業者は事前に愛知県に指定の申請を行うとし、指定申請窓口を名古屋市・豊橋市・岡崎市・豊田市・一宮市・大府市と「上記以外=愛知県」の7行で示しています。瀬戸市は個別に列挙されていないため、愛知県が指定権者です。県の集団指導資料でも、指導監査の対象から除かれるのはこの6市のみで、共同生活援助は運営指導を1/3以上実施する重点対象とされています。

グループホームを運営しようとする事業者は、事前に愛知県(福祉局福祉部障害福祉課)に指定の申請を行い、事業所ごとに指定を受ける必要があります。

根拠:障害者総合支援法 第50条第1項

制度県の運営指導では、虐待防止について何を見られますか。

愛知県の運営指導事前提出資料(共同生活援助・運営)は、「39 虐待の防止」として、虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し結果を従業者に周知徹底しているか、従業者に対して虐待防止の研修を年1回以上実施しているか、担当者を置いているかを点検項目にしています。「41 身体拘束等の禁止」では、記録、委員会、指針の整備、研修の5点が確認されます。提出書類には、委員会会議録、必須研修の記録、身体拘束等の記録、苦情・虐待・ハラスメントに関する記録などが含まれます。

39 虐待の防止 (1)虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について従業者に周知徹底を図っているか。(少なくとも1年に1回)
制度虐待防止委員会や研修は、年度に1回やっていれば大丈夫ですか。

愛知県の集団指導資料は、虐待の防止について委員会の開催と結果の周知、研修の実施、担当者の設置の3点が基準省令上求められているとし、委員会は1年に1回以上の開催(年度でない)、幅広い職種で構成、選任の担当者を決定、研修は1年に1回以上の実施(年度でない)で内容の記録が必要、と注意しています。取り組みが遵守できていない場合は減算の対象となる可能性があるとともに改善計画等の提出が必要となる場合がある、としています。

(委員会)・1年に1回以上の開催(年度でない)・幅広い職種により構成する・選任の担当者を決定する といった点に留意が必要です。
制度虐待防止の取り組みは、どのくらいの事業所ができているのですか。

愛知県の集団指導資料は、運営指導をした際に身体拘束や虐待防止などの項目について取り組みが不十分となっている事業所が大変多く見受けられます、として、集団指導の受講が完了した段階で遵守できているかを確認し、省令等に準じていない項目は直ちに改善するよう求めています。県が平成31年4月から令和8年1月までに実際に発出した指導改善指示事項の一覧にも、虐待防止のための委員会及び研修を実施しその記録を残すことが挙げられています。

指定障害者福祉サービス事業者等の運営指導をした際には以下の項目について取り組みが不十分となっている事業所が大変多く見受けられます。
制度小さな不適切さは、放っておくとどうなりますか。

川崎市のサイトで公開されている権利擁護推進委員会の報告書は、虐待発生の要因として、大きな虐待は職員の小さな不適切な支援(行為)から始まること、「これくらいなら許される」の積み重ねによる支援の質の低下、虐待を受けた人が繰り返しの中で学習性無力感を身につけ、ますます何も訴えなくなることを挙げています。訴えがないことは、問題がないことの証拠になりません。

大きな虐待は職員の小さな不適切な支援(行為)から始まる
制度「これくらいどこでもやっている」と思ってしまうことがあります。

大阪市のハンドブックは、施設職員向けの章で、虐待と虐待にはあたらない行為は明確に分けられず、顕在化した虐待の前段階にグレーゾーン(不適切なケア)があるという図を示し、「これくらいどこでもやっている」「職員みんながやっているから」と思うことはありませんか、と問うています。虐待の発生背景を、知識・経験の不足やストレスといった個別的要因と、マニュアル未整備、風通しの悪い職場環境、手続きのない安易な身体拘束、悩みを相談できる体制がないといった組織的要因に分けて整理しています。

「これくらいどこでもやっている」「職員みんながやっているから」と思うことはありませんか?
制度虐待かどうか白黒つけないと、対応を始められないのではないですか。

神奈川県の施設職員向けの手引きは、法令上の虐待、不適切なケア、適切なケアでも合意形成不足からの誤解のあるものの3区分すべてを防止対象とし、「ここから“法令上の虐待”」という白黒をはっきりつけることを目的としない、と明記しています。同手引きは、本人・家族へのアンケートで集めた「虐待だと感じた行為」を加工せずそのまま列挙している点でも特徴的です。虐待の線引きよりも、防ぐべき状態を広く捉える立場です。

「ここから“法令上の虐待”」という白黒をはっきりつけることを目的としない
制度家族が虐待をしている疑いがあるとき、どんな背景が考えられますか。

松江市の手引きは、養護者による高齢者虐待のパターン例として、介護に一生懸命な家族(家族だけで頑張ろうとして疲労とストレスが蓄積し暴力・暴言や介護放棄につながる)、認知症に対する理解が困難、家庭内虐待の継続や地位の逆転、家族の介護力が弱い、生活の不安定さ(収入がない・不安定、借金の返済等の生活困窮が経済的虐待につながる)の5類型を挙げています。国の素材集も、家族は「頑張る」べき存在か、という問いを立て、自己責任論・家族責任論からの脱却を論点にしています。

家庭内虐待の継続、地位の逆転
制度全国では、障害者虐待はどのくらい起きているのですか。

厚生労働省が令和7年12月24日に公表した令和6年度の調査結果では、障害者福祉施設従事者等による虐待の相談・通報は5,870件、虐待判断は1,267件、被虐待者は2,010人でした。養護者による虐待は相談・通報11,656件、虐待判断2,503件、被虐待者2,518人です。施設・事業所の種別では共同生活援助が401件(31.6%)で最多、次いで障害者支援施設243件(19.2%)、放課後等デイサービス157件(12.4%)となっています。

共同生活援助(グループホーム)401件(31.6%)
制度虐待が起きる原因として、何が多いとされていますか。

厚生労働省の令和6年度の調査結果では、施設従事者等による虐待の発生要因として、教育・知識・介護技術等に関する問題が67.5%、倫理観や理念の欠如が60.2%、職員のストレスや感情コントロールの問題が58.7%となっています。愛知県の2023年度の統計でも、教育・知識等が61.2%、倫理観や理念の欠如が65.5%、虐待を助長する組織風土や職員間の関係性の悪さが43.1%、職員のストレスや感情コントロールの問題が42.2%、人員不足等が23.3%と、全国と概ね同様の傾向が示されています。

「教育・知識・介護技術等に関する問題」67.5%、「倫理観や理念の欠如」60.2%、「職員のストレスや感情コントロールの問題」58.7%
制度障害者手帳を持っていない場合でも、障害者虐待防止法の対象になりますか。

障害者虐待防止法の「障害者」は、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者であり、障害者手帳の有無を問いません。厚生労働省のQ&Aは、障害者基本法の「その他の心身の機能の障害」には難病等に起因する障害も含まれるとし、手帳未取得の場合は自立支援医療や特定疾患医療の受給者証、診断の根拠、診断医への問い合わせ等で確認する、としています。

「障害者」は障害者手帳の有無を問わない(障害者基本法第2条第1号の定義)

根拠:障害者虐待防止法 第2条第1項

制度利用者本人に、虐待について何と伝えればよいですか。

厚生労働省が作成した、ふりがな付きのわかりやすい障害者虐待防止法パンフレットは、「虐待されたら『やめて』と言おう ― 障害者虐待防止法はあなたを守ります」と題し、「いやだな」「やめてほしいな」と思うことをされたら「やめて」と言っていいのです、あなたのことを虐待から守るための決まり(法律)もあります、と本人に直接語りかける構成になっています。家族・施設・職場の各場面を絵で示しています。

「いやだな」「やめてほしいな」と思うことをされたら「やめて」と言っていいのです。

根拠:障害者虐待防止法 第3条

制度虐待防止のために、事業所は何を義務づけられていますか。

令和3年度の障害福祉サービス等報酬改定により、令和4年4月から、職員への研修実施、虐待防止委員会の設置と検討結果の職員への周知、虐待の防止のための責任者の設置が義務化されました。改定前は研修と責任者設置が努力義務にとどまっていました。厚生労働省の取組事例集は、虐待防止委員会に求められる役割を、虐待の未然防止や虐待事案発生時の検証や再発防止策の検討等としています。同事例集は冒頭で、過去に通報すべき虐待事案がなかったか自らの施設・事業所の支援を振り返り誠実に対応することから始めましょう、と呼びかけています。

まず、過去に通報すべき虐待事案がなかったか、改めて自らの施設・事業所の支援を振り返り、誠実に対応することから始めましょう。
制度適切な支援と虐待の間には、はっきりした境目があるのですか。

厚生労働省委託事業の検討委員会がまとめた素材集は、「真剣なケアや支援/指導/不適切な対応/虐待/犯罪」は正から誤へ違う種類のものが並んでいるように見えて実は地続き(連続体)であり、虐待と命名されうる事態のみならず諸種の状況に検討対応の範囲を広げる姿勢が重要だと説いています。同素材集は、障害のある方に対する虐待が重大な人権侵害であることは言うまでもありません、とも明記しています。

障害のある方に対する虐待が“重大な人権侵害”であることは言うまでもありません
制度国際的には、日本の障害者虐待防止法はどう評価されていますか。

国連の障害者権利委員会が2022年に採択した日本への総括所見は、教育、医療、刑事司法の場における障害者に対する暴力の防止、報告及び調査が排除されているとして、障害者虐待防止法の範囲及び有効性の欠如を懸念事項に挙げています。そのうえで、あらゆる環境における障害者に対する暴力の予防の範囲を拡大するため、また暴力及び虐待の調査や被害者への法的救済を提供するための措置を確立するために、障害者虐待防止法を見直すことを勧告しています。

あらゆる環境における障害者に対する暴力の予防の範囲を拡大するため、また暴力及び虐待の調査や被害者への法的救済を提供するための措置を確立するために、障害者虐待防止法を見直すこと
制度虐待防止法には、虐待をした人への罰則があるのですか。

江戸川区の集団指導資料は、虐待防止法には虐待を行ったことを理由とした罰則の規定はない一方で、介護保険法に基づく指導監査による人格尊重義務違反・法令違反等の認定、刑事訴訟法239条2項に基づく自治体の告発義務、刑事罰の可能性を整理しています。そのうえで、まずは利用者の安全で安心な生活環境、介護環境の確保が最優先で、その後に虐待防止策、職場・組織の再生という順序が大切だと述べています。

虐待防止法には、虐待を行ったことを理由とした罰則の規定はない
制度どんな職場で虐待が起きやすいのですか。

愛知県の研修資料は、虐待が起こりやすい環境として、閉鎖的な環境、重度の方を支援している(言葉を発しない、行動障害が激しい)、生活の中に厳しいルールがある、職員のスキルが育っていない・余裕がない、を挙げています。そのうえで、虐待を減らすことを目的にするのではなく、利用者の尊厳を守り利用者主体の支援を行うことを目指してほしい、この支援は本人の尊厳を守っているかに敏感でいる必要がある、と述べています。

■閉鎖的な環境 ■重度の方を支援している(言葉を発しない、行動障害が激しい) ■生活の中に厳しいルールがある ■職員のスキルが育っていない、余裕がない
制度グループホームの運営について、新しい国のガイドラインはありますか。

愛知県の集団指導資料は、令和8年2月に厚生労働省が「共同生活援助における運営や支援に関するガイドライン」を発出したことを周知し、県障害福祉課のWEBページに掲載していると案内しています。同ガイドラインの第1章には虐待の防止と意思決定支援(利用者の自己決定の尊重等)が置かれ、第4章では従業者の知識・技術の向上や権利擁護の取組、自己評価の実施、地域連携推進会議等によるサービスの質の向上の取組方法が示されています。別紙として自己チェックシートも付いています。

この観点から事業所において、P3〜4(1)虐待の防止(P3)、(2)意思決定支援(利用者の自己決定の尊重等)に取り組んでいただく必要があります。
制度虐待の原因で一番多いのは何ですか。悪意のある職員でしょうか。

令和6年度の障害者虐待対応状況調査によると、障害者福祉施設従事者等による虐待の発生要因は、教育・知識・介護技術等に関する問題が67.5%で1位、倫理観や理念の欠如が60.2%、職員のストレスや感情コントロールの問題が58.7%です。虐待判断件数は1,267件、被虐待者数は2,010人、相談・通報件数は5,870件でした。虐待行為の類型は身体的虐待654件(51.6%)、心理的虐待599件(47.3%)、性的虐待141件(11.1%)、放棄・放置108件(8.5%)、経済的虐待91件(7.2%)です。悪意がなくても虐待は起きるという主張の、公的な根拠になります。

制度虐待が最も多い事業所の種別はどこですか。

令和6年度の障害者虐待対応状況調査では、虐待の事実が認められた事業所の種別は共同生活援助が401件(31.6%)で最多、次いで障害者支援施設243件(19.2%)、放課後等デイサービス157件(12.4%)、生活介護143件(11.3%)でした。虐待者の職種は生活支援員617件(43.4%)、管理者144件(10.1%)、世話人140件(9.9%)です。当該施設・事業所の職員や管理者が自ら通報した事案は全体の37.1%でした。グループホームは構造的に虐待が起きやすい場だという前提で体制を組む必要があります。

制度研修も委員会も指針もあります。それで虐待は防げますか。

令和6年度の高齢者虐待調査では、虐待の事実が認められた1,220件の施設について、職員に対する虐待防止研修の実施が999件(81.9%)、虐待防止委員会の設置が956件(78.4%)、虐待防止に関する指針の整備が939件(77.0%)でした。さらに1,220件のうち214件(17.5%)は過去にも虐待事例が発生しており、272件(22.3%)は過去に何らかの指導等を受けていました。形式的な整備があっても虐待は起きています。整備したかではなく、実際に機能しているかを点検してください。

制度高齢者施設での虐待の発生要因は何ですか。

令和6年度の高齢者虐待調査(養介護施設従事者等)では、発生要因の上位は、知識・意識の不足926件(75.9%)、倫理観・理念の欠如785件(64.3%)、ストレス・感情コントロール763件(62.5%)、性格や資質の問題756件(62.0%)、職員の指導管理体制が不十分755件(61.9%)です。虐待判断件数は1,220件で前年度比8.6%増、相談・通報件数は3,633件でした。被虐待高齢者2,248人のうち身体的虐待が1,149人(51.1%)、身体拘束ありが495人(22.0%)、死亡事例は5件です。なお発生要因の分類は令和5年度に変更されており、それ以前の区分とは接続しません。

制度他の事業所の職員が、うちの利用者を無断で撮影していました。

厚生労働省の手引きにある撮影に関する記述は、いずれも当該サービスを提供する事業所の職員が行う場合の虐待類型です。障害者虐待防止法第2条第7項も、虐待の主体を「障害者福祉施設従事者等が、当該障害者福祉施設を利用する障害者について行う」行為に限定しています。他法人の職員が他法人の利用者に対して行う行為を扱った記述は、手引きにも法律にも見つけられませんでした。「存在しない」と断定はできませんが、少なくともこの調査では見つかっていません。実際に起きた場合は、事業所として市町村に相談し、経過を記録に残してください。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項

制度利用者の情報を他の事業者へ渡すとき、同意は必要ですか。

平成18年厚生労働省令第171号 第36条は秘密保持等を定め、従業者及び管理者は正当な理由がなく業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らしてはならないとしています。第3項は、他の事業者等に対して利用者又はその家族に関する情報を提供する際は、あらかじめ文書により同意を得ておかなければならないと定めています。この条は第213条によりグループホームにも準用されます。なお本条は当該事業所の従業者と管理者に課された義務であり、他法人の職員を名宛人とする条文ではありません。

指定居宅介護事業者は、他の指定居宅介護事業者等に対して、利用者又はその家族に関する情報を提供する際は、あらかじめ文書により当該利用者又はその家族の同意を得ておかなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第36条

制度障害に関する情報は、本人の同意なく取得してよいのですか。

個人情報保護法第20条第2項は、法令に基づく場合など一定の例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないと定めています。要配慮個人情報は第2条第3項で定義され、病歴などが含まれるとされていますが、その範囲は政令に委任されています。障害に関する情報が要配慮個人情報に当たるかは、政令を確認しなければ確定できず、本調査では政令を取得していません。この点を確定せずに主張しないでください。

個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。

根拠:個人情報の保護に関する法律 第20条

制度最初は適切な支援だったのに、いつのまにか虐待になっていました。なぜ気づけないのですか。

栃木県の事例集は、当初は適切な支援であったものが、だんだんと強い力でやるようになったり、無理やりやらせるようになったりして、徐々にエスカレートし結果的に虐待に至った事例があると記しています。当初は適切な支援であったことや、過程で感覚が麻痺してしまうことから、自ら虐待とは気づきにくいとされます。対策として、保護者や実習生など外部の視点を取り入れ、事業所の支援を見直す機会を設けることが挙げられています。同事例集は、職員間のコミュニケーションがおろそかになると虐待の兆候を発見しても放置され、重大な虐待となるケースもあると指摘しています。

当初は適切な支援であったものが、だんだんと強い力でやるようになったり、利用者に無理やりやらせるようになったり、徐々にその行為がエスカレートし、結果的に虐待に至ってしまった事例もあります。
制度1つ1つは虐待とまで言えない行為は、放っておいてよいですか。

こども家庭庁・文部科学省は令和7年8月改訂で「不適切な保育」という中間概念そのものを廃止し、日々の行為は仮に1つ1つが虐待に該当しないものであったとしても、日々の振り返りの中で改善が図られなければ虐待になり得る、すなわち日々の行為の延長に虐待があると解するべきである、と書き換えました。中間概念を消したのは、「これは不適切だが虐待ではない」という逃げ場を作らないためです。同ガイドラインのネグレクト具体例には、他の職員等がこどもに対し不適切な指導を行っている状況を放置することまで挙げられています。障害福祉分野でも構造は同じです。

仮にその1つ1つが虐待には該当しないものであったとしても、日々の振り返りの中で改善が図られなければ、そうした行為の繰り返し等によって虐待になり得るものである、すなわち、日々の行為の延長に虐待があると解するべきである。
制度虐待が長く続いた施設には、どんな共通点がありますか。

複数の第三者検証報告書が独立に同じ要因を挙げています。寮や病棟の単位で外部の目が入らないこと、欠員が補充されないまま改善だけを求められること、先輩職員のやり方がOJTで口頭伝達され新人が模倣させられること、現場から報告が上がっても管理職が通報義務を果たさないこと、監督官庁が実態を把握しないまま適正に運営されていると評価すること、退院抑制・規模拡大・経費削減が人権軽視の風土をつくることが並びます。専門研修の欠如、経済的搾取との併存、家族・当事者の孤立、大規模施設という構造も繰り返し現れます。自分の事業所にいくつ当てはまるかを数えてみてください。

制度経営の方針が虐待の原因になることはありますか。

兵庫県の精神科病院の第三者委員会は、前理事長らの過度な利益追求が患者の人権を軽視する風土を形成したと結論づけました。収益確保のため困難な患者の受け入れを推奨し退院を抑制した結果、患者の病態が多様化して看護負担が増加し、経費削減で必要な設備改修が行われず、恣意的な人事異動が不満をもたらしたとされます。該当病棟は看護負担が重く、上司が率先して虐待行為を行い、ゆがんだ仲間意識が生まれやすかったと分析されています。第三者委員会は2009年以降で虐待行為が少なくとも84件、看護師・看護助手ら27人の関与を認定しました。

制度外部から危険の情報が入っても、「まさか」と思ってしまいます。

神奈川県の県立障害者支援施設で発生した事件の検証報告書は、社会福祉施設では火災・自然災害への対策は検討されていても、侵入者が利用者の生命安全を脅かすことはほとんど検討されてこなかったとし、そのため犯罪情報の提供を受けても「まさか」という思いが先立ち、犯行態様や発生しうる被害を軽く見積もる可能性があると述べています。ほかに、支援者意識の強さ、危機対応時の組織の体制、時間の経過による危機意識の低下を課題として挙げています。関係機関の情報共有にも断絶があったと指摘されています。

制度ゴミ箱の中の物や生の食材を口に入れようとします。これは何にあたりますか。

障害支援区分の認定調査員向け研修資料のQ&Aで、「食べられないもの」とは食品以外のものに限定せず、食品であっても本来であれば口に入れないもの(腐っている食べ物等)も含まれるという理解でよいかという問いに対し、厚生労働省は「お見込みのとおり」と答えています。これは、生ごみを口に入れようとする行動が公的基準上の異食行動の射程に入ることを読み取れる唯一の公的記述です。認定調査項目としては4-16「異食行動」で、支援の必要度に応じて5段階で評価されます。

(問)「食べられないもの」とは、食品以外のものに限定せず、「食品であっても本来であれば口に入れないもの(腐っている食べ物等)も含まれる」という理解でよいか。(答)お見込みのとおり。
制度異食は「行動障害」に含まれますか。

厚生労働省の手引きは、行動障害を「自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が、高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態」と定義しています。これは異食を本人の健康を損ねる行動として厚生労働省が直接位置づけている唯一の記述です。強度行動障害支援者養成研修のテキストでも、異食は強度行動障害を構成する行動の一つとして繰り返し掲げられ、「落ちているゴミや紙切れなどを口に入れる異食」という実践事例も記載されています。

行動障害とは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動
制度異食しそうな物を片づけておくのは、行動の制限になりませんか。

障害支援区分の認定調査員マニュアル 4-16 異食行動には、「食べられないものを口に入れたり、飲み込んだりする異食行動がある場合」と並んで「異食行動を未然に抑えるため、異食しそうなものを周囲に置かない場合」が挙げられています。同マニュアルは、物を壊す行動についても「環境上の工夫等があるため、物を壊していない場合」、不潔行為についても「それを防ぐための支援を行っている場合」を該当例としています。つまり環境上の工夫によって結果が生じていない場合も、支援が必要な状態として数える構造です。片づけることは制限ではなく支援です。

○ 異食行動を未然に抑えるため、異食しそうなものを周囲に置かない場合。
制度異食を止めることの可否について、公的資料は何と言っていますか。

厚生労働省の手引き2種、認定調査員マニュアル、研修資料第5版、強度行動障害支援者養成研修テキストを検索しましたが、異食への具体的な対応手順(声かけ・見守り・環境調整の具体的方法)を記述した箇所は見つけられませんでした。異食は行動障害の一例として列挙されるか、事例紹介として現れるのみです。なお現行の基礎研修受講者用テキストは有償頒布であり無償公開されていないため、現行版の記述は確認できていません。したがって「止めてよい」とも「止めてはいけない」とも、公的資料を根拠に断定することはできません。事前に本人・家族と方法を取り決め、記録に残す方向で組み立ててください。

制度危険な行動があるとき、まず何を考えればよいですか。

強度行動障害支援者養成研修のテキストは、自傷、他害、異食、かんしゃくなど危険を伴う行動を頻繁に示す人がいるとしたうえで、支援者はその表面的な行動だけを見てしまうと、その行為を止めさせようと考えることばかりに注意が向いてしまうことが少なくないと述べています。そして、適切な対応がされないことで行動はさらにエスカレートしてしまうとしています。この記述は制止の可否を論じたものではなく、支援の組み立て方を論じたものです。止め方を工夫する前に、なぜ起きているのかを見る手順が求められています。

その表面的な行動だけを見てしまうと、その行為を止めさせようと考えることばかりに注意が向いてしまうことが少なくありません。
制度職員の安全を守る法律上の根拠は何ですか。

労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。これが安全配慮義務と呼ばれる規定です。条文は危険の発生源について何も書いておらず、義務の内容も「必要な配慮をするものとする」とあるだけで具体的な措置は列挙されていません。厚生労働省の施行通達は、「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれ、「必要な配慮」は一律に定まるものではなく、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて求められるとしています。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

根拠:労働契約法 第5条

  • 労働契約法(e-Gov法令検索・平成19年法律第128号) 第5条
制度加害者が職員でも会社の指揮下にもない第三者の場合でも、使用者は責任を負いますか。

最高裁第三小法廷は昭和59年4月10日(昭和58年(オ)第152号、民集38巻6号557頁)、いわゆる川義事件で、会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めました。判決が挙げた事情は、危険源の存在、同種被害が現に発生していたこと、不審な電話という予兆があったこと、宿直員が窃取を目撃したのに直属の上司止まりで上層部に報告されなかったこと、危害を加えることも十分予見できたこと、物的設備の不備、新入社員一人での単独勤務、安全教育の不実施、そして義務を履行していれば事故の発生を未然に防止しえたことです。厚生労働省の施行通達も、この判決を第5条の参考裁判例として名指しで挙げています。

侵入した盗賊が宿直員に発見されたような場合には宿直員に危害を加えることも十分予見することができたにもかかわらず

根拠:労働契約法 第5条

制度設備を整えるのが難しい場合、何もしなくてよいですか。

川義事件の判決は、物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、物的施設等と相まって労働者の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったと述べています。「設備が難しいから何もしなかった」は、この判示の下では義務を尽くしたことになりません。グループホームに置き換えれば、建物や設備を変えられないなら、人員配置と研修と手順で補う必要があるということです。

これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし
制度労災保険があるので、それ以上の責任は生じませんか。

最高裁第三小法廷は昭和50年2月25日(昭和48年(オ)第383号、民集29巻2号143頁)、安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであると述べました。そして災害補償制度は、この義務が尽くされてもなお発生すべき災害に対処するために設けられたものと解されるとしています。厚生労働省の資料も、労災保険給付では慰謝料など損害の全てをカバーしておらず、給付を超える損害には民事上の損害賠償責任が問われるとしています。労働安全衛生法を守っているだけでは安全配慮義務を尽くしたことにはなりません。

右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて

根拠:労働安全衛生法 第3条

制度障害福祉の分野に、職員を守るための厚生労働省のマニュアルはありますか。

同マニュアルは、事業者には「安全配慮義務」の観点からもこれらの取組みに積極的に対応することが期待されているとし、安全配慮義務とは職員が安全かつ健康に働けるように使用者が配慮することであり、この義務を果たしていない場合は民事訴訟の対象となる可能性があり経営上のリスクとなると明記しています。共同生活援助(グループホーム)の事例も収載されています。なお文言は「期待されています」であり、マニュアル自体は義務の有無を断定していません。介護分野のマニュアルは、より踏み込んで「労働契約法に定められる職員(労働者)に対する安全配慮義務等があることから、その責務として利用者・家族等からのハラスメントに対応する必要があります」と書いています。

また、事業者には「安全配慮義務」の観点からもこれらの取組みに積極的に対応することが期待されています。安全配慮義務とは、「職員が安全かつ健康に働けるように使用者(事業者、管理者)が配慮する」ことです。この義務を果たしていない場合、民事訴訟の対象となる可能性があり、経営上のリスクとなります。

根拠:労働契約法 第5条

制度手を出されそうになったけれど、避けたのでけがはありません。これも記録すべきですか。

障害福祉分野のハラスメント対策マニュアルは、身体的暴力を「身体的な力を使って危害を及ぼす行為。(職員が回避したため危害を免れたケースを含む)」と定義しています。例として、つねられる・ひっかかれる・たたかれる・蹴られる、唾を吐きかけられた、コップ等の物を投げつけられた、物を破壊するなど恐怖を感じる行為をされた、が挙げられています。未発生でもハラスメントとして扱う定義ですから、けががなくても記録してください。記録の積み重ねが、体制を変える根拠になります。

身体的な力を使って危害を及ぼす行為。(職員が回避したため危害を免れたケースを含む)
制度職員を守るために、事業者は具体的に何をすればよいと書かれていますか。

障害福祉分野のマニュアルは、相談受付以降は相談者が行為者と距離を置けるよう配慮すること、それが難しい場合は複数名で対応できるよう調整し1対1となる状況を作らないこと、シフト調整や勤務する部署・事業所の変更を検討すること、定期的な職員の配置換えとチームによる支援を行うこと、利用者・家族等の特性に対する知識や具体的な対応の教育を行うこと、契約書や重要事項説明などへ職員へのハラスメントによるサービス中断や変更の可能性があることを記載しておくことを挙げています。列挙されている措置はすべて体制・配置・距離・教育・契約上の周知であり、身体を押さえる・制止するといった身体的対応は一切挙げられていません。

原則として、行為者と物理的な距離が取れるようにシフト調整や勤務する部署や施設・事業所の変更を検討します。支援を複数名のチームで行うようにして、相談者と行為者が1対1とならないようにすることも有効です。
制度障害の症状として現れた行動は、ハラスメントとして扱うのですか。

介護現場におけるハラスメント対策マニュアルは、ハラスメントの中には暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強制わいせつ罪等の犯罪になりうる行為もあるとしたうえで、行為者の中には疾患、障害、生活困難などを抱えており心身が不安定な人もいることに留意する必要があるとしています。ただしハラスメントの発生の有無は利用者等の性格・状態像によって左右されるものではなく、客観的に判断し再発防止策を講じることが必要としています。※注では、認知症の「もの盗られ妄想」はハラスメントではなく認知症の症状としてケアが必要と述べています。これは認知症を例にした記述であり、強度行動障害について同旨を述べた公的記述は本調査では見つけられませんでした。

ハラスメントの発生の有無は、利用者等の性格・状態像によって左右されるものではなく、客観的に判断し、再発防止策を講じることが必要です。
制度利用者から職員への暴力を放置した場合、障害者虐待防止法上の問題になりますか。

障害者虐待防止法第2条第7項第4号は、当該施設を利用する他の障害者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置を虐待と定めています。すなわち条文上、利用者から他の利用者への行為の放置が明示されており、利用者から職員への行為の放置は含まれていません。職員は「障害者」ではないためです。したがって職員への暴行の放置は、障害者虐待防止法ではなく労働契約法第5条の側の問題として書かれている、という条文の書き分けになります。事業者は「押さえつければ虐待、放置しても虐待」という両側から挟まれる構造にありますが、被害者が職員である場合の規定は障害者虐待防止法にはありません。

根拠:障害者虐待防止法 第2条第7項第4号

制度利用者を守ることと職員を守ることが衝突する場面は、どう裁けばよいですか。

厚生労働省の手引き2種、基準省令、障害者虐待防止法、労働契約法、労働安全衛生法、労働施策総合推進法、障害福祉分野と介護分野のハラスメントマニュアル、強度行動障害支援者養成研修テキストのいずれにも、行動を止めることが虐待とされる問題、他の利用者への行為の放置、職員への暴行の放置が同時に成り立つ状況をどう裁くかを述べた記述は見つけられませんでした。手引きが書いているのは、組織による決定、本人・家族への十分な説明、行政への相談・報告、必要な事項の記録という手続です。答えのない場面では、一人で決めず、手続を踏んで記録し、行政に相談してください。

制度公的な研修テキストで、職員自身の安全に触れた記述はありますか。

強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)テキストは、準備がされていない場合、混乱と焦りから周囲の人(支援者も含む)や本人の安全確保がすばやくできず、大きな事故に繋がるおそれがあると述べています。暴力が激しかったり凶器を持ち出したりするおそれがある場合には、誰かがすぐに駆けつけられる体制が必要かもしれないともしています。示される緊急時の一般的な手順は、危険にさらされている人をその場から遠ざけて安全を確保する、本人や周囲の人の身体に危険が及ばないように防御する、別の行動をとるように指示を出す、その行動が収まるまで見守る、の4つで、押さえ込みは含まれていません。なお同テキスト全体で「職員の安全」という語は使われておらず、職員の被害を独立した論点として扱う章立てはありません。

混乱と焦りから周囲の人(支援者も含む)や本人の安全確保がすばやくできず、大きな事故に繋がるおそれがあります。
制度利用者からの暴力について、法律上の義務は変わりますか。

労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)による改正後の第33条は、事業主に対し、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業に関係を有する者の言動であって社会通念上許容される範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めています。施行日は令和8年10月1日です。従来の告示で「望ましい」とされていた取組が、法律上の措置義務に格上げされます。措置の内容には、従来のハラスメント規定にはない「抑止のための措置」という要素が含まれています。

事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者

根拠:労働施策総合推進法(改正後 第33条・令和8年10月1日施行)

制度令和8年10月から、必ず講じなければならない措置は何ですか。

厚生労働省のリーフレットは、事業主が必ず講じなければならない措置として、毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を明確化し周知・啓発すること、内容とあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知すること、相談窓口をあらかじめ定め周知すること、担当者が適切に対応できるようにすること、事実関係を迅速かつ正確に確認すること、被害者への配慮の措置を行うこと、再発防止に向けた措置を講ずること、特に悪質な事案への対処方針をあらかじめ定め体制を整備すること、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止を挙げています。「対処の内容」の例として、管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、が示されています。対策を講ずる際には、障害者差別解消法における合理的配慮の提供義務に留意する必要があると注記されています。

管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ 等

根拠:労働施策総合推進法(改正後 第33条・令和8年10月1日施行)

制度職員が利用者から暴力を受けた場合、労災の判断はどうなりますか。

心理的負荷による精神障害の認定基準(基発0901第2号 令和5年9月1日)の別表1 項目27は令和5年9月に新設され、「施設利用者」が項目名に明記されています。「強」になる例として、顧客等から治療を要する程度の暴行等を受けた場合、暴行等を反復・継続するなどして執拗に受けた場合が挙げられています。最も重要なのは、心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為であっても、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく改善がなされなかった場合には「強」となる点です。事業者が把握しながら対応しなかったこと自体が、労災認定を「強」の側へ動かす要素として明記されています。

心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった
制度職員へのハラスメント対策で、すでに義務になっているものはありますか。

指定障害福祉サービス基準第212条第5項は、指定共同生活援助事業者に対し従業者の資質の向上のためにその研修の機会を確保しなければならないと定めています。第6項は、職場において行われる性的な言動又は優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより従業者の就業環境が害されることを防止するための方針の明確化等の必要な措置を講じなければならないと定めています。いずれも「しなければならない」であり、望ましいではありません。ただし第6項の文言は「職場において行われる…言動」であり、条文の文言だけを見れば職場内のハラスメントを指す構造です。利用者からの行為が含まれるかは解釈通知の記載によります。

指定共同生活援助事業者は、従業者の資質の向上のために、その研修の機会を確保しなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第212条第5項・第6項

制度退居の方針が固まったあと、事業所は何をしなければなりませんか。

具体的には、市町村や相談支援事業所と連携し、転居先の確保、退居後の保健医療サービス又は福祉サービスの利用の検討等を行う必要があるとされています。これは指定基準第210条の2第3項・第4項の解説として書かれたものです。「退居の理由にかかわらず」とあるため、トラブルによる退居であっても支援義務は軽くなりません。ここでも本人の希望が起点に置かれています。

利用者本人の同意に基づき退居の方針が固まった場合、共同生活援助事業者は、退居の理由にかかわらず、利用者の希望を踏まえた上で、退居後の生活環境や援助の継続性に配慮し、退居に必要な支援を行わなければならない。具体的には、市町村や相談支援事業所と連携し、転居先の確保、退居後の保健医療サービス又は福祉サービスの利用の検討等を行う必要がある。

根拠:指定障害福祉サービス基準(平成18年厚生労働省令第171号)第210条の2第3項・第4項

制度住まいを失わせる決定は、後見人の一存でできるのですか。

対象は「その居住の用に供する建物又はその敷地」で、行為は「売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分」です。この制度は、住まいを失わせる決定に家庭裁判所という第三者のチェックを噛ませる仕組みです。ただし、グループホームの利用契約の解約がこの条の「賃貸借の解除」や「これらに準ずる処分」に当たるかは、条文の文言からは決まりません。調査でも、この点を明示的に判断した公的資料は確認できていません。

(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可) 第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

根拠:民法第859条の3

制度心理的虐待に対応する刑事罰はありますか。

手引きは「障害者虐待は、刑事罰の対象になる場合があります」という柱書のもとで、5つの虐待類型それぞれに対応する条文を並べています。身体的虐待には殺人罪・傷害罪・暴行罪・逮捕監禁罪、性的虐待には不同意わいせつ罪・不同意性交等罪、放棄・放置には保護責任者遺棄罪、経済的虐待には窃盗罪・詐欺罪・恐喝罪・横領罪が挙げられています。手引きは、実際に職員が警察によって逮捕・送検された事案が複数起きているとも述べています。なお手引きは転居の強要を強要罪の例として挙げてはいません。

③ 心理的虐待:刑法第222 条脅迫罪、第223 条強要罪、第230 条名誉毀損罪、第231 条侮辱罪

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項

制度相談支援専門員は、虐待について研修を受けているのですか。

相談支援従事者初任者研修の標準カリキュラム(合計42.5時間)には、障害者虐待防止法の趣旨を踏まえる講義、障害者権利条約第16条にも基礎付けた虐待のリスク要因や共依存に関する講義、権利擁護と虐待防止に関わる法律の理解、そして虐待防止における相談支援専門員とサービス管理責任者等が果たすべき役割の理解が置かれています。とくに最後の科目は「『障害者虐待防止の手引き』等を活用し」と明記されており、国の手引きが法定研修の教材に位置づけられています。現任研修の標準カリキュラム(合計24.0時間)には「虐待」の語は出てきません。

サービス提供において利用者の権利擁護と虐待防止を図るために相談支援専門員とサービス管理責任者等が果たすべき役割を理解する。
制度相談支援専門員の研修では、虐待をどこまで学ぶことになっていますか。

内訳は、法制度の概要2.5時間、権利侵害・虐待1.0時間、各機関の役割1.0時間、実践事例報告2.5時間、演習Ⅰ3.0時間、演習Ⅱ3.0時間、総括1.0時間です。演習Ⅱの獲得目標は「具体的に事例を使い権利擁護、虐待防止の支援体制作り(地域連携)を検討する」とされています。ただし別表3は「この内容を参考に実施するものとする」とされており、初任者・現任研修の「この内容以上のものとする」とは拘束の程度が異なります。別表3には「意思決定支援」のコース(合計6時間)も置かれています。

権利侵害・虐待|虐待の定義、実情の理解を深める。|・虐待の定義、内容/・権利侵害の状況|1.0
制度相談支援事業所にも虐待防止の体制整備義務はありますか。

基本方針を定める第2条第8項も、利用者の人権の擁護、虐待の防止等のため必要な体制の整備と従業者への研修実施等を求めています。第19条第7号は運営規程に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定めることとしています。これらは令和4年3月31日までは努力義務で、令和4年4月1日から本則の義務に切り替わりました。解釈通知は、虐待防止委員会は少なくとも1年に1回は開催が必要であること、研修は年1回以上かつ新規採用時には必ず実施することが重要であることを示しています。

指定特定相談支援事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。 一 当該指定特定相談支援事業所における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。 二 当該指定特定相談支援事業所において、従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。 三 前二号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。

根拠:指定計画相談支援基準(平成24年厚生労働省令第28号)第28条の2

制度モニタリングは、必ず利用者の住まいを訪問して行うのですか。

アセスメントについても第15条第2項第7号が同様に居宅等を訪問して面接しなければならないと定めています。テレビ電話装置等での代替は、離島等の指定地域に居住し事業所との間に一定の距離があること、かつ前月又は前々月に居宅等を訪問して面接を行ったことという二重の要件をいずれも満たす場合に限られます。解釈通知は「利用者の居宅、精神科病院又は障害者支援施設等で面接を行い、その結果を記録することが必要」と敷衍しています。モニタリングの結果の記録は相談支援台帳に整備し、5年間保存しなければなりません。

相談支援専門員は、モニタリングに当たっては、利用者及びその家族、福祉サービス等の事業を行う者等との連絡を継続的に行うこととし、法第五条第二十四項に規定する主務省令で定める期間ごとに利用者の居宅等を訪問し、利用者等に面接するほか、その結果を記録しなければならない。

根拠:指定計画相談支援基準第15条第3項第2号

制度通所先や事業所で面接すれば、モニタリングとして認められますか。

理由として挙げられているのは「利用者が居所において日頃生活している様子や生活環境等を実地で確認する必要がある」ことです。なお、居宅の訪問による面接に加えて事業所等における面接を行うことは問題ないと申し添えられています。国の資料は「利用者の居宅、精神科病院又は障害者支援施設等」と列挙しており、グループホームを名指しで「居宅等」に含めた記述は、国の通知・Q&Aには見つけられませんでした。Q&Aの理由づけはグループホームが居所であるという整理と整合的に読めますが、そう明記した国の文書は確認できていません。

利用者が居所において日頃生活している様子や生活環境等を実地で確認する必要があるため、障害福祉サービス事業所等の一時的な滞在場所のみを訪問して面接を行う場合、適切にアセスメント又はモニタリングが行われたものとは認められない。

根拠:指定計画相談支援基準第15条第3項第2号

制度グループホーム利用者のモニタリングの標準期間は何か月ですか。

障害者総合支援法施行規則第6条の16は、各号に定める期間を勘案して市町村が必要と認める期間とする、という組み立てになっています。日中サービス支援型は第4号イに列挙されており3月間、65歳以上で介護保険の居宅介護支援等を利用しない者は第4号ロにより3月間です。支給決定又はその変更によりサービスの種類・内容・量に著しく変動があった者は第1号により1月間(利用開始日から3月以内に限る)とされています。解釈通知は、日中サービス支援型について利用者の意思確認を適切に行う必要があることから他の類型より短く3月間としている、と説明しています。

五 …療養介護、重度障害者等包括支援及び施設入所支援を除く障害福祉サービスを利用する者若しくは地域定着支援を利用する者(いずれも前各号に掲げる者を除く。)… 六月間

根拠:障害者総合支援法施行規則(平成18年厚生労働省令第19号)第6条の16

制度サービス担当者会議は、どういうときに開かれるものですか。

条文は「サービス担当者会議……の開催等により」計画案の内容を説明し、利用者の生活に対する意向等を改めて確認したうえで意見を求める、という構成です。「担当者」は「当該変更を行ったサービス等利用計画案に位置付けた福祉サービス等の担当者」と定義されています。この規定は、モニタリングを踏まえた計画の変更にも第15条第3項第3号により準用されます。サービス担当者会議等の記録は相談支援台帳に整備し、5年間保存しなければなりません。

相談支援専門員は、支給決定又は地域相談支援給付決定を踏まえてサービス等利用計画案の変更を行い、指定障害福祉サービス事業者等、指定一般相談支援事業者その他の者との連絡調整等を行うとともに、サービス担当者会議……の開催等により、当該サービス等利用計画案の内容について説明を行うとともに、当該利用者の生活に対する意向等を改めて確認した上で、担当者から、専門的な見地からの意見を求めなければならない。

根拠:指定計画相談支援基準第15条第2項第12号

制度グループホーム側は、サービス担当者会議に出るべきですか。

ガイドラインは続けて、相談支援専門員と共同生活援助事業者の関係は一方通行の関係にはなく、事業者からも相談支援事業所に積極的に働きかけるなど双方向のやり取りを行う関係だと述べています。モニタリング時についても、モニタリング結果の共有や、サービス担当者会議と個別支援会議の合同開催又は相互の会議への出席が「必要である」と書かれています。また、他の利用者の個別支援計画を流用することは認められないとも明記されています。会議への事業者参加は、ガイドライン上、想定された前提として書かれています。

また、サービス管理責任者は、相談支援専門員が作成したサービス等利用計画の内容を踏まえた個別支援計画の作成を可能とするため、相談支援事業所が実施するサービス担当者会議に参加し、利用者に係る必要な情報を共有するなど、相互連携を図る必要がある。

根拠:指定障害福祉サービス基準第58条(第213条により準用)

制度相談支援専門員が特定の事業所を勧めることは、認められていますか。

基本方針である第2条第4項も「特定の種類又は特定の障害福祉サービス事業を行う者に不当に偏ることのないよう、公正中立に行われるものでなければならない」としています。第26条第1項は、事業者や管理者が相談支援専門員に対して特定のサービスを位置付けるべき旨の指示等を行うことも禁じています。第3項は、特定の事業者のサービスを利用させることの対償として金品その他の財産上の利益を収受することを禁じています。第15条第2項第4号は、利用者等によるサービスの選択に資するよう、地域の事業者に関するサービスの内容や利用料等の情報を利用者又はその家族に適正に提供しなければならないとしています。

2 指定特定相談支援事業所の相談支援専門員は、サービス等利用計画の作成又は変更に関し、利用者等に対して特定の福祉サービス等の事業を行う者等によるサービスを利用すべき旨の指示等を行ってはならない。

根拠:指定計画相談支援基準第26条第2項

制度体験利用を受け入れる事業所は、今の事業所に照会してよいのですか。

これは共同生活援助のサービス管理責任者の業務を定めた条文の第1号で、文末は「行うものとする」です。条文上、体験先の事業者が現在の事業者へ照会することが想定された業務として書かれています。共同生活援助ガイドラインも、アセスメントに当たっては、利用者が利用している他の障害福祉サービス事業者等、利用者を取り巻く関係者と連携して丁寧に行うことが重要だとしています。なお、関係機関に利用者や家族の情報を提供する際は、あらかじめ文書により同意を得ておかなければならないとされています。

一 利用申込者の利用に際し、その者に係る指定障害福祉サービス事業者等に対する照会等により、その者の身体及び精神の状況、当該指定共同生活援助事業所以外における指定障害福祉サービス等の利用状況等を把握すること。

根拠:指定障害福祉サービス基準第210条の6第1号

制度「どこで誰と生活するか」を選ぶ権利は、法律に書かれていますか。

これは障害者権利条約第19条(a)の国内法化にあたる規定です。基本理念規定であるため直接の罰則はありませんが、指定基準・報酬・指導監督のすべての解釈基準となります。意思決定支援ガイドラインも共同生活援助ガイドラインも、この条を出発点に置いています。事業所都合で転居先を一方的に決める行為は、この「選択の機会」そのものを奪うことになります。

どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと

根拠:障害者総合支援法第1条の2

制度事業者には、法律上どんな責務がありますか。

第1項は「障害者等の意思決定の支援に配慮する」ことと「常に障害者等の立場に立って」効果的に行うことを努力義務として定めていますが、第3項は努力義務ではなく義務規定です。事業所の都合を本人の利益に優先させる行為は、この忠実義務違反を構成します。第42条第3項の違反は、法第50条第1項第3号により指定取消・効力停止の事由とされています。相談支援事業者には第51条の22が同内容を課しています。

3 指定事業者等は、障害者等の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、障害者等のため忠実にその職務を遂行しなければならない。

根拠:障害者総合支援法第42条第3項

制度「利用者の意思及び人格を尊重して」という規定は、どの条文にありますか。

共同生活援助は同省令の第16章に規定されており、第3条第1項の括弧書き「第十一章から第十六章まで」により明示的に適用対象です。第16章に個別に置かれた条文ではなく、第1章の一般原則として置かれている点に注意が必要です。第3項は、利用者の人権の擁護、虐待の防止等のための体制整備と従業者への研修実施を義務づけています。条番号を引用するときは「基準省令(平成18年厚生労働省令第171号)第3条第2項」となります。

2 指定障害福祉サービス事業者は、利用者又は障害児の保護者の意思及び人格を尊重して、常に当該利用者又は障害児の保護者の立場に立った指定障害福祉サービスの提供に努めなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第3条第2項

制度退居について定めた条文はどれですか。

これが、共同生活援助ガイドラインが「利用者以外の者の判断によるものではなく、利用者本人の希望と同意があることが必要」と解説する根拠条文です。第4項は、退居に際して利用者に適切な援助を行うとともに、保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との密接な連携に努めなければならないとしています。厚生労働省自身が、第3項・第4項を「退居に向けた支援」の条項として説明しています。なお、同一事業所内での別住居への移動を直接規律する条文は基準省令に見当たりません。

3 指定共同生活援助事業者は、利用者の退居の際は、利用者の希望を踏まえた上で、退居後の生活環境や援助の継続性に配慮し、退居に必要な援助を行い、又はこれに併せて居宅における自立した日常生活への移行後の定着に必要な援助を行わなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第210条の2第3項

制度個別支援計画を変更するとき、本人の同意はどう取るのですか。

第58条第11項により、計画の変更についても第2項から第8項までが準用されます。したがって計画変更を伴う場合は、アセスメントをやり直し、利用者を招集した会議を開いて意向を改めて確認し、文書による同意を得て、指定特定相談支援事業者等へ交付するという一連の手続が再適用されます。第6項の会議は「利用者及び当該利用者に対する〔共同生活援助〕の提供に当たる担当者等を招集して行う会議」と定義されており、本人の参加が前提です。これらを踏まずに進めれば、それ自体が基準省令違反になります。

7 サービス管理責任者は、第五項に規定する〔共同生活援助〕計画の原案の内容について利用者又はその家族に対して説明し、文書により利用者の同意を得なければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第58条第7項・第11項(第213条により準用)

制度「うちでは支援が難しくなった」という理由で退居してもらうことはできますか。

共同生活援助ガイドラインは「正当な理由」を3つ挙げています。現員から利用申込みに応じきれない場合、運営規程で主たる対象とする障害の種類を定めていてこれに該当しない者から申込みがあった場合その他自ら適切なサービスを提供することが困難な場合、入院治療が必要な場合です。なお、居宅介護等について定められた「サービス提供困難時の対応」(第13条)は、第213条の準用列挙に含まれておらず、共同生活援助には準用されません。共同生活援助の入退居は第210条の2が固有に規律します。

(提供拒否の禁止) 第十一条 指定居宅介護事業者は、正当な理由がなく、指定居宅介護の提供を拒んではならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第11条(第213条により準用)

制度入居の説明と同意は、後見人にも必要ですか。

説明すべき事項として、運営規程の概要、従業者の勤務体制、事故発生時の対応、苦情処理の体制、提供するサービスの第三者評価の実施状況等が挙げられています。これは指定基準第9条(内容及び手続の説明及び同意)の解説として書かれたものです。基準省令の条文自体も「当該利用申込者に係る障害の特性に応じた適切な配慮をしつつ」説明を行うことを求めています。なお第9条は利用開始時の規定であり、途中の転居を規律するものではありません。

利用申込み者が成年後見制度を利用している場合は、利用者に加え、成年後見人に対しても説明を行うとともに、成年後見人の同意を得る必要がある。

根拠:指定障害福祉サービス基準第9条(第213条により準用)

制度事業所の行為が問題だと思ったとき、行政はどんな権限を持っていますか。

第48条は報告や帳簿書類の提出命令、質問、立入検査の権限を定めています。第49条は基準に従った適正な運営をしていない場合の勧告、従わない場合の公表、命令を定めています。第50条第1項第11号は「障害福祉サービスに関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」を取消・効力停止の事由として置いており、他の号に当たらない行為を拾う受け皿になっています。市町村は、該当を認めるときは都道府県知事へ通知しなければならないとされており、市町村への情報提供が都道府県へつながる法定経路があります。

十一 前各号に掲げる場合のほか、指定障害福祉サービス事業者が、障害福祉サービスに関し不正又は著しく不当な行為をしたとき。

根拠:障害者総合支援法第48条・第49条・第50条

制度他の事業所の職員が、うちの利用者に働きかけている場合、虐待防止法は使えますか。

第2条第7項の柱書は「当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について行う」と限定しています。国の手引きが拡張しているのは「勤務時間外又は敷地外」という時間・場所であって、対象者の範囲ではありません。ただし第2条第4項の「障害福祉サービス事業等」には一般相談支援事業・特定相談支援事業が含まれるため、相手方が相談支援事業所として本人に関与しているのであれば適用対象になり得ます。この点は事実関係次第であり、条文だけでは決まりません。

7 この法律において「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」とは、障害者福祉施設従事者等が、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。

根拠:障害者虐待防止法第2条第7項

制度他事業所が利用者にモノを与えて誘うことを禁じた規定はありますか。

第38条第1項は、相談支援事業を行う者や他の障害福祉サービス事業を行う者又はその従業者に対し、自らを紹介することの対償として金品その他の財産上の利益を供与してはならないと定めています。第2項は逆に収受することを禁じています。相手方から本人へ直接向けられたモノの提供は、この条の文言には当たりません。相談支援事業者等を介在させた金品の授受があれば当たり得ます。

(利益供与等の禁止) 第三十八条 指定居宅介護事業者は、一般相談支援事業若しくは特定相談支援事業を行う者若しくは他の障害福祉サービスの事業を行う者等又はその従業者に対し、利用者又はその家族に対して当該指定居宅介護事業者を紹介することの対償として、金品その他の財産上の利益を供与してはならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第38条(第213条により準用)

制度住まいを選ぶことは、条約ではどう位置づけられていますか。

日本は本条約を批准しており、平成26年1月20日に公布されています。事業所が転居先を一方的に決める行為は、この「選択する機会」そのものを奪います。「特定の生活施設で生活する義務を負わないこと」は、特定のホームへの居住を指定することを否定します。障害者総合支援法第1条の2の「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され」は、本条(a)の国内法化にあたります。ここに引いた条文は、厚生労働省の共同生活援助ガイドライン第2章に条約の条文として引用されているものです。

(a) 障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。
制度国は、住まいの意思確認についてどんな制度改正をしましたか。

共同生活援助ガイドラインは、令和4年9月の国連の総括所見を受けてこれらの改正がなされたと説明しています。国が採った手段は説得ではなく、意向を確かめることと、見学・体験の機会を作ることです。これは、体験利用によって本人に選ばせた意思決定支援ガイドラインの具体例とも一貫しています。言葉で押し切る手法は、国が示した方向とは逆にあります。

これを受け、障害者支援施設の入所者に対する地域移行等に係る意向確認が義務化されるほか、入所者への通所サービスやグループホームの見学等の動機付け支援に加算が新設されるなど、本人の意向に沿った生活を実現するための支援を後押しするような報酬改定がなされている。
制度住み替えの手続について、他分野に参考になる定めはありますか。

同指針は、設置者側の契約解除の条件を「信頼関係を著しく害する場合に限る」など入居者の権利を不当に狭めないものとすることも求めています。「一定の観察期間を設けること」は、即断即決で移させないという手続保障であり、後見事務ガイドラインの「一定期間見守り」と同じ発想です。分野は異なりますが、事業者側の事情による居室・ホームの変更に手続を課すという構造は共通しています。障害福祉のグループホームに同旨の明文指針は調査では見当たらず、共同生活援助ガイドラインが「一方的に解約を行うことは……避けなければならない」と同趣旨を述べています。

イ 医師の意見を聴くこと。 ロ 本人又は身元引受人等の同意を得ること。 ハ 一定の観察期間を設けること。
制度入居前の体験利用は、どう位置づけられていますか。

共同生活援助ガイドラインは、実際に生活の場を見たり具体的な体験をしたりすることで本人が確認できることが重要であるとして、見学や体験利用の機会を提供することが望ましいとしています。体験利用は施設入所者や入院中の者に限らず、自宅で家族と同居している者も利用できます。体験利用を行う場合は通常の入居と同様に個別支援計画を作成しなければならないとされています。すでに入居している他の利用者の処遇に支障がないように留意することも求められています。

3 指定共同生活援助事業者は、入居前の体験的な利用を希望する者に対して指定共同生活援助の提供を行う場合には、共同生活援助計画に基づき、当該利用者が、継続した指定共同生活援助の利用に円滑に移行できるよう配慮するとともに、継続して入居している他の利用者の処遇に支障がないようにしなければならない。

根拠:指定障害福祉サービス基準第210条の5第3項

制度体験利用は何日まで利用できますか。

あわせて、市町村においては支給決定に際し必要性等を十分に勘案して判断されたい、とされています。体験利用は支給決定を伴うものとしてQ&Aが記述している点が重要です。報酬上の算定要件として求められているのは、継続的な利用に移行するための課題、目標、体験期間及び留意事項等を共同生活援助計画に位置付けることです。なお告示本文の文言そのものは調査で確認できておらず、この日数はQ&Aの答において確認したものです。

○ 各々、連続30日以内かつ年50日以内の算定が可能であるが、市町村においては、支給決定に際し、必要性等を十分に勘案して判断されたい。
制度それは高齢者の話で、障害のある人には関係ないのでは

米国カリフォルニア州法は「依存成人」を、18歳から64歳の、通常の活動を行う能力または自らの権利を守る能力を制限する身体的・精神的制約を有する者と定義し、身体障害・発達障害のある者を含むと明記しています。自立生活をしているかどうかは問いません。したがって同州の不当な影響力の規定は、高齢者だけでなくグループホーム利用者にも及びます。これは米国の州法であり、日本の法令上の根拠ではありませんが、「高齢者虐待の話だから関係ない」という反論を封じる材料です。

'Dependent adult' means a person, regardless of whether the person lives independently, between the ages of 18 and 64 years who resides in this state and who has physical or mental limitations that restrict his or her ability to carry out normal activities or to protect his or her rights

根拠:California Welfare and Institutions Code 15610.23(米国カリフォルニア州法)

制度米国の連邦法には、不当な影響力の定義はありますか

米国連邦の高齢者司法法は、虐待を「身体的または心理的な危害の故意の加害、あるいは必要不可欠なニーズを満たすため、または身体的・心理的危害を避けるために必要な物品やサービスの故意の剥奪」と定義しています。搾取の定義にはケア提供者や受託者による不正・不法・無権限・不適切な行為が含まれます。ただしこの連邦法は60歳以上を対象とし、不当な影響力の定義規定を置いていません。障害のある成人への適用と不当な影響力の明文化は州法の側にあり、「連邦法が明文で禁じている」とは言えない点に注意が必要です。これは米国の法律であり、日本の法令上の根拠ではありません。

The term 'abuse' means the knowing infliction of physical or psychological harm or the knowing deprivation of goods or services that are necessary to meet essential needs or to avoid physical or psychological harm.

根拠:Elder Justice Act, 42 U.S.C. 1397j(米国連邦法)

制度施設のなかでは、どの類型の虐待が多いのですか

米国の全国高齢者虐待センターは、施設内における虐待の類型別発生率として、心理的33.4%、身体的14.1%、経済的13.8%、ネグレクト11.6%、性的1.9%という数値を示しています。地域在住の被害者申告に基づく数値(心理11.6%、身体2.6%)とは桁が違い、これは職員側の申告に基づく数字である点が重要です。同じ虐待発生率でも、誰に聞いたかで数字が変わることになります。自事業所の自己点検アンケートを設計する際に踏まえるべき差です。これは米国の公的定義集であり、日本の法令上の根拠ではありません。

制度英国の「威圧的支配罪」は、事業所の行為にも使えますか

英国の重大犯罪法2015第76条は、繰り返しまたは継続的に支配的・威圧的な行動をとり、深刻な影響を与えた場合を犯罪としています。ただし要件のひとつに、当事者が personally connected であること、すなわち現在・過去の配偶者、シビル・パートナー、婚約者、親密な関係にある者、同じ子の親、親族であることが定められています。誤用注意として、サービス提供事業者と利用者はこれに当たらず、この罪は事業所職員による支配を直接には捕捉しません。「英国では coercive control が犯罪だから事業所の行為も犯罪だ」と言うのは誤りです。事業所の行為を捉えるのは、行動綱領や成人保護制度の側です。これは英国の法律であり、日本の法令上の根拠ではありません。

at the time of the behaviour, A and B are personally connected

根拠:Serious Crime Act 2015 s.76(英国)

制度悪意がなかった場合でも虐待になりますか

英国ケア法2014の法定ガイダンスは「虐待またはネグレクトは、故意によるものであることも、過失または無知の結果であることもある」と定めています。したがって「悪意はなかった」という説明は、虐待の否定にはなりません。同ガイダンスは自治体に対し、何が虐待やネグレクトを構成するかについて自らの見方に縛られるべきではなく、常に個別事案の状況を検討すべきだとも述べています。これは英国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありませんが、意図ではなく行為と結果で見る枠組みの実例です。

Abuse or neglect may be deliberate, or the result of negligence or ignorance.

根拠:Care and Support Statutory Guidance(Care Act 2014)14.7項(英国)

制度個人の資質ではなく、組織の運用が問題ということはありますか

英国ケア法2014の法定ガイダンスは、施設や特定のケア現場におけるネグレクトと劣悪なケア慣行を、施設的虐待(現行版では組織的虐待)という類型に位置づけています。これは単発の出来事から継続的な不適切処遇までに及ぶとされ、組織の構造・方針・手続・慣行の結果としての専門的実践の劣化を含みます。個人の資質ではなく運用ルールそのものを虐待の発生源とする概念です。ホームの「うちのルール」として交換条件型の運用が制度化されていれば、この類型に当たります。なお版によって用語が異なり、2014年6月版は Institutional abuse です。これは英国のガイダンスであり、日本の法令上の根拠ではありません。

Institutional abuse – including neglect and poor care practice within an institution or specific care setting like a hospital or care home, for example. This may range from isolated incidents to continuing ill-treatment.

根拠:Care and Support Statutory Guidance(Care Act 2014)第14章(英国)

制度虐待をする職員は、特別な人なのでしょうか

世界保健機関のファクトシートは、ナーシングホームや長期ケア施設において、職員の3人に2人(64.2%)が過去1年間に何らかの虐待を行ったと申告していると報告しています。内訳は心理的32.5%、ネグレクト12.0%、身体的9.3%、性的0.7%です。自己申告であるがゆえに重い数字で、虐待をする人は特別な人ではないと伝える際の国際的根拠になります。ネグレクト12.0%が身体的虐待9.3%を上回る点も、類型別統計の読み方に示唆があります。地域在住では6人に1人(15.7%)が被害を受けているとされます。これは国際機関の統計であり、日本の法令上の根拠ではありません。

制度「不適切な保育」という言い方は、いまも使われていますか

こども家庭庁と文部科学省が令和7年8月に改訂した保育所や幼稚園等における虐待の防止等に関するガイドラインは、従来の「不適切な保育」「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」という概念を用いず、「虐待」の概念を軸に再整理しました。日々の行為の延長に虐待がある、と解すべきとしています。ただし自治体が従前の概念を用いることは差し支えないともされています。この改訂は、令和7年法律第29号による保育所等・幼稚園等の職員による虐待の通報義務創設(令和7年10月1日施行)に合わせたものです。保育分野のガイドラインであり、障害福祉分野の基準そのものではありません。

根拠:児童福祉法(令和7年法律第29号による改正)

制度児童虐待の相談対応件数は、いま何件くらいですか

こども家庭庁が公表した令和6年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数は223,691件で、令和5年度の225,509件から減少しました。平成2年度は1,101件で、統計開始以来ほぼ一貫して増加してきましたが、今回は前年度割れとなっています。虐待種別の内訳は、心理的虐待133,024件(59.5%)、身体的虐待52,535件(23.5%)、ネグレクト35,612件(15.9%)、性的虐待2,520件(1.1%)です。経路別では警察等が115,644件(51.7%)で最多となっています。なお平成27年度から令和3年度の件数は一部自治体から訂正の報告があり今後訂正予定と注記されています。児童分野の統計です。

制度障害者虐待は、全国でどのくらい判断されていますか

厚生労働省が令和6年12月に公表した都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等の調査結果によれば、令和5年度の障害者福祉施設従事者等による障害者虐待は、相談・通報5,618件、虐待判断1,194件、被虐待者2,356人でした。養護者による障害者虐待は相談・通報9,972件、虐待判断2,283件、被虐待者2,285人です。参考として、使用者による障害者虐待は都道府県労働局への通報1,512事業所、虐待が認められた447事業所、被虐待者761人となっています。なお障害児入所施設の入所児童については、児童福祉法の被措置児童等虐待の枠組みとの適用整理が必要です。

根拠:障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)

制度都道府県は、施設内虐待の結果を公表しているのですか

児童福祉法第33条の16は、都道府県に被措置児童等虐待の状況を毎年度公表する義務を課しています。たとえば千葉県は、虐待と認められた事案を年度・種別別に公表し、令和6年度は身体的虐待2件、令和5年度は性的虐待1件などと記載し、県が講じた措置として改善指導や里親認定登録の抹消を挙げています。兵庫県は届出・通告件数と虐待認定件数を年度別に公表しており、令和7年度は届出等8件・認定2件などとしています。ただしいずれも個別事例の詳細な記述はなく、兵庫県は具体的事例の内容を非公表としています。公表の粒度が自治体によって異なることが分かります。

根拠:児童福祉法第33条の16

制度瀬戸市に障害者虐待防止センターはありますか

愛知県が公表する令和8年度市町村障害者虐待防止センター等連絡先(令和8年4月1日時点)は、センター未設置の自治体は市役所・町村役場の虐待相談窓口を掲載していると凡例に記しています。瀬戸市の欄には「瀬戸市障がい者相談支援センター 0561-84-0606 瀬戸市追分町64番地の1(瀬戸市役所2階)」とのみ記載され、専用名称のセンターはありません。近隣の尾張旭市・豊明市・日進市・長久手市には専用名称のセンターが記載されています。また、瀬戸市例規集の第9類第2章「社会福祉」の全77件に、虐待・権利擁護・成年後見を冠する例規は1件もなく、市議会の全会議録にも「虐待防止センター」の語は1件も出現しません。ただし要綱が例規集に登載されない内規である可能性もあり、断定はできません。

瀬戸市障がい者相談支援センター 0561-84-0606 瀬戸市追分町64番地の1(瀬戸市役所2階)

根拠:障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律 第32条

制度瀬戸市で虐待対応を担っているのは、どの部署ですか

瀬戸市行政組織規則は、社会福祉課障害福祉係の事務分掌として、障害者の福祉に関すること、障害者の差別解消及び虐待防止に関すること、障害者に係る成年後見制度に関すること、障害認定審査会に関することなどを列挙しています。瀬戸市の障害者虐待対応の例規上の根拠は、この事務分掌の1行にとどまり、障害者虐待防止法第32条の市町村障害者虐待防止センターの設置要綱に相当する例規は公開されていません。対照として、高齢者福祉課地域支援係の分掌には高齢者の虐待防止に関することが置かれています。

(2) 障害者の差別解消及び虐待防止に関すること。

根拠:瀬戸市行政組織規則

制度瀬戸市の計画には、虐待防止についてどう書かれていますか

『瀬戸市障害者福祉基本計画(第7次)』64ページには「(2)虐待防止体制の構築」の項が置かれ、障害者虐待に関する迅速・確実な対応に向け普及啓発の充実を図り、地域全体で見守り対応できる体制づくりを関係機関と連携し構築するとしています。推進に向けた取組として、事業所への法の解釈等の周知徹底、相談窓口の周知、通報があった場合の保護と虐待者への指導・助言等の迅速な対応、事業所向け虐待防止研修会の定期開催が挙げられています。これが瀬戸市の公開資料のなかで障害者虐待対応について最も具体的な記述ですが、受理後の手順・事実確認の方法・期限・様式は示されていません。

◆虐待の通報があった場合は、虐待を受けた人の保護や、虐待者への指導・助言等、迅速に対応します。
制度瀬戸市の障害理解ハンドブックに、虐待の記述はありますか

瀬戸市の障害理解ハンドブック(全16ページ)は完全な画像PDFのため、全ページを画像化して目視確認しました。その結果、虐待・障害者虐待、権利擁護、通報、成年後見、身体拘束、差別、合理的配慮、相談窓口、センター、尊厳、意思決定のいずれの語も1箇所もありませんでした。障害種別ごとの各ページは、障害の定義、日常生活における困りごと、あるとうれしい支援・配慮の3ブロックのみで構成されています。記載されている連絡先は瀬戸市役所社会福祉課の電話・FAXのみです。これは市民向けの障害理解啓発冊子であり、虐待の通報・対応を扱う文書ではありません。

制度瀬戸市議会で、虐待対応の体制はどう説明されてきましたか

平成23年12月5日の瀬戸市議会12月定例会で、障害者虐待防止法の施行前の準備状況を問われた健康福祉部長兼福祉事務所長は、障害児を含め障害者への虐待に関しては家庭児童相談室や障害者相談事業所を中心に状況把握し、関係機関と連携して対応していると答弁しました。体制整備については、虐待への対応につき本市の場合は関係機関との連携体制ができていると考えており、今後は法施行に合わせ連絡体制や支援体制の明確化、事業所等への周知・啓発に努めたいと述べています。センターを設置するという表現は用いられていません。これが議会で説明された最もまとまった記録です。

今後は、法施行に合わせ、連絡体制や支援体制の明確化、そして、事業所等への周知、啓発に努めてまいりたいと考えています。
制度瀬戸市の障害者虐待の件数は、過去にどう答弁されていますか

平成23年12月5日の瀬戸市議会で、社会福祉課長は、件数について正確に把握しているわけではないと断ったうえで、過去10年間という中で見ると、障害児で2件、障害者の枠で1件あったことを確認していると答弁しました。障害児の件は児童でもあるため家庭児童相談室の件数にも含まれ重複しているとも説明されています。なお現在の年度別の通報件数・認定件数・類型別・虐待者区分は、国への年1回の報告資料に記載されていますが市サイトには掲載されておらず、公開資料からは取得できません。

過去10年間という中で見ますと、障害という、障害児であったり障害者という枠の中では、障害児で2件、それから、障害者の枠で1件あったことを確認しております。
制度瀬戸市の「障害者虐待防止支援」という予算は何ですか

瀬戸市議会の委員会答弁によれば、平成25年度から予算計上されている「障害者虐待防止支援」は、虐待の被害者となった障害者の安全のために居室を確保するための費用です。緊急避難場所の確保を目的としたもので、センターの設置・運営やマニュアル整備の予算ではありません。平成26年度決算では執行額がゼロであったことが委員から確認されています。名称から体制整備の予算と誤解されやすい項目です。

障害者虐待防止支援ということで、これにつきましては、虐待の被害者となった障害者の安全のために居室を確保するという費用を計上させていただいております
制度近隣の市には、虐待対応マニュアルがありますか

尾張旭市は「尾張旭市障害者虐待防止対策事業実施要綱」(平成24年9月19日制定)を例規集で公開し、その第5条第1項で障害者虐待防止センターの機能を健康福祉部地域福祉課が果たすと定めています。あわせて『尾張旭市障がい者虐待防止マニュアル』(令和8年4月改訂版・全32ページ)を市サイトで公開しており、養護者による虐待、障害者福祉施設従事者等による虐待、使用者による虐待の各章にそれぞれ対応フローチャートを備えています。瀬戸市は令和4年度に、この尾張旭市と合同で事業所向け虐待防止研修を実施しています。なお尾張東部圏域5市1町で共同作成された障害者虐待マニュアル・フロー図・要綱は、今回の調査では確認できませんでした。

根拠:尾張旭市障害者虐待防止対策事業実施要綱

制度瀬戸市は、事業所向けの虐待防止研修をやっていますか

令和5年度第2回瀬戸市障害者地域自立支援委員会(令和5年12月1日)の議事録で、事務局は、虐待防止については瀬戸市障がい者相談支援センターと連携し、事業所に対する研修会を、昨年度は尾張旭市と合同で、今年度は単独で実施する予定であると述べています。あわせて「管内でも問題となった事例がございましたので、ここについては、正直申し上げて肝入りの事業として強化している」と説明しています。また、啓発用パンフレットを前年度に調達したので今後配布していくとも述べられています。子どもにも分かりやすい内容かという問いには、特別そういったことはないとしたうえで、教育委員会と相談しながら出前講座のテーマを虐待の方向にしていくことを視野に検討したいと答えています。

管内でも問題となった事例がございましたので、ここについては、正直申し上げて肝入りの事業として強化している
制度瀬戸市の相談支援体制について、課題は指摘されていますか

瀬戸市障害者地域自立支援委員会の議事録には、相談体制に関する発言が繰り返し現れます。令和3年度は事務局が、サービス等利用計画・障害児支援利用計画の課題として計画作成できる相談支援専門員の不足を挙げ、資格取得に相当の実務経験が必要であること、実務でも利用者本人の意向確認や地域の事業所の把握など相当な知識や対応能力が必要であることが不足につながっていると述べています。令和6年度第2回では委員長が、相談件数が年々増加し内容も多種多様になっており、相談員の負担もどんどん大きくなってきていると述べています。令和5年度第3回でも、権利擁護に関する支援は数は少ないかもしれないが非常に重要な項目だと指摘されています。

相談員の方の負担もどんどん大きくなってきており、ご要望も多くいただいているのかな

虐待の5つの分け方

障害者虐待防止法は、虐待を5つに分けています。下の定義は、条文そのままです。
あわせて、厚生労働省の手引きが掲げている「どの罪に当たりうるか」の対応も記しました。

身体的虐待 第2条第7項第1号

障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。

あてはまる例
平手打ちをする/つねる/殴る/蹴る。入浴時、熱い湯やシャワーをかけてやけどをさせる。車いすやベッドなどに縛り付ける。ミトン型の手袋を付ける。つなぎ服を着せる。職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する。自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
問われうる罪
殺人罪(刑法第199条)、傷害罪(第204条)、暴行罪(第208条)、逮捕監禁罪(第220条)

性的虐待 第2条第7項第2号

障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること。

あてはまる例
キス、性器等への接触、性交。性的行為を強要する。排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する。人前で排泄行為をさせる、おむつ交換をする。わいせつな映像や写真を見せる。
問われうる罪
不同意わいせつ罪(刑法第176条)、不同意性交等罪(第177条)

心理的虐待 第2条第7項第3号

障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

あてはまる例
手引きは6つに分けています。①威嚇的な発言・態度/②侮辱的な発言・態度(「バカ」「あほ」「死ね」、子ども扱いする呼称)/③存在・尊厳を否定、無視する発言・態度/④意欲や自立心を低下させる行為(職員の都合を優先した介助)/⑤交換条件の提示/⑥心理的に障害者を不当に孤立させる行為。
問われうる罪
脅迫罪(刑法第222条)、強要罪(第223条)、名誉毀損罪(第230条)、侮辱罪(第231条)

放棄・放置 第2条第7項第4号

障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する他の障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける他の障害者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。

あてはまる例
5類型のうち、これだけが「しないこと」を明文で虐待と定めています。食事や入浴、必要な介助を行わない。病気やけがの受診をさせない。そして、他の利用者による行為を放置することも、ここに含まれます。
問われうる罪
保護責任者遺棄罪(刑法第218条)

経済的虐待 第2条第7項第5号

障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること。

あてはまる例
本人の年金や預貯金を勝手に使う。立場を利用して「お金を貸してほしい」と頼み、借りる。本人が負担すべきでない費用を負担させる。
問われうる罪
窃盗罪(刑法第235条)、詐欺罪(第246条)、恐喝罪(第249条)、横領罪(第252条)

罪名の欄について。これは、厚生労働省の手引きが掲げている対応表を写したものです。その行為が必ずその罪になる、という意味ではありません。刑事責任を問うかどうかは捜査機関と裁判所が、虐待にあたるかどうかは市町村などの行政が、それぞれ別に判断します。

この頁について

ここに載せているのは、国・都道府県・市町村が公表している資料の本文を確かめたうえで、その言葉のまま引いたものだけです。出典は頁番号まで記しています。

個別の事案が虐待にあたるかどうかを判断するのは、市町村などの行政です。この頁は、その判断に代わるものではありません。迷われたときは、確信がなくてもお住まいの市町村へご相談ください。「虐待を受けたと思われる」段階で通報する義務があり、事実が確認できていなくても通報できるとされています。

事業所名・法人名・個人名は載せていません。自治体名は、公表資料に記載のあるものだけ記しています。

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